019「一年合同魔術演習」
——一週間後
『一年合同魔術演習』の日がやってきた。
「各クラス、点呼は済んだな。それではこれから演習についての説明をする」
今、私たち一年生は全員運動場に集まっていた。
ソフィア先生の説明によるとこの『一年合同魔術演習』は学院内で行うのではなく、ここから森の奥に行き、そこにある演習施設で演習を行うらしい。期間は三日間でその間はこの演習施設で寝泊りを行うとのことだった。
「「こ、これは⋯⋯っ?!」」
「ど、どうしたの?! 二人とも」
「一年合同魔術演習⋯⋯森の奥の演習施設⋯⋯」
「期間は三日⋯⋯その間は演習施設で寝泊り⋯⋯」
「「ちゃーーんす!」」
「⋯⋯」
二人の思惑に不安がよぎる私。
私は確かにハヤトのことは好きだと思う。だけど、それは『弟としての愛情』なのか『一人の男としての愛情』なのかはわからない。そしてそれは、ハヤトのほうも同じだと思う。少なくとも『最愛の姉』と言っている以上、身内としての愛情である可能性が高いだろう。
「⋯⋯アラ」
そんなハヤトを『男として好きになる』というのは正直怖い。だって、本気になったらハヤトの中では『最愛の姉』止まりになっている私はハヤトの恋愛対象にはならないからだ。だから、私も『姉としてハヤトのことが好き』という身内としての愛情で止めることにした。それ以上は深く考えないようにしている。だって、それは怖いことだから⋯⋯。
「⋯⋯ィアラ」
でも、そうなると私はあくまで『姉』という立場でこれからハヤトが好きになる子達が現れても横で見ているしかない。もちろん身内なのだからそれは当然のことではあるが⋯⋯でも、やっぱりハヤトが誰か別の子と付き合うことになるのは⋯⋯嫌だ。少なくとも私も『そっち側』でハヤトにアタックしての結果であれば納得もいくけど何もしないでハヤトの彼女になる子を受け入れるなんてそんなの⋯⋯たぶん無理。
そんなことを昨日からずっと考えている私は、正直、一年合同魔術演習のことなどを考える暇などなか⋯⋯、
「「ティアラ(さん)っ!!」」
「わぁ! な、何⋯⋯?」
「何、じゃないわよ! もうみんな森へと歩き出したわよ!」
「ティアラさん、心ここにあらず」
「え、あ、ご、ごめん、ごめん!」
すでにソフィア先生の話が終わっていたようで、周囲を見ると私たち以外の生徒はどんどん森へと歩き出していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「けっこう奥まで入っていくんだな」
「こんな森の奥に本当に演習施設なんてあるのかよ?」
運動場から歩いて二十分ほど経ったが目的の演習施設はまだ見えない。
「しかし、ライオットは体力があるんだな」
「ん? ああ、まあな。俺は元々グルジオと一緒で体術を磨いてきたからな。魔術に頼れない分、体を鍛えているからこれくらいどうってことないさ」
「その通り!」
「グルジオ!」
「よー、ハヤト・ヴァンデラス。昨日のソフィア先生との対決はシビれたぜ。やるじゃねーか!」
「そうか、ありがとう」
横からグルジオ・バッカイマーが話に入ってきた。
「ハヤト。グルジオはな、古くからの友達でさ⋯⋯まあ『悪友』てやつだ」
「おお! 二人して魔力が乏しい下級貴族だからよ。ガキの頃から競うように体術を鍛えてきたんだ」
「悪友か⋯⋯いいな、それ」
そう言ってハヤトがフッと笑った。
「な〜に、お前だって今日から同じクラスメートで仲間じゃねーか。お前ももう俺たちの『悪友』だよ!」
「グルジア⋯⋯ありがとう」
「な〜に、いいってことよ!」
「おい、お前何、上から目線なんだよ」
「うるせ! これが俺だろが!」
俺とグルジアがやいのやいのやっている横でハヤトはずっと笑いながら話を聞いていた。
そういえばハヤトはこれまで学校に行ったことがないって言ってたっけ。つまり⋯⋯一人だったってことだもんな。俺は第一印象のときと違って、今ではすっかりハヤトのことを『友達』と思っている。だから、これからはいろいろとハヤトと楽しく学院生活を送りたい。
「あ〜、ちょっといいかな、ハヤト君?」
「?? なんだ、エバンス?」
すると次にエバンス・マクドウェルが話の輪に入ってきた。
「あ、あのさ〜、その〜、ハヤトさ〜⋯⋯A組の人と仲良い?」
「A組? いや、ほとんど話したことがないから姉のティアラとイザベラ、マリーぐらいかな⋯⋯」
「お、俺さ〜、実はイザベラさんのことがさ〜、いいなぁ〜と思っていてさ⋯⋯。なあ、今度さ〜、休みの日に遊びにとか一緒に誘えないかな?」
「イザベラを⋯⋯てことか?」
「そう!」
「俺も昨日初めて挨拶しただけだから、とりあえずこの演習が終わったらティアラに聞いてみるよ」
「マジでか! ありがとう、ハヤト! いやっふー!」
エバンスが狂喜乱舞している横から入れ替わるように、
「何? 恋バナ? 私たちも混ぜてよ!」
今度はシャロンとエマとリンガが輪に入ってきた。




