囮役
「私達の居場所は地図上で言えばここですね」
「嘘じゃないでしょうね?」
「ミセス・シャム、嘘を言ってもすぐにバレます」
「本当でしょうね?」
「ふ、私どもは悪魔と呼ばれていますが、滑稽だ」
シュウヤと別れ、進路を北東に取り進軍した二日目の夜。捕虜として鹵獲したマラコーダに現在位置を尋ねると、グリモアの首都までおよそ千キロの位置まで来ていた。
この調子で進軍を続けられれば、首都まで十五、六日と言った所か。
「ヴィラン、このまま首都まで一直線に進むのか?」
「貴方ならどうしますニードルさん?」
「そうだな……敵の主要な防衛線はどこにあるんだ?」
「当てて見せてください」
ニードルの質問にマラコーダはからかうように返答した。
「地形的に、敵の防衛線は首都から半径五百キロのこのラインと、その二百キロ先のこのライン、主にこんな感じなるだろう。もっとも、グリモアの首都が国の機能として欠かせないかどうかで攻め方は違って来るが」
こと、グリモアは魔法の国だ。
俺が感じた所、異世界ギオスの魔法の原動力は人体のエネルギーにある。
要はRPGなんかで言う所のMPだ。
個々人に絶対量はあると思うし、寝れば回復するんじゃないか?
だから、敵が本当に首都を機能的に重視しているのかは怪しい。
グリモアとの戦争を勝つには、敵の戦力を徹底的に断つしかない。
そして作戦上、肝になって来るのがグリモアの国家元首であるファウストだ。
マラコーダや、シャムから聞く限り、ファウストが悪魔軍を召喚している。
それも無限に。
とすれば、当面はファウストを最重要ターゲットに据えるべきだ。
「マラコーダ、ファウストの居場所は?」
「閣下は国の象徴ですからねぇ、当然首都に居ると思いますが」
首都を陥落すれば俺達の勝利。とはならない。
俺達が首都を目指すのは、そこに居ると予測されるファウストを獲るためだ。
「……こんな時に、アビーがいればね」
「どうしてそこでアビーの名前が挙がるんだ?」
シャムが彼女を頼ったため、不思議になった。
「アビーって、暗殺が特技なんでしょ? ファウストを暗殺すればいいじゃない」
「アビーに出来るのなら、俺がやってみせてるよ」
「いやいい、ファウストは私の手で討ち取るって決めてるから」
いかにもシャムらしい手のひら返し。
シャムという女を相手にするのなら、こうでなくては。
「……ふぅ、失礼。私は少し疲れたので休ませて頂きますよ」
「平気ですか?」
「えぇ。ミランダが私達に掛けた弱体化の紋章以外は概ね問題ないですよ」
「そうでもしなくては、貴方達はまた牙を剥くでしょ?」
「その通りですよ、ミセス・ミランダ」
マラコーダや、グリモアの捕虜達にミランダは弱体化の紋章とやらを付与した。
その紋章を付けられると、相手はたちまちガス欠になる代物らしい。
その逆も。
ミランダが覚えた紋章術の中には仲間の戦闘力を上げる効果を見込めるものもある。
一介の華奢な踊り子に過ぎなかったミランダが、今では軍の要となっていた。
「で、どうするんだヴィラン?」
「戦力を二つに分散しましょう、一方が囮で、一方が首都へのルートを確保する」
首都へのルートは多少迂遠としていてもこの際構わない。
今回の戦争はいかに被害を抑えながら戦うかを念頭に置きたかった。
「囮役は俺が引き受けますよ、俺はグリモアから将軍首として認識されているようなので」
「じゃあ、首都までのルートを確保する部隊はキングに指揮を取らせるで良かったか?」
そうです、と言えば、ニードルは文句を告げず作戦の概要をキングに報告しに向かった。彼は出逢った頃から比べると、随分と素直になった。一昔前はリッツ領の狂犬と恐れられていたのに。
「ヴィラン、お前が囮役をすると聞いたが、具体的にどうする」
現在地から首都まで向かう道は三通りほどある。
このまま直線的に向かう道と。
北西にあるダイダロス方面から進軍する道と。
化け物の巣窟と化している、東側の海峡からの道だ。
どれも安全な道とは到底思えないが。
まぁ、こんな時こそ彼女の出番だろう。
「ミランダ、囮役の進軍先を君の未来視で見てくれないか」
「えぇ……――」
ミランダは瞼を閉じて、未来に意識を飛ばしたようだ。
「なるほど、ミランダの未来視はこういう時に頼ればいいのね」
シャムは感心するようにミランダの動向を見張っていた。
「だろう、今はミランダの邪魔するなよ?」
「どういう意味よ、私がいつ誰かの邪魔したって言うの?」
「お二人の仲がいいことは宜しいのですが、少し妬けてしまいますね」
「未来を見通せたか?」
「えぇ、私達が取るべき道が見えました。ヴィラン、東の方は気にせず、このまま直進して首都を落とす部隊と、ダイダロス方面を経由して進軍する部隊の二つに分けましょう」
これで決まったな。
問題は隊の振り分けだが、蟲詠みの戦力を一時的に失ったのは痛いか。
「直進する部隊には、キングさんと私で主に率いたいと思います。ヴィランやシャムさんと言ったメンバーは竜を引き連れて少数精鋭部隊として動き、シュウヤさんと合流しつつ動いて下さい」
「……ミランダ、本当にそれでいいのね?」
ミランダが下した選択に、シャムは確認を取る。
「えぇ、これが最も被害を最小限に抑えられる未来です」
ミランダのその言葉を聞いた俺は、ある種の呵責を覚える。
今回は国是として立ち上がらねばならない戦争だと、他の兵には伝えてあるが。最小限とは言え、被害に遭う兵達、言うなればたった今ミランダが見捨てた兵達のことを思うと、どうしても。
「どうしたのヴィラン? 思い詰めた顔しちゃって」
「シャムさん、それが国王たるヴィランの責任というものですよ」
どうしても、やるせない気分になってしまうのだ。
◇
その日の夜――
作戦が決まり、囮役として部隊を離れるメンバーもあらかた決まった。
囮役の部隊は俺、シャム、ラシェット、ミラ、それからリザードマンのディゴ。
以上のメンバーとそれぞれが頼りにしている配下を連れて行く。
「キング、こっちのことは頼んだな」
「約束しようヴィラン、俺はお前より先に首都を落とす」
「俺が頼みたいのはキングに預ける兵たちの安全だ」
「そんな弱腰でどうする……今のお前は以前に有った気迫がない」
俺としてはそれだけが気掛かりだ。
と、キングは出発前に消極的な俺を諫める。
「ヴィラン、準備は出来た?」
その折、準備をし終えたシャムがグレッグを連れてやって来る。
もう時間的な猶予は残されてないらしい。
「……キング、前以て伝えてあったけど、もしもお前が討ち取られたら、今回の戦争からは撤退するよ。何が遭っても――みんなを守ってくれ」
「俺よりお前の方が心配だがな」
「ヴィラン、そろそろ行くわよー」
「分かった、じゃあなキング、また会おう」
キングは一時の別れに際し、挑発的な眼差しを送っていた。
俺達囮役は主部隊から見送られ、一路北西へと竜の手綱を握る。
グングンと空を飛翔させると、主部隊の連中が豆粒のようになっていった。
まるで故郷から巣立つ時の心境に似ていて。
その感情は、蓬田塔矢の死に際を思い返してしまう光景だった。
あ、ぐぐいぐいと引き寄せる。
神「うわぁー、吸い込まれる」
私「こんな一大事に何を呑気なことを言っている神よ!!」
某日、神との平和な暮らしに危険が差し迫っていた。
神曰く、どうやら天国からお迎えが来てしまったらしい。
神の頭上にはぼんやりとした穴があって。
神はその不思議な穴にものっすごっい勢いで吸い込まれている。
神「うわぁー」
私「させるかぁあああああああああ!!」
続く。




