027「お昼休み -ティアラ・ヴァンデラス視点 前編-」
私はティアラ・ヴァンデラス。
午前の課題演習は気疲れで正直演習以上に疲れた。
気疲れの原因はもちろん⋯⋯、
「さあ、ティアラさん! 二人で組手演習をやりましょう!」
「あ、あの⋯⋯カルロさん?」
「私は現在B級魔術士ですが今年中にはA級魔術士へと昇格予定です。なので、是非、ティアラさんに私のお相手をしていただきたい!」
「は、はあ⋯⋯」
正直、カルロは強引なのでとても苦手ではあるのだが根が真面目なので無碍に断りづらい。
それにA組は魔術士ランキングが最低でもB級魔術士以上となっているのでほとんどがB級魔術士で占めている。その中でA級魔術士は私を含め三人しかおらず、しかもその内の二人が組手演習をしている為、カルロの相手ができる他のA級魔術士は私しかいなかった。
「私は今年絶対にティアラさんと同じA級魔術士へと昇格します。だから是非! お相手を!」
「わ、わかりました。わ、私でよかったら⋯⋯」
「ありがとうございます!」
カルロが満面の笑みで感謝の言葉をくれる。四大公爵だから仕方ないのかもしれないけど、自分より下位の人に対しては態度悪いのよね、カルロは。そこさえなければ割と悪い奴ではないんだけど。
「では、行きますよ、ティアラさん」
「はい。とりあえず体術から始めますか?」
「ええ、結構です」
「わかりました。では、いつでもどうぞ」
私は特に構えることなく立っている⋯⋯ようにしているが実際は魔力を体内に瞬時に巡らせ身体能力を引き上げていた。
「行きますっ!」
カルロが身体強化をした加速で私に向かってくる。ちなみに組手演習では殴ったり蹴ったりしても傷がつかないようにできる魔道具のグローブとフットグローブをはめている。
カルロが超加速した拳と蹴りを連続で放ってくる⋯⋯⋯⋯が、
「甘い!」
「うわっ?!」
バシッ!
私はカルロの蹴りをいなしながら右手で軸足を払う。結果、蹴りの勢いをそのまま利用して払ったのでカルロの体が宙に浮く。そして、その宙に浮いたカルロを、
「せいっ!」
「ぐはっ!!」
ドン!
左の掌底を胸に当て吹き飛ばした。
「「「「おおおおおおおーーーーっ!!!!!」」」」
いつの間にか、私とカルロの組手をクラスの皆が見ていたようで声が上がった。
「かっこいい、ティアラ!」
「すごいです、ティアラさん!」
イザベラとマリーの声も聞こえる。
「ふー⋯⋯いや、さすがです、紅蓮の乙女」
「そ、その呼び方はやめてくださいっ!?」
まったく誰がこんなあだ名つけたのよ! もうちょっと可愛らしいのがよかったのに!
「いえいえ、紅蓮の乙女という二つ名⋯⋯私はティアラさんにピッタリだと思います。男性にも負けない素晴らしい力を持つ可憐な美少女⋯⋯⋯⋯惚れ直しました!」
「も、もう! やめてください!」
皆が見ている前で堂々とそんな恥ずかしいセリフを言うカルロ。
そんな私の姿をイザベラとマリーが組手をしながら生暖かい目で見ている⋯⋯⋯⋯ニヤニヤ顔で。
結局、私は午前の演習は最後までカルロの相手をさせられた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
——お昼休み
私たちは合宿施設へと昼食のために戻る。
お昼はクラスごとにテーブルが分かれているが、私は早めに食事を終えてハヤトのいるD組へと行こうと考えていた。
「ねえねえ、ティアラ。カルロとの組手はどうだった?」
イザベラがニヤニヤしながら問いかける。
「どうって⋯⋯断れるわけがないでしょう。カルロは強引な上、しかもA級魔術士を今年取得するから相手をしてほしいって言われて他にA級魔術士がいないんだから⋯⋯」
「確かにそうですね。他の二人のA級魔術士の生徒はお互いで組手をしてましたから⋯⋯」
マリーが同情の言葉をかける⋯⋯が目はやっぱり笑っている。
「ていうか、意外とカルロとティアラ⋯⋯雰囲気よかったわよ」
「ちょっと、イザベラ? そんなこと言ってカルロと私をくっつけようとしているでしょ?」
「でも、本当に雰囲気はよかったですわよ、ティアラさん」
「もう! マリーまで!」
二人は結託しているのかどんどん私とカルロをくっつけようとする話をする。
「今は私、そんな相手を作る気もないし、そんな相手もいません!」
「じゃあ、ハヤト君は?」
「ハ、ハヤトは⋯⋯⋯⋯私の大切な弟です! 大切な弟なのだから私はハヤトを周囲の毒牙からこれから守っていきます!」
「ど、毒牙って⋯⋯!?」
「なるほど。ティアラさん、ブラコンとしての愛情で通すつもりですね?」
「うっ⋯⋯?!」
マリーが私のたった一言で瞬時に思惑を理解していた。鋭すぎる。
「あーなるほどー、そういうこと。『弟への愛情』という『ブラコン』という体で周囲の毒牙と言うなの恋敵からハヤト君を守るということね」
「あ、や⋯⋯⋯⋯別にそんな体とかじゃないわよ? あ、あくまで大切な弟だから守るのは当然でしょ?」
「なるほど。それならそれでこっちも遠慮なく『毒牙』を立てていくわ!」
「はい。ある意味、これは私たちからの恋敵宣言です、ティアラさん」
「うっ⋯⋯?!」
イザベラとマリーが本気の目で私に言い寄った。
「の、望むところよ」
二人の覚悟を見て、私もキュッと気を引き締めた。




