目的のための方策じゃなく……
「……ねぇヴィラン」
火を焚いて、夜の寒気を紛らわせていた。
シャムはそれでも寒かったのか、俺に抱かれるようにしている。
「何だ?」
彼女から漂う馥郁はアロマテラピーのように、気分が安らいだ。
「彼女、オセが話した内容を信じる?」
「……」
俺達、囮部隊が壊滅させた砦から救った女性の名はオセと言い。
今はミラとラシェットの監視下で、眠りに就いているはずだった。
彼女の瞳の色は、主と同じで紅色に染まっていてとても美しい。
「こんな時、ミランダが居てくれればな」
「そうね、どうしてミランダはキングと一緒に主力戦に名乗り出たのかしらね」
「それが、一番最小限の被害で今回の戦争を切り抜ける未来だったんだろう」
するとシャムは押し黙り、ふと沈黙の間が生まれる。
俺はその空気を受け、静かに瞼を閉じた。
昼下がりに起こした戦闘の疲れが出たのか、そのまま夢に没入し。
夢の中で隣にいるシャムと目合っていた。
翌朝、目が覚めると焚いていた火が消えている。
空はあいにくの曇天で、雨が焚火を消していた。
「参ったわね、今日はここで雨宿りかしら」
「雨は苦手か?」
「えぇ、ちょっとしたトラウマ持ちでね……こんな日は特に」
とシャムは口にするが、今は時間を無駄にしたくない時だ。
俺達囮役はこのまま敵の防衛ライン際にそびえる砦を叩いて行くと、昨日の会議で取り決めたいじょう有言実行しなくては最前線で奮起しているキングやミランダ達に申し訳が立たない。
「こんな時まで、その女を庇うなよ」
「主なのですか?」
「出たわね女神狐」
その時、主が地面を穿つ雨音に混じって現れた。
「ファウストのことはエルドラード帝国のベガに任せればいい」
「……貴方がそう言うってことは、彼女が言っていたことは本当なのね」
主の御言葉を受け、シャムはオセから得た情報を信じるに至った。
オセは昨日、救出した時に俺達にこう言ったんだ。
――グリモアの国家元首、ファウストを殺してはならないと。
その理由は、この世界の奴隷の四大原則にある。
ファウストはオセを始めとした悪魔達を奴隷に従え、ギオス金貨を使って予めこう命令していたようだ――私が死んだ際は貴君も後を追うように。
だからファウストの死は、悪魔達の死に直結する。
俺達はそこに今回の戦争の勝機を見出していたのだが。
どうやら事はそう安易な話じゃなかった。
「グリモアの手先を、悪魔と罵るのはもう止めてやれ。奴らはちょっと特殊な能力をもった、お前らの仲間連中と大差ないさ」
「人間嫌いの主がそう仰るということは、彼らは皆一様に人間ではないのでしょうね」
「ヨモギダちゃん」
久しぶりに主と面会したが、俺は機嫌を損ねる台詞を口にしてしまったようだ。
主は歩み寄り、俺と肉薄して銀製のナイフをちらつかせる。
「私は決して人間嫌いと言う訳でもない、それにお前の今の口の聞き方、主従関係を履き違えているのか?」
「履き違えているのは貴方の方よ、女神狐!」
主は相変わらず高貴なお方であることに変わりないが。
シャムは主が付き出した銀のナイフを奪い取って、強く反論していた。
「女神の私物を奪う罰当たりな奴に、幸運は訪れないぞ」
「じゃあ返すわよこんなもの」
「返さなくていい、そのまま持っておけ、それはお前にくれてやる」
羨ましいな、と思ったのは俺の正直な感想だ。
主の奴隷である俺だとて、物を貰ったことは数度しかないから。
「……主、俺はどうすれば宜しいのでしょうか」
どうすれば、貴方が望み、愛した世界に近づくのでしょうか。
懇願するような眼差しで見詰めると、主はギオス金貨を持ち出した。
「ヴィラン、お前は私の奴隷として、成さねばならないことがあるはずだ。この戦争に勝利し、世界を慈愛で満たせ。なんと言ったって私は愛の女神だからな」
そして主は俺にギオス金貨を指で弾いてよこし、霞のように消える。
主が愛を司る女神だったのは驚きだが、これで俺の決意は固まった。
「これからどうするのヴィラン?」
周囲一帯には雨が降りしきり、シャムと一緒に雨宿りしている大樹の下から曇天の景観を仰ぎつつ俺はこう答えた。
「主も仰っていたように、この戦争に勝利する」
「どうやって? だってファウストは殺せないんでしょ?」
確かにファウストがいる以上、敵勢力は無際限に補填される。
そして、ファウストを討ち取ることは禁忌だとすれば。
「……目的のために方策を考えるのじゃなく、目的そのものを方策にすればいい」
「って言うと?」
「主の言い振りだと、ファウストに召喚されている連中の正体は悪魔じゃない」
だとすれば、彼らは皆等しく、俺達の同士だ。
主はこの世界を慈愛で満たせと言っていたのでそう想起した。
「俺達の目的は、ファウストが率いるグリモアの無力化だ。そうすればグリモアとの戦争は終わる」
グリモアを無力化させる方法は無限にあるだろう。
「なら、私共の作戦に加担しないか?」
そして現状打開の糸口を開くように申し出たのは、紅の瞳が印象的な、ブロンドの女戦士オセだった。
いつか恋人できた際は、心の中で――ベイビーと呼びたい(´◉◞౪◟◉)
どうも、ベイべーの皆様。
唐突にですが、皆さんは誰からかベイベーと呼ばれたどうします。
もちろん相手にもよる、との見解も多分にあると思います。
そこでこんな人から呼ばれたらどうするのか? っという条件付きでお聞きします。
例えば……そうですね、カラオケで熱唱するも高音が出せずかっすかすの風鳴がマイクに乗るような何事にも一生懸命な不器用な年下で、貴方に対する感情は好意以外に他ありません。
さぁどうだ!?




