024「ハヤトの提案」
——三時間後
「で、できたーーーーっ!!!」
ハヤトとソフィア先生の指導により俺たちは全員が『魔術で魔術を弾く技』を成功させた。
「いいぞ、お前ら! やればできるではないか! 見直したぞっ!」
「「「「お、お、おおおおおおおおおーーー!!!!!!!!」」」」
その場にいたD組の生徒全員がソフィア先生の言葉に感動して思わず叫ぶ。というのも、普段からD組ということで周囲の生徒や先生からは『落ちこぼれ』と非難され、また、そのことで俺たちも『どうせ俺たちD組なんて⋯⋯』と卑屈になっていたからだ。
それが今のように先生から⋯⋯しかも生徒に厳しいソフィア先生からこんな言葉をかけられるとは思ってもいなかった為、その言葉に俺たちは興奮し感動したのだ。
「俺でもこんなに早く使いこなせることはできなかったから本当にすごいと思うぞ、お前ら」
「いや、何で上から目線なんだよっ!⋯⋯⋯⋯なんてツッコミは成立しないな。ありがとう、ハヤト! お前のおかげだよ!」
「うん、本当だよ、ハヤト君。ありがとう!」
「こんな技をこんなに早く習得できたのはお前やソフィア先生のわかりやすい指導のおかげだ! ありがとう!」
「ありがとう、ハヤト君! ソフィア先生!」
皆がハヤトとソフィア先生に熱のこもった言葉でお礼をした。
「うむ。お前たちはまだまだ強くなれるぞっ!」
ソフィア先生も若干、喜んでいるように見えたので俺たちはさらにテンションが上がる。すると、ここで、
「ソフィア先生。頼みがあるのだが⋯⋯」
「なんだ?」
ハヤトが誰もが思いもよらなかったことを口にした。
「ソフィア先生⋯⋯ぜひ、D組の副担任になってはくれないだろうか?」
「な、何っ!? 私が副担任⋯⋯だとっ?!」
「「「「お、おおお、おいいいいい〜〜〜〜!!!!!」」」」
なんだ? 何を言っているんだ、ハヤトは? A組担任のソフィア先生に何でD組の、しかも副担任になれって⋯⋯。
「俺には今教えた『魔術を魔術で弾く技』以外にもいろいろある。それを皆に教えたい。D組担任のマリア先生は魔道具の優秀な先生なので確保しておきたいが魔術スキル向上の指導にはソフィア先生のほうが優秀だ。だから、どうかソフィア先生がD組に来て魔術の授業以外でも皆に教えてほしいと願う。どうだろうか?」
「⋯⋯」
「俺は⋯⋯⋯⋯ソフィア先生が欲しいっ!」
「なっ!?」
ハヤトがどストレートに自分の願望をソフィア先生へぶつけた。
ソフィア先生はハヤトの言葉に固まっていた。正直、ソフィア先生は即答で断るどころか『ふざけるな!』と一蹴するかと思ったが、しかし以外にもソフィア先生は即答しなかった。それどころかハヤトの提案に対して考えているようだった。それに⋯⋯⋯⋯あれ?
顔、赤い?
「ハ、ハヤト・ヴァンデラス! き、貴様! つ、つまり、A組担任であるこの私をD組の、しかも副担任になってD組生徒の魔術スキル向上に手を貸せと! そして、そして⋯⋯⋯⋯私を側に置きたいと! そういうことかっ!!」
「まあ、そういうこと⋯⋯⋯⋯うん? 最後のくだりは違う⋯⋯」
「仕方ないっ! わかった! お前がどーーーしてもそこまで言うのなら『A組担任』から『D組副担任』になってやろうではないかっ!!」
「「「「えええええええ〜〜〜〜!!!!!!!!」」」」
今、俺たちの目の前で前代未聞の事案が発生した。
誰もが憧れるA組⋯⋯そんなA組の担任になるということは学院はもちろん国レベルで認められている実力者ということになるので先生たちにとっては『A組担任』というのは『名誉』にあたる。そんな『名誉職』を蹴って周囲から見放されているD組の⋯⋯しかも『副担任』になるだなんてありえない! あり得なさ過ぎだろっ!
ハヤトとソフィア先生以外の全員が目の前の事態についていけてなかった。
「ハヤト・ヴァンデラス。一つ質問だが、お前⋯⋯⋯⋯D組で何をしようとしている?」
ソフィア先生がもっともな、誰もが聞きたかった質問をハヤトにする。
「俺は自分が身につけた魔術の技をこのクラスの皆に伝授して⋯⋯⋯⋯A組と同じレベルの強さにしたいと思っている。しかも『魔術士ランキング』というのは今のままで、だ」
「な、なんだとっ!⋯⋯⋯⋯お、お前、本気か?」
「もちろんだ」
ハヤトの言葉に一瞬驚いた顔を見せたソフィア先生だったが、その後は眉間に皺を寄せてハヤトを睨み付けている
「ハ、ハヤトの奴、マジで言ってんのかよ⋯⋯」
俺も皆と同様ハヤトの言葉に耳を疑った。すると、
「ライオット」
「!? な、なな、なんだよ」
突然、ハヤトが俺に声を掛ける。
「あと、皆も聞いて欲しい。俺が身につけた技を皆も身につければA組と同じくらい強くなれると思っている。ただ、習得には困難を極めると思うが俺やソフィア先生で協力して指導すれば全員が習得できると信じている」
「ハヤト⋯⋯」
「ハヤト君⋯⋯」
皆が各々で思い思いに聞いている。
「ソフィア先生に見せたあの技だけでは無理だがそれ以外の技を身につけることができれば俺は可能だと思っている」
「ハヤト。一つ質問だが⋯⋯」
「⋯⋯ビンセント」
「「「「!!!!!!」」」」
ここであの天才ビンセント・ミケランジュがハヤトに声をかけた。皆が一気に注目する。
「個人的にお前がさっき言った『魔術士ランキングを変えないまま強くなる』というのは常識ではあり得ない⋯⋯⋯⋯いや違うな。この世界の常識にあってはならない!」
「⋯⋯」
「仮にそんなことができてしまえば⋯⋯⋯⋯常識の根底が崩れるぞ?」
「「「「????」」」」
ビンセントが真剣な表情でハヤトに問い詰める⋯⋯⋯⋯がしかし、俺たちはビンセントの言っている『世界の根底が崩れる』といった壮大な感じの意味がわからなかった。まあ、確かに今の下級魔術士の魔術士ランキングで上のクラスの相手に勝てるのはすごいことだと思うが、でも、そこまで大袈裟なことなのだろうか?
俺は堪らずビンセントに『ちょっと大袈裟じゃないか?』と質問してみた。すると、
「⋯⋯いいか、よく聞け。『魔術士ランキング』ってのはなんだ?」
「え? 魔術士ランキング? そ、それは、一人一人の持つ魔力の質とか量とかで優劣を判断しているランキングのことだろ?」
「そうだ。じゃあ、クラスが一つ違うだけでどれだけ差があるかもわかるか?」
「あ、ああ。個人差はあるとしてもクラスが一つ違うだけで、一対一であれば絶対に勝てないくらいの差はあるんだろ?」
「ああ、そうだ。いいか? ライオット⋯⋯お前今自分で言ったよな? クラスが一つ違うだけで『絶対に勝てない差』と⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯あっ!?」
「そうだ。魔術士ランキングのクラスが一つ違うだけでそれだけの差があるのにハヤトは自分の持つ技があればA組と互角に渡り合えるといったんだぞ? これがもし本当なら⋯⋯魔術の歴史が変わるぞ?」
「た、たしかに⋯⋯」
「それだけじゃない。ハヤトの言う通りなら魔力の優劣でいろいろと軋轢がある貴族と平民との間で争いが起きるかもしれない。それだけハヤトの言っていることはやばいんだよ⋯⋯」
「「「「ごくり⋯⋯⋯⋯」」」」
俺や他の皆がビンセントの説明を聞いて、ハヤトの言ったことがいかに『非常識かつ危険なもの』かを理解した。
「なるほど。お前の言っていること、にわかには信じられん」
「⋯⋯」
「にわかには信じられん⋯⋯⋯⋯が興味はある(ニヤリ)」
「ふ⋯⋯なるほど」
ソフィア先生の顔が怖いくらいに楽しげな笑顔を見せる。そして、その真意を悟ったハヤトも笑う。
「私と再度対戦しろ、ハヤト・ヴァンデラス! 今度は真剣勝負だ!」
「ああ、もちろんだ。S級魔術士のソフィア先生に俺がどこまでやれるかが良い指針となるだろう」
「ほう? 私がS級魔術士と知っていて尚、挑むと言うか。いいだろう⋯⋯お前の力試させてもらおう。悪いが今度は手加減できないぞ?」
「もちろんだ」
そう言うと二人が距離を取り構える。
「「「「⋯⋯ごくっ」」」」
今度は特別授業ではない二人の本気の戦いが始まろうとしていた。




