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娘さんをください


 明朝の天候は清々としていた。


 空を漂う白い雲は狼の形だったり、鯉の形をしている。


「諸君、準備は出来たか?」


 そう尋ねるVの背後には四十名ほどの配下が居並んでいた。

 少数精鋭での電撃戦でも繰り広げるつもりなのか?


 途端に不安を覚えるが、――どの道なのだろう。


「ラシェット、準備は出来てるか?」

「当たり前だろ」


「ミラは?」

「一々聞かないでくれる? どうせ否定したって無理やりやるんでしょ」


「ディゴ、お前はどうだ」

「問題ありません」


 とすると残されたのはシャムだけだが、どうも顔色が悪そうだ。


「シャム」

「私も問題ない。それよりもヴィラン」

「何だ?」

「いつもと違って顔色が悪いわよ? 緊張してるの?」


 ……ああ、これは作戦前だから口にはしないけど。

 俺の心臓は今にでも爆発しそうなぐらい、落ち着きがない。


「不整脈かも知れない」

「貴方に限ってそれはないんじゃない? でも困ったわね」

「何だったらメフィストぐれぇー、俺が倒してみせる」


 俺達を気遣ったラシェットが代役を名乗り出てくれる。

 決して荷が重いとは思わないが。


「君達の中で一番強いのは、ヴィランなのだろ?」

「かも知れねぇ、けどそうじゃねぇかも知れねぇ」

「役割は事前に決めておくべきだ、出なければ作戦時に混乱してミスを誘発する」


 その様子を不安視したVから釘を刺されてしまった。


 今回の作戦において、俺達の役目はメフィストとメフィスト率いるファウストの親衛隊を、封印が終わるまで引き留めることにある。相手の実力が未知数である以上、一つでも杞憂は取り除いた方がいい。


「俺が、俺がメフィストとやり合う。意気込んでいるラシェットには悪いけど」

「ヴィラン、なんでもいいんだよ」


 ラシェットは黒革に包まれた得物を背負い、両手をポケットにしまって啖呵を切り始めた。


「俺達の目的はグリモアの無力化であって、クソ染みたファウストの凶行による犠牲者をこれ以上出さねぇことにあるんだ。俺達は生半可な気持ちでこの戦争に介入してるわけじゃねぇんだよ……だからシャム」


「何よ」

「お前だって、私情は不要だと割り切ってるよな?」

「……そうね、私ももう懲りたわ」


 シャムやラシェット、ミラの三人の過去に何が遭ったのかは知らない。

 聞いた所で、はぐらかされる。


 もしかしたら昨夜俺の目の届かない所で一悶着あったのか?

 その疑問を覚えるほど、三人の間には不協和音の空気が漂っている気がした。


 けど――


「では!! これよりファウストを封印しに行く……今回の作戦が失敗したのなら、事前に伝えてあった通り他の者は第三帝国に投降して欲しい。それが嫌なら自決した方が身のためだ。自決が嫌なら抗え――諸君の心身を束縛している恐怖に」


 けど、Vは俺達との連携を蔑ろにするよう作戦の開始を伝えた。


 俺はシャムの肩に手を置き、彼女と視線を合わせる。


「……抗いましょうヴィラン」

「そうだな、約束するよシャム」

「何を?」


 何と言う運命の皮肉か。

 シャムにとって酷な現実は、しかして他の皆にとっては望まれた未来だ。


 それ以外、この戦争を終わらせる手段はなくて。

 それ以外、俺が取るべき道はなくて。


「俺は君の父親を――殺すよ」


 戦争を終わらせるために、俺は彼女を試すような約束を口にした。

 するとシャムは一瞬困った後、静かに微笑んでいた。


「では、行くぞ!!」


 こうして俺達はVをリーダーとする黒鷲の作戦に加担し。


「敵襲ッ――――――――!!」


 Vの術法によって一瞬でグリモアの首都中心部に攻め入る。警報を鳴らそうとした敵はVが瞬殺して見せたが、異質な騒音が首都一帯に鳴り響いていた。


「アンドロマリウス!」

「……ファウストは、予測通り奴の邸宅に居る様子です」

「皆行くぞ、この聖戦の戦場に、ファウストの墓標を打ち立てるために!!」


 Vの黒い外套がひるがえされるたび景色が移り変わり、俺達は困惑を絶やさない。


「……こいつが、ファウスト?」

「ああ、これこそがファウストの成れの果てだ」


 Vに連れられ、俺達が二度目に転移した部屋は何かの実験室のような景観だった。巨大な部屋の壁際にはSFなどで見るコールドスリープ用のカプセルが林立していて。


『ヨハン・ゲオルク・ファウスト』


 目の前には以上のラベル付けがされたカプセルに人間の脳みそがある。


「どういうこと?」


 その光景を目にしたシャムが、単刀直入に問い質すと。


「我々悪魔を舐めて掛かるな、という訓戒だよ」


 俺達の後方うわてに有った部屋の入り口から圧倒的な迫力を放つ一人の軍服姿の敵が現れる。


「誰かと思えばお前か」

「メフィスト……なの?」

「そう言えばマラコーダから報告があったような気がするな、迂闊だった」


 シャムにその正体を明かされた悪魔は、鉄板が敷かれた地面に飛び降りて、ゆっくりとこちらに歩み寄って来た。


「呆けっとしてるんじゃねぇぞお前らァ!」


 ラシェットがメフィストの接近を阻むように前に出る。

 が――――ッ!!


「ラシェット!」

「ラシェット、君はこの八年で何を学んだのかね」


 近づいて来たメフィストの人差し指によって薙ぎ払われてしまう。


 メフィスト、彼の悪魔は無類の強さを誇るというよりも。

 彼は得体の知れない未知なる力で、優位に立ち回っている風に見えた。


 彼が歩み寄っている方向にはシャムが居て。

 シャムの隣に居た俺は、肩を抱き寄せた。


「君は?」

「折り入って貴方にお願いあり今日は来ました」

「……ほう、それでそのお願いとは?」

「離して、メフィストは私の手で」


 シャムは俺の腕から離れようと力を籠めるが、俺にはどうしても、彼女を交えて彼に伝えねばならないことがあって。その気持ちはシャムと出逢ったころから仄かに想起していた妄想だった。


 あの後彼女の境遇を知り、妄想は妄想のまま終わるはずだったけど。

 その妄想を現実にしてくれたのは――Vだった。



「俺に、娘さんをください」



 そして俺はようやくその妄想を、彼女とお付き合いしている義務を果たせた。

 隣に居るシャムを一瞥すると、彼女は困惑しながら顔を赤らめていて。


「……ああ、是非とも君に、娘を引き取って欲しい」


 俺達の光景を覗ったメフィストは、彼女との結婚を認めてくれるのだった。



読者の皆様へ、今日は更新が遅れて申し訳ありゃりゃした。


今日は久々に昼寝を漫喫していたため、爽快な気分です。


そして、賢者タイムのような時間帯に上げるこの話が。


より多くの読者の皆様の目に留まることを祈って。


私はまた静かに、安らかに……zzz。

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