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今の一番大切なもの


 シェリーの娘であるベリーは俺に会うなりよく懐いた。


 黒い毛髪はシェリーと同じく後ろで結って、性格は甘えん坊。

 俺との血筋らしい血筋は、主が認めるほどの才能だった。


 主曰く、彼女は魔法の才能に満ち溢れているらしい。


「くかー、ふへへ、父さんそこは、でも父さんならいいよ」

「……寝言? 随分と妙な寝言口にするんだな」


 ベリー? 彼女だったら俺の隣で寝てるよ……無邪気な寝言をほざきながら。


 彼女は、出会うなり引っ付き虫のように俺に抱き付いては。


「ふへへ、父さんの匂い凄く好き」


 俺の匂いを好んでいるようだった。

 俺って特殊な体臭持っていたかな?


 そう疑問視しつつ、鼻を肩に近づけてスンスンと嗅いでみても、何も感じない。


「何してるの?」

「……ベリーがやけに俺の匂いを好むから、どんなものかと思って」


 匂いを確認していると、シャムがやって来た。


 今は夏の季節ということもあり、シャムは軽装だ。ノースリーブのトップスに、下は下着のラインが浮かぶんじゃないかと思うほどの薄い生地で出来たショートパンツのみの格好だった。


「加齢じゃない?」


 と言い、シャムは軽い感じで身を乗り出しキスをしてくれる。


 俺は彼女のキスに応えるよう、気息を整えた。


「……ねぇ、今平気?」

「平気だよ」


 一瞬何が? と思うかも知れないが、彼女は俺の胸に手を這わせている。

 所を察するに、どうやら夜伽のお誘いのようだった。


「ソマリは順調に育っているみたいだな」

「あの子は問題ない、幼い時の私そっくりだってミラも言ってたし」


 それよりも、問題は私達の跡継ぎよ。


「出来れば世継ぎは男児の方がいいからね」


 その発言は長い間、この国――ハピスを引っ張って来たシャムらしからぬものだったけど。彼女は自分が経験した苦労を思案して、ソマリに国を継がせることが少し不安なのだろう。


 彼女は双眸を大きく開き、明るい表情で上を肌けさせて言うんだ。


「それに、ソマリは可愛いしね。女王として縛り付けるのは酷ってものよ」


 して、俺達は営みをしようと、互いの背に手を回し、再び唇を重ねた。


「ねぇ、二人は何をしてるの?」

「起きてたの? えっと、ベリー?」


 その時隣で寝ていたベリーが抱き合う俺達の中に割って入り、両手で引き離した。


「二人の仲がいいのはわかるけど、子供の目の前ですることじゃないよ」

「じゃあ、悪いけどちょっと席外してくれる? 私のベッドで寝てくれて構わないから」


 シャムがそう言うと、彼女は指を弾き――っ。

 頭上からありもしない滂沱の水が降り注ぎ、シャムは水浸しになった。


「頭冷やせー、つって。私の目の届くところでこんな裏切りはさせない、ぜぇったいに」

「何今の? 貴方がやったの?」


 突然の事態にシャムは少し混乱しながら問い質していた。


「そう言えば主が言ってたよ。この子は魔法の才能に恵まれているって」

「……そうなのね」


 と言い、水浸しになって目に被さった前髪を、シャムは言いようのない表情でかき上げていた。


 ◇


「にしても、貴方の周りにはよくよく変な連中が群がるわね」


 と、隣席に控えているシャムは会場の熱気をよそに俺に言うものだから。

 俺のせいじゃないだろ、と淡泊に答える。


 すると彼女は途端に不機嫌な表情を取るから、少し慌ててしまう。


「あれだよ」

「あれって?」

「今日みたく、毎年のように開催している舞踏会で変わり者が寄ってきやすくなってるだけだと思う」


 結局、昨夜はベリーが邪魔してシャムと肌を重ねることは出来なかった。


 けど俺達もいい大人だから、一夜の恋慕を断たれても怒る気概もない。


 それよりも開催された三日にわたる舞踏会の予算を、どう賄うかが心配だ。


 ハピスでは毎年のように王宮を開放して舞踏会を開催していた。

 この行事はシャムが「幸せな国をつくる」一環でやるようになった。

 大多数の国民が血の気の多い戦狼で占めているが、意外と評判は良好なんだ。


 ハピスの民や、隣国の王族たちを招き開く舞踏会は実に華々しい。


 舞踏会に参列する女性たちは一様に煌びやかな衣装を着て、男性は会場を彩る彼女たちを引き立たせるようにシックな衣装でコントラストを描いている。


「……昨日は残念だったけど、機会があればまた誘うから」

「待ってるよ、いつでも」


 お誘いを嬉々として受け入れると、シャムは俺に手を差し伸べた。


 その手を取り、彼女を連れて舞台に赴く。


 国営の楽団が俺達を視界に入れると、曲がフェードアウトしていって、ムーディーなものへと変わる。


「いつまでもこうしていたい……ヴィランと出逢った頃のままでいて、ソマリに恵まれて、幸せだと自負できるから」


 彼女の胸中を聞き、自然と心が和んだ。


「あの頃のこと、ヴィランは覚えてる?」

「きっとシャムより鮮明に覚えてるよ」


 シャムの問い掛けに、俺は鼻を高くした。


「じゃあ問題、あの時舞踏会にはどちらから誘ったでしょうか?」

「シャムだよ」

「じゃあ第二問、あの時の私の衣装の色は?」

「シックな赤い奴」

「やるわね、じゃあ最終問題」


 と、彼女が俺に向けて最後の問題を聞こうとしたので。


「シャムが俺を誘った理由は会場にいた俺を見つけて、一目惚れしたからだ」


 当てずっぽうで答えると。


「正解よ、ありがとうヴィラン」


 と言い、俺の胸に顔を埋めた。


 きっと、彼女の聴覚には、俺の心臓の音が聴こえているのだろうけど。

 俺は胸中を多幸感で一杯にして、だけど落ち着きを払っていた。


 それが、今の俺の幸せな近況であり。

 それが、今の俺の一番大切なものだ。


「……駄目だなあいつ、まだ私の気持ちを理解してない」


 ――だからだよ、君が不幸になるのは。



どうもこんにちは、サカイヌツクです。


最近はちょっと遅めの春眠暁を覚えずを体現しております、雅。


夢の中で笑ったり、泣いたり、大忙しな私ですが。


現実では一貫して無感動です、雅。


次回の更新は6月28日の日曜日の昼を予定しております。


本章から加わったヴィランの子供たちが何かをすると思いますが。


予定は予定です。

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