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?年後のヴィランの隠し子


 その日、俺は自国ハピスの代表としてベガ皇帝のお膝下にいた。


 帝国が所有する城の古めかしい政務室にてお茶を持て成され。


 エルドラード帝国に在籍する元級友たち、特にこっちではレギの姉貴分をしている――


「じゃあ、これで僕達との特恵関税は可決ってことで」


 ラギ、レギと同じく猫目が特徴的な彼女と密約を交わす。


 特恵関税とは何か? 不出来な俺の脳みそでバイアスすれば。

 それは二つの国による他国を出し抜くための約束みたいなものだった。


「ありがとう、皇帝ベガとはその後順調かな?」


 ラギは前世から皇帝ベガのことが好きだったらしい。

 だから物は試しに聞いただけなのに。


「あーあ、これだから空気読めない陰キャは」

「ヨモギダくん、それは私達の間で禁句なのよ?」


 級友であるゲインさんと、赤城さんから注意されてしまい、挙句には――ッ!


「僕はね、本気なんだ」


 挙句には、木の机の上にナイフを突き立てたラギから脅される。


「竜ヶ峰くんには何回も、勇気を出して告白したよ? 振られたけど」


 もういい、それ以上口にするな。とは思っていても言葉に出来ない。


「だけど僕の愛は本物なんだよ、これはわかるよね? 振られたけど」


 その後、話が終わりなおも小一時間ほど彼女の愚痴を聞かされるのだった。


 ◇


「隊長! 遅かったですね」

「レギ、お前は姉をどう取り持っていた?」

「姉さんをどう、とは?」


 いや、何でもない。


 会議が終わった後は、城下町で待機していたレギとエッザの夫妻と落ち合った。

 エッザは独自の鑑識で各地の巻物を集めるのが趣味で。


「ヴィラン、実はカナデが迷子になったようだ」


 エッザは自分の娘であるカナデを見失う程熱中していたようだ。


「迷子になったようだって、親なら責任持って見張っておけよ」

「申し訳ありません隊長」


 二人の愛娘を探すよう、人で賑わっている城下町の大通りを見渡すのだが。

 多種多様な人種が行き交っている往来の中にカナデの姿は見当たらない。


「やあ、これはいつぞやの」

「……ああ、貴方はカリン王国でお見受けした」

「ホルジュと申します、いつぞやはお世話になりました」


 その時、いつかシャムと二人で捕まえたホビット族――二足歩行のウサギの彼と邂逅してしまった。


「こんな所で何を?」

「エルドラード帝国とちょっと内談しに、そちらは?」


 俺もこの国と密談しに来たのだが、嫌な予感がするな。

 まあ、その空気は彼にもなんとなく伝わっているようで。


「俺達はたまの慰安旅行しに来ただけだよ」

「ヴィラン殿、私達の鼻は優秀なのですよ。嘘を吐かれても困ります」


 そくざに嘘がバレる。

 彼らは見掛けからして不思議な人種だからな。

 この厳しい乱世を生き抜くためには、独自の強みがあるのだろう。


「お前は鼻が利くのか?」

「ええ」


 するとエッザが娘の私物であるハンカチを取り出す。


「この持ち主がどこにいるか特定してくれないか」

「やめとけエッザ、失礼だろ」

「いいのです、では少し拝借致します……」


 ――スンスンスン。


 ホビット族とはいえ、童女の匂いを嗅ぐ行為は変態的だ。


「この匂いでしたら、あちらにいると思いますよ」

「ありがとう」


 と言い、エッザは教えられた方向へ猪突猛進していく。

 レギがあわてた様子で後を追っていった。


「申し訳ない、今の二人は俺の家臣なのですが、不肖でしてね」

「貴方はよほど数奇な縁に恵まれていますね」

「……どうです? もし宜しければ俺とお茶でも」

「失敬、私はこれから帝国城へ向かわねばいけなくて」

「でしたら、一つだけアドバイスさせてください」


 そう言うと、ホルジュはツブサな紅い瞳で俺を見詰める。

 ウサギの格好をしている彼は注目の的のようで。

 通りを行くこの街の子供たちが目を輝かせながら眺めていた。


「何でしょう?」

「帝国の政務官のラギ、彼女には恋愛相談を持ち掛けない方がいいですよ」

「恋愛相談?」


 ヨシ、いいことした。

 そんな今の俺の気分は、この後の帰り道で立ち寄る関係性のある彼女達との逢瀬に逸っている。


 俺との間に息子を設けたマスカルは、カリン王国の世継ぎとすべく英才教育を施していて、これが噂に聞く教育ママって奴かと恐れ慄くほど厳しく接している。そんな一面もマスカルの魅力だ。


 こと、俺の子供というくくりで言えばシャムやミランダの間にもいる。


 シャムはグレッグに次いでまた育児疲れするのかと嘆いている毎日だ。


 ホルジュを見送り、エッザ達の後をゆっくりと追おうとした時。


「ああ、ベガ様、こんにちは」

「やあ」

「あんた皇帝なのに、なに油売ってるのさ」

「僕は毎日油売るために、皇帝になったようもんさ」

「馬鹿なこと言ってないで、もっと頑張っておくれよ」

「いつもありがとうね、――ちょっとそこ行くヨモギダくん」


 ベガ、この国の皇帝で、南大陸を統括している彼から呼び止められた。


 南大陸は資源が豊富だけど、モンスター達の巣窟になっていると聞いている。


「何だよ」

「ラギくんとの話は終わったの?」

「ああ、彼女に言っておいてくれ」

「何を?」

「エルドラード帝国の独断専行的な、違反行為は控えろって」


 つまりはこうだ。


 エルドラード帝国は南大陸に埋没する資源を、他国に流したい。

 が、それには高額な関税がネックなのだろう。


 そこで帝国は俺達や他国の間に特恵関税の話を持ち掛け。

 両者の関税を引き下げて、帝国だけ潤わせる算段だ。


「伝えておくけどさ、ラギくんはちょっと怖いからね」

「知ってる、そう言えば黒木は元気にしてるのか?」


 俺達はわざわざ一万キロもの長旅をして来たのだ。

 だから、あの時、困った俺達に修行を授けてくれた黒木。

 ひいてはメルラシエにも挨拶しておきたい所だ。


「今頃どうしてるんだろうね、彼はもう人間辞めちゃってるから」


 だが当の本人たちはもはや人間の尺度で測れない。

 なら俺の拙い感謝の気持ちなど、無用の長物だろう。


「隊長ー! 無事カナデを見つけました」


 レギが向こう側でカナデ発見の報告を入れている。


「俺はもう行くけど、次はいつ会える?」

「いつでも会えるよ。僕達は親友だからね」


 親友?


「止めろよ、俺はその手の冗談にはうんざりしてるんだ」

「あ、そうなんだ。でも僕はこう思うんだよヨモギダくん」

「……何でしょうか、竜ヶ峰くん」


 向こうは俺のことを一向にヴィランとは呼ぼうとしない。

 だから、俺もこの国の級友たちのことは棒読み気味に前世の名で呼ぶ。


「もし、僕に跡継ぎが出来たら、ヨモギダくんの子と結婚させたい」

「それはいい話なんじゃないか? 俺とお前の子供で婚儀を結べば」


 この世界に恒久的な平和が訪れる。


 向こうは向こうで南大陸を統べる皇帝ならば。


 俺は俺で、ここより東側の勢力圏をゆっくりとだが掌握しているから。


 一時の平和とは言え、民のみんなが望む世界を作れると思うんだ。


 けど、民衆は平和を望むと同時に、革命を望むものだ。


「楽しみだね、僕達の子孫がどんな世界をつくるのか」

「そうだな」


 と言うような話をベガとしたからだろうか?


 ちょっとした長旅を経て、シャム達が待つ王宮に帰ると。


「ヴィラン、聞きたいことがあるの」

「ただいまシャム」

「お帰り、聞きたいことがあるの」

「マスカルが今年度の舞踏会はいつなのか聞いて」

「聞 き た い こ と が あ る の、お分かり?」


 何だ? と思うと、奥手で主がにやけ面しているのが見えた。

 主がああいった邪悪な笑みを零す時はろくなことが起こらないから。


「何か?」

「……紹介するわね、こちらに居ますのは、誰?」


 と、シャムの足元には娘のソマリがいて、俺を見上げて「おかえり」と舌足らずな感じで言っている。そんな彼女の頭を撫で、抱き上げようとすればシャムが止める。


「そう、この子は私の可愛い姫様こと、ソマリ」

「お帰りなさいヴィラン」

「ただいまミランダ」


 ミランダ――この国の影の立役者である彼女が楚々としてやって来ると。


「ヴィラン、貴方って隠し子がいたの?」


 は?


「……俺の子供は、マスカルと、君と、シャムの間にしかいないと思う」

「と言うことは、無自覚だったのですね」

「ど、どういうことだ? 俺に隠し子がいて無自覚って」


 さすがの俺も困惑の色を隠せない。

 隠し子? 隠し子……覚えがない。


 ないが――


「っ!?」

「うっほーい! お帰り父さん」


 俺はその隠し子とやらに後ろを取られ、腰下からタックルをかまされている。


「その娘、ベリーって言う名前らしいの。聞いた話によるとヴィランの初めての恋人との間に出来たって言うのよね」


 と嘆息調でシャムは言うが、初めての恋人? ますますわからない。


 隠し子はタックルをかました後、今度は俺にしがみついて離れない。


 天真爛漫で、執拗な所はアビーを彷彿とするが。


 彼女から薫って来るほおずきの匂いには覚えがあった。


「……君の母親の名前を聞いても、いいか?」

「当てて見せてよ」


 と言う彼女は、俺の胸元で頬ずりしていて、顔がよく見えない。


「……シェリー?」

「お、意外、当たりだよ父さん」


 ああ、なんだ。

 シェリーは俺の初めての人で、今の地位にいるきっかけとなった人だ。


 懐かしい。


 出来るのなら、あの時、無意味に想起した妄想を反故にして、会ってみたいものだ。


「シェリーは今どこで何を? 君がここにいるってことは彼女もいるのか?」

「死んだよ、母さんは。だから私は父さんの下にやって来た」


 しかし、現実として彼女はすでに亡くなっていて。

 今の俺は、ちょっとした虚しさを覚えるのもしょうがないと思えた。



なーんでなんでなんでなーんでなんで?


お久しぶりのサカイヌツクです。


今日から本作『奴隷大君(略称)』の更新を再開いたします。


もうエピローグの構想は立っているのですが。


いかんせん、それに至るまでの山場などが空白です。


ですから、と言っていいものなのか、次の更新は隔日して。


三日のスパンで更新できればと思っております。


私、意外と律儀なもので、予定は未定とか言いたくないのです。


自分、不器用ですから。

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