アビーからの重大な話
シャムとの娘であるソマリは異母兄妹の中でも末っ子で、母親であるシャムが長らく国の女王をやっていただけに、彼女に掛かる国民の期待はやはり大きいみたいんだ。
ソマリが誕生した日を、ニードルやラシェットは祝日にすべきだと唱え。
ソマリの誕生日は本当に国の祝日となっている。
そのソマリや、ミランダとの娘であるヴィエラ、それと――
「ヴィラン、タイセイが何者かに攫われたと聞いたんだが?」
足元に大胆なスリットが入った衣装で現れたマスカルとの長子が、ベリーの手によって姿を消している。
「今捜索中ですよ、マスカル」
「ミランダの未来視に映らなかった。と言うことは事なき事を得て終わりか……だとしても不甲斐ないじゃなかヴィラン、お前がいながらこの体たらく、一昔前の私であれば殺しにかかってた所だ」
「出来れば貴方にも捜索に加わって欲しいのですが」
「いいだろう、しかし」
「しかし?」
「今の私は、いささか酒が回って気分が悪い」
マスカルが酒に呑まれる時はたいてい、人肌恋しくなる時だ。
彼女とはまだ正式に籍を入れてない状態だし。
言うなればマスカルは現地妻。のような、特殊な関係だった。
「普段はタイセイに厳しく接してるのに、これじゃあ威厳がなくなりますよ」
「喧しい、タイセイには私のようになるなと口酸っぱく言ってある」
「反面教師のつもりですか? にしては貴方は立派過ぎる」
「……立派、なんかじゃないさ。私は暗い過去を持った、一人の女でしかない。ヴィラン、貴様らが唱える世界平和は、いつになったら成し遂げるんだ? いつになれば、これ以上私みたいな境遇の人を生み出さない世界になる?」
「マスカル、今は長話している場合じゃないので」
「……タイセイを無事に保護した後、私の下へ来い」
「喜んで、その時はマスカルの過去を教えて貰いますよ」
と言っても、彼女の過去に何が遭ったのか大体把握してるんだけどな。
マスカルと別れ、しばらく街の中を闇雲に探していると頭が冷えた。
このまま何の手掛かりもなく、探していても見つかりっこないだろうと。
彼女が提言したように、これはゲームだ。
もっとも彼女の前世を知っている俺としては、舐めて掛かれない。
櫻井ビデンスは、嫉妬心の塊みたいな人だから。
「ヴィラン」
街中で物憂げに思案していると、アビーから呼び止められた。
「何してるの? 彼女とのゲームはもういいのかい?」
「彼女とのゲームはまだ終わってないんだ、実は――」
そこでアビーにも事情を説明することが叶った。
「ああ、そうなんだ、それは大変だね」
「どこかでソマリ達を見掛けなかったか?」
「見掛けたよ、ヴィランと再会する前に彼女達とは会った」
なんだと?
「その場所は?」
「案内してあげるよ、こっちさ」
と言う流れで、アビーの後ろについて行く。
長旅から帰って来た彼女を労いたくもあるが、今はソマリ達の行方を追うしかない。
◇
アビーに連れられて来た場所は、憩いの場として利用されている国営の図書館だった。
「僕がさ、ここでソマリ達を見掛けて、彼女達にヴィランの居場所を教えて貰ったんだ。その後は大手を振って別れた」
「なら、ソマリは図書館のどこかにいるのか?」
と聞けば、アビーは眉根をひそめて小首をかしげていた。
「確か、ヴィランは周囲の気配を察知する特殊技能があったよね?」
つまりそれをやれと?
アビーに促されるようにして、周囲に光の粒子を拡がらせた。
光が俺に教えてくれたのは、今この図書館には俺とアビー以外の人間はいない。ということだった。
「駄目だ、祭りの時はここは大抵閉館しているから」
「つまり今は僕とヴィランの二人きりということ? なんだ」
「アビー」
彼女の名を嘆息を含みながら口にした。
その理由は彼女が俺の胸に手を添え、身体を預けて来たからだ。
事態が事態でなければこのまま彼女と恋心を募らせてもよかったけど。
けど今は、緊急事態だからそれは出来ない。
「ヴィラン、このまま聞いて欲しいことがある」
「今はそれ所じゃないんだ」
「……いいや、場合によっては『私』の話の方が重要だ」
すると彼女は唐突に一人称を私に変え、声音も低めた。
こういう時のアビーは必ずと言っていいほど重大な話を持ってくる。
「何だ? 今度行って来た国に何か遭ったのか?」
「いいや、何か起こってるのは、ヴィランの周りだ」
――今から言うことは、世界の存亡に関わるかも知れない。
「だから、忘れないでくれよ」
おはよう御座います、遅まきながらの挨拶の常習犯サカイヌツクです。
本作ですが、構想ではこの章を終わった後の次の章が最終章となりそうです。
と言っても、まだざっくばらんな構想しかおったてておりません。
読者の皆様にはある意味予想外の展開をお届けできるのではないかと思います。
では、私は今より修羅に入る!!
出合え出合え吉良終わりの介! 尋常にお縄につけい!!




