032「魔素と精霊(スピリタス)」
「ではまず最初に⋯⋯⋯⋯大まかにだが大気から魔力を供給できるようになるには大気に存在する『魔素』を感じる必要がある」
「魔素?」
「ああ。魔素とはこの世界のあらゆるものを構成している物質のことを言う。そして、体内に魔力を持つ者がその『魔素』を取り込むことで体内で『魔力』へと変換される」
「魔素⋯⋯体内で⋯⋯魔力に変⋯⋯換⋯⋯」
私も含めた皆はハヤトの言っていることがまだ理解できずにいた。今まで魔力というのは『体内で作られるもの』としか教わっていなかったのだ。それがこの世界の常識だったのだ。
しかし、ハヤトの言う事が本当に可能ならば魔術士ランキングは確実に上がるだろう。
すると、D組の生徒で『天才』として知られるビンセント・ミケランジュが質問を投げかける。
「ハヤト。本来、体内の魔力は魔力量に限界があるのだけど、ハヤトの言っていることが本当なら⋯⋯⋯⋯いつでもどこでもいくらでも魔力を補充できるということになるがその認識で合っているのか?」
「⋯⋯基本的にはその通りだ」
「「「「す、すげえ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」」」」
ビンセントが皆が感じた疑問にハヤトはすぐに肯定した。そのことで皆のテンションがさらに上がる。
「だが⋯⋯」
「だが?」
「だが、さっきも言ったが個人差がある。その個人差が出るのは『構成元素への理解』や『魔素を取り込むイメージ力』などいろいろあるが、その中で特に重要なものの一つに『精霊の認識』がある」
「『精霊』? な、なんだ、それは?」
「これだ⋯⋯」
「「「「!!!!!!」」」」
そう言うと、ハヤトの体から強烈な光が迸る。突然の光に耐えきれず一度目を瞑った。
そして、光が弱くなったのを感じ、目を開けると、
「な⋯⋯何⋯⋯これ?」
「「「「!!!!!!!」」」」
目を開けると、周囲には手の平に乗るくらいの背中に羽を付けた小さな人間のような生物? が所狭しと飛び回っていた。
「これが精霊だ」
「す、すごい⋯⋯」
ビンセント・ミケランジュが精霊の姿に目を瞬く。
「な、何なの⋯⋯この⋯⋯生き物? も、もしかして⋯⋯か、神様?」
私は感じたままの言葉でハヤトに尋ねた。
「いや神ではない。これはこの世界を創り維持している⋯⋯いわば『エネルギー体』のようなものだ」
「エネルギー体?」
「ああ。この世界にある生物や植物、水、火、空気⋯⋯といったすべてを創り出すために必要な素材のようなものだ」
「素材? ということは生き物ではないのか?」
ビンセント・ミケランジュが横から話に入ってきた。
「そうだな⋯⋯。すごく説明が難しいがあえていうなら『生き物であり素材』という感じだ」
「い、生き物であり素材?」
「ああ。精霊には明確な意思が存在するが、俺たち生き物とは概念が異なる『意思』を持っている」
「概念が異なる意思?」
「ああ。精霊の生きる目的は、この世界の『糧』になることだ」
「せ、世界の糧⋯⋯っ?!」
「ああ。精霊が『世界の糧』として必要だと判断されれば彼らは魔素を提供する」
「ちょ、ちょっと待って!『世界の糧』って具体的に何なのよ?!」
「この世界にとって必要なものかどうか、だ」
「!? こ、この世界にとって必要な⋯⋯もの⋯⋯?」
「この世界にとっての必要⋯⋯⋯⋯具体的には『この世界をこれからも維持していくのに必要な存在かどうか』ということだ」
「「「「!!!!!」」」」
次々とハヤトの口から出てくる聞いたことのない話に皆がついていけずにいた⋯⋯⋯⋯一人を除いては。
「⋯⋯なるほど。つまり言い方を変えれば、世界を破滅に導くような存在でなければ精霊にとって必要な存在として認められる、そういうことだな?」
「そうだ。さすがだな、ビンセント」
ビンセント・ミケランジュはすぐに理解したようだ。
嘘でしょ? 全く理解についていけないんだけど?
「つまり⋯⋯⋯⋯ほとんどの人間なら精霊に『不要』とは思われない。そうだろ、ハヤト?」
「ああ、そうだ」
「ということは、精霊に『必要』かどうかが難しいのではなく、その精霊をちゃんと実感・認識できるかどうかが難しいということだな?」
「その通りだ」
「ふん、やはりな!」
ビンセント・ミケランジュが自身の考察が正しかったことに少しテンションが上がった。いや、実際この男の考察はすごいと思う。
「この『精霊の認識』が一番難しいのだが、その認識をしやすくする方法を俺は編み出した。それが最初に言った『世界の構成と摂理の理解』になる。というわけで早速その話を始めるぞ?」
ハヤトは「さっさと進めるぞ?」くらいの勢いで『世界の構成と摂理』について話を始めた。




