020「合コン計画」
「何? 恋バナ? 私たちも混ぜてよ!」
今度はシャロンとエマとリンガが輪に入ってきた。
「うっせー! 女子は黙ってろ!」
「な、何よー! べ、別にあんたに言ってるわけじゃないわよ」
「何をー!」
「な、何よー!」
来て早々、エマとグルジアが睨み合う。
「まあまあ、別にいいじゃないか、グルジア」
「ちょ、おま⋯⋯」
そう言って、俺はグルジアを押しのけ女子たちを中に入れてあげた。
「あ、ありがとうー⋯⋯ライオット」
「いえいえ」
シャロンがお礼を言う。俺はガツガツせずあくまで『紳士』に大人な対応を見せる。
グルジアはどうも女子を苦手にしているところがある。ていうか、まあ、単にガキだってことだ。俺からすれば学院生活で可愛い彼女を見つけたいと思っているから女子とのスキンシップは当然大事なイベントなのである。当然だ。グルジア以外の奴らはほとんどそうだろう。グルジアが『お子ちゃま』なだけである。
あ、いや⋯⋯ビンセント・ミケランジュも『魔道具研究厨』だからグルジアと同じ穴のムジナだな。
「ところで何の話していたの?」
「エバンスが合宿が終わった後にA組の女子たちとデートしたいってハヤトに直談判してきたんだよ」
「え! そ、それで?」
エマとシャロン、リンガの三人が俺の話に身を乗り出した。すごい食いつきだな、おい。
「まあ、A組の知り合いなどティアラ以外にはイザベラとマリーくらいだがそれでもいいなら、今度ティアラに相談してみると言った」
ハヤトが俺の後に自分でエマたちに答えた。
「「こ、これは⋯⋯合・コ・ン!?」」
「??」
エマとシャロンが『合コン』という謎の言葉を呟くや否や、リンガと三人でなぜか円陣を組んだ。
「シャロン、これはチャンスよ! 合コンに参加すればA組の三人とハヤト君の親密度がわかるわ!」
「確かに! まずは敵を知ることからよ、リンガ!」
「合コン⋯⋯て何?」
円陣を組んだ三人が元に戻ると、
「「ハヤト君、私たちも参加させて!」」
「お、おう⋯⋯?」
「「やったー!」」
エマとシャロンもエバンスと同じく直談判し参加することとなった。
「あ、あんたも⋯⋯参加するの?」
「あ? 俺が? 参加するわけないだろ! 休みの日は剣術と鍛錬の日と決まってるんだ!」
「そ、そうなんだ。そうよね⋯⋯」
「?」
エマがグルジオの返答に少し寂しそうなしぐさを見せたように見えた。
「⋯⋯フ、フン! ま、まったく、相変わらずの筋肉バカね!」
「な、何をー!」
「何? グルジオ? お前、参加しないのか?」
すると、二人の会話にハヤトが入ってきた。
「ああ」
「それは困る。俺は最初からお前を頭数に入れてる」
「な、ななな、何でだよっ!」
「いや『悪友』だろ? 当たり前じゃないか」
「うっ⋯⋯!?」
ハヤトのあまりに素直な物言いにさすがのグルジオも言葉を詰まらせる。
「プッ⋯⋯」
「な、ななな、何がおかしい、ライオット!」
「ハヤトにそこまで言われたらもう断れないだろ、グルジオ?」
「くっ! わ、わかったよ! 俺も参加⋯⋯するよ」
「ありがとう。これで決まりだな」
ハヤトが笑顔でグルジオに感謝の言葉を伝える。
「『ありがとう』なんていらねーよ! 俺たちは『悪友』なんだろ、フン!」
グルジオが最後に少しの反撃という形で悪態をついたが、もはや、それ自体がかえって可愛らしくも見えた。
グルジオ・バッカイマー⋯⋯不器用な男である。
「⋯⋯やった」
エマの小声と控えめのガッツポーズを俺は見逃さなかった。
マ、マジかよ?
ま、まさかエマの奴、グルジオのことを?
も、もしそうだとしたら『筋肉バカ』『鍛錬バカ』のグルジオに先を越される恐れが⋯⋯。
「い、いやいやいやいや、ない、ない。あのグルジオに限ってそんなこと⋯⋯」
「何がないの?」
「うわっ?! シャ、シャロン」
どうやら心の声が無意識に口から漏れていたらしい。
「い、いや、別に⋯⋯」
「ライオットも参加するんでしょ?」
「ああ、もちろん」
「そ!⋯⋯まあ、グルジオとあなたは昔からセットみたいなもんだからね」
「そういうことだ」
俺とグルジオは小さい頃からの親友で初等部、中等部といつも一緒だったからシャロンがそんなことを言うのはもっともである。ちなみにシャロンやエマ、リンガ、あと他の奴らも初等部、中等部は一緒だった連中だ。だからまあ、ハヤト以外は皆、顔見知りみたいなもんである。
あと、シャロンとは昔から何かと『ウマが合う』ので仲が良い。まあ、逆に中身もある程度知っているから恋愛感情というのはなくグルジオと同じ『悪友』に近い感じだ。
「あ、あの⋯⋯ハ、ハヤト君は⋯⋯ティアラさんとは昔から仲が良いのですか?」
「うん? ティアラと?」
「「「「!!!!!!!」」」」
突然、リンガがハヤトにど真ん中ストレートの質問をぶつけたのを見て皆が一瞬固まる。
「ん〜⋯⋯まあ、姉弟ではあるが実際、ティアラと一緒にいたのは⋯⋯⋯⋯一週間くらいか」
「え? い、一週間ですか?」
「ああ。それに最初の二日は家族でもなかったしな。ただ、ティアラは初めての友達だったからティアラに出会ったあの二日間は俺にとっては特別な二日間だ」
「と、特別⋯⋯ですか⋯⋯」
「ああ。ティアラのおかげで今ではこうやって学校にも通うことができたしな」
「そ、そう⋯⋯ですか⋯⋯」
リンガの返事に元気がなくなった。
なるほど。エマとシャロンはリンガとハヤトをくっつけさせたい⋯⋯ということか。引っ込み思案のリンガが最近積極的にハヤトに話しかけることが多いな、と思っていたがそういうことだったわけね。
俺は昔から勉強も運動も一生懸命努力するリンガに、獣人族ではあるがけっこう敬意を払っていた。なので、
「でもさ、ハヤト。今ではこうやって話せる友達がいっぱいできただろ? これは初めてだよな?」
「ああ、もちろん」
「だとしたら、俺たちにとってもお前にとってもこれからもしかしたら『特別な存在』て感じになる可能性もあるんじゃないか?」
「ああ、俺もそう思うよ」
少しばかりリンガの加勢をした。
「ほ、本当ですかっ!!」
すると、さっきまで暗くなっていたリンガの顔がパーッと明るくなる⋯⋯わかりやすい奴だ。
「もちろんだ。逆に俺もみんなにそう思ってもらえるよう努力する」
「わ、わわわ、わた、わたしも⋯⋯っ! 私もハヤト君に『大切な女性』と思われるように⋯⋯頑張るっ!!」
リンガがハヤトの下から顔を近づけ、手をグッと握りながら勢いよくハヤトに言葉をぶつける⋯⋯⋯⋯顔を真っ赤にしながら。
「リンガちゃ〜ん? ハヤト君は『大切な女性』とは言ってないよ〜?」
「えっ!? え、あ、いや、あの⋯⋯み、みにゃあぁぁあぁぁぁ〜〜!!!!」
エマがそんな野暮なことを言うとリンガが猫型獣人らしい悲鳴を上げる。
「ん?『特別な存在』も『大切な女性』も似たようなもんだ。問題ない。リンガ⋯⋯共に頑張ろう」
「!? は、はい!」
エマの野暮な茶々をハヤトが一蹴。結果、一番得をしたのは紛れもないリンガだった。
それにしても、A組のティアラさんたちに相談する前の段階でここまで話を進めても大丈夫なのだろうか? ティアラさんたちが断ればここまでの話がすべて水の泡となるのだが⋯⋯。
まあ、でも仮にA組の四大公爵のイザベラさんとベルガモット家のマリアンヌさんもハヤトに『ほの字』だとしたら、あっちとしてもD組の女性陣の状況は気になるところだろうから案外すんなり実現するかもしれないな。
そんなこんなで俺たちはハヤトの周りでワイワイ騒ぎながら目的地の演習施設へと着いた。
——余談だが、俺たちは演習施設に到着するのがあまりに遅かった為、到着するとソフィア先生から『遅いっ!』と一喝され、グーで頭を殴られた。ちなみにハヤトがまたソフィア先生に楯突かないかとヒヤヒヤしたが特に何も言わなかったので『何かソフィア先生に抗議とかしないのか?』と聞いてみると、
「するわけなかろう。実際俺たちは他のクラスよりもだいぶ遅れて迷惑をかけたではないか。当然の結果だ」
ハヤトは思っていた以上に大人だった。
正直、ハヤトに文句の一つでも言って欲しかったが正論すぎる答えが返ってきたのでぐぅの音も出なかったと同時に、自分の幼さに軽くへこんだのは内緒である。




