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きっと君の願いは叶わない


「貴方を信用しない訳じゃないけど、どうしても行かなきゃ駄目なの?」


 シャムはグレッグの背に跨り、氷竜のシルヴィアに並走しながらオセに尋ねた。


 俺達は今オセに引き連れられてグリモアとダイダロスの国境線沿いを北に移動している。この方角にはシュウヤ達が激戦を繰り広げている第三帝国があった。


「私達レジスタンスは、いついかなる時、敵につけ入れられるか分かった物ではないし。もしかしたらレジスタンスの作戦事態に変更が掛かっている可能性もある」


「怪しい、ヴィランもそう思うでしょ?」

「……」

「ねぇ聞いてるのヴィラン?」

「いや、グリモアと第三帝国に、レジスタンスなんてあったんだなって」


 ならば、前回敗北した時も、レジスタンスと協調していれば――

 という杞憂を今さら持ってもしょうがない。


 オセはグリモアと第三帝国、双方のレジスタンスが合併した組織『黒鷲(くろわし)』に所属していて、オセがあの砦に捕まっていたのはレジスタンスの主要人物の一人だったかららしい。


「このまま戦果をお前達に明け渡すのは、プライドが傷つくしな。我々レジスタンスが抵抗活動で被った犠牲者の面々に顔向けもできないし。だから、私としてはこれは幸運だった」


「ふーん……黒鷲のリーダーは?」

「Vのことか?」

「Vと言う呼称なのか」


 その異質な名を耳にしていた俺は黒鷲のリーダーをもっと警戒すべきだったのかもしれない。オセに率いられて空を移動して三時間、レジスタンス組織が所有するアジトの一角に辿り着く。


 そこは森の中にあり、遺跡のような造りをしていた。


「お帰りなさい総長、よくぞご無事で」

「竜はどうする? どこかに隠せるか?」


 黒鷲の末端兵がオセを出迎え、俺達のことを何となしに説明する。


「ヴィラン、リーダーに会いに行くからついて来てくれ」

「わかった、シャム達も同行していいのか?」

「お前達全員に会わせたい」


 言われるがままオセについて行き、アジトの内部を見学する格好となった。

 入り口にあった地下への階段を下ると、青白い不思議な光で通路が照らされている。


「総長、お帰りなさい」

「ああ」


 総長と呼ばれる彼女の地位はどれぐらいなのだろうか?


「……こじんまりとした組織だな」

「それは仕方がないだろ、レジスタンスはどこもこんなものだよ」


 まぁ、それもそうだよな。


 そして通路の突き当りの部屋の前に辿り着くと、オセは扉を三度ノックして。


「……入るといい」


 扉の向こう側から、やけに印象深い中性的な声が聴こえた。

 この声の主こそが、レジスタンスのリーダーであるV?


「失礼しますV」


 オセが室内に招かれると一緒に俺達も部屋に入る。


 そこには異様な出で立ちをしたVが待っていた。


「初めまして、私の名はV」


 黒いハット帽、黒い外套、黒い召し物を着た、彼だか彼女だか判断つかないVの顔は白い仮面で覆われ、装備としては短剣を両脇に備えているだけで他は見当たらない。


「どうぞ座ってくれ、それでオセ、今回の失態に対する尻拭いはしかとしてきたか?」

「はい、捕らえられていた砦をこの者達と協力して落としてきました」


 オセが捕えられていた砦を壊滅させたのは俺で。

 オセ自身は俺から助けられただけなのだが?


「なるほど、では処分については後々言い渡す」

「はい」


 オセと端的な会話をした後、Vは俺達に視野を移した。


 白い仮面で覆われている彼の双眸は、笑っている?


 錯覚かもしれないが、俺にはそう見える。


「初めましてヴィラン」

「お初目に掛かります、V」

「君達も黒鷲との共戦を希望かな?」


 ……違うと思う。

 俺達の目的は、グリモアの無力化だ。


「俺達の目的はグリモアの無力化です。俺は女神である主より、グリモアの国家元首ファウストには手を出さないよう言われ、そんな折にオセから貴方がたの作戦への参入を打診されました」


「ヴィラン達は皆一様に使えます、V」


 オセが俺達をアピールすると、Vは深く首肯して。


「ならば、君達にはファウストの騎士を討伐して貰うとしよう」

「何者なんです?」

「ファウストが最初に召喚した悪魔だ、名を――メフィスト」


 その名はたしか先日聞いたばかりだ。


 メフィストはシャムの実の父親だったはずで。


 シャムを見ると、彼女は表情を強張らせていた。


「メフィストを討伐しなきゃいけない理由って、何?」


「メフィストは不眠不休でファウストを守っている、言わば守護神だ。我々レジスタンスには国家元首ファウストを封印するための施策はあれど、奴を守っているメフィストが邪魔立てして実行出来てない」


 シャムが俺の心を代弁するようVに尋ねると、以上の答えが返ってくる。


「それには納得するとして、具体的にどうすればいい? まさか俺達だけでグリモアの首都まで進軍しろと言うのか?」


「ファウストの膝下まで伸びる隠し通路がある。明朝その通路を使い、ファウストを拿捕し、即座に封印の義を行う。君達にはメフィストが追って来ないよう、妨害、もしくは抹殺して欲しい」


「……父なの、メフィストは」


 突然、シャムが自分の素性について明かし始めた。


「メフィストは、私の実の父親なのよ」

「とすると? 君はグリモアのスパイだったりするのか?」

「違う、だけど、彼と一度話をさせて欲しい」

「それは止めとけ」


 シャムのその願いに、不満を漏らしたのはラシェットだった。


「俺達も今まで知らなかったけどよ、メフィストはお前のことを娘なんて思っちゃいねーよ」

「でもそれが事実なのよ……っ」


 するとシャムは立ち上がり、駆け足気味に部屋を後にする。


 ミラが心配するよう追って行ったので、彼女のことは任せよう。


「隠し通路があるとのことですが、ファウスト、延いてはメフィストの居場所を掴んでいるのか?」


 最初に持っていたVへの敬意は、もはや霧散していた。

 何しろVの外貌は怪しすぎる。


「異世界ギオスには君達の知らない神秘が星の数ほど存在するのだよ」

「俺は神秘と言い換えただけの詐欺話には興味ないんだ」


 黒鷲のリーダーであるVへの失言を、この場に居る連中は特に叱責しなかった。


「作戦決行は明朝の五時だ。日の出とともにメフィストを討ち取り、ファウストを封印する」

「「は!」」


 ごめんなシャム、どうやらレジスタンスの決意は固いようだ。

 シャムが父親とどうなりたいかは知らないけど。

 きっと君の願いは叶わない。


私「さすらうー、愛の行方はー」


 某日、私と神の平和な生活は別たれ、私は旅に出た。

 時折、神から来る手紙を頼りに世界を流浪している。


私「どうしてー、こんなにもー、心に素直にー、なーるー」


 嗚呼、神よ、私の神よ。

 お前を想う心は、お前が隣にいない寂しさだけは。


私「誰にもー、譲れないー」


 続く。


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