大戦
過去の住処だった闘技場へと向かう鉄橋の上には俺の弟が待っていた。
一見にして優しそうな顔をしている彼には、蓬田ミナトの面影はない。
母さんもこっちの世界に来て容姿が変わってしまったのかな。
とりあえず弟を名乗るシュウヤと握手を交わす。
「どうしてここに? 主から聞かされていたのか?」
「主、ですか? 兄さんも誰かの奴隷だったりするんですか?」
「ということはお前もか。俺の主は一応異世界ギオスの女神だ」
シュウヤは肩まで掛かった野性的な黒髪を風に靡かせ、へぇそうなんだと口にした。
俺は手っ取り早く弟との距離を縮めようと、その髪に手で触れ。
「男にしてはちょっと髪の丈が長いな」
「しょうがないでしょ、こっちは敵との攻防で大変なんだから」
髪を切る暇なんてないんですよ。
という初対面の弟の第一印象はまぁ割と良好だ。
「初めまして、私の名前はシャムよ。彼とは夫婦なの、よろしくね」
「兄さんにはお嫁さんもいるのか、失礼だけど、兄さんって今いくつ?」
「一応今年で二十一歳になる、お前は?」
「僕は今年で十八だから、三歳違いか」
となるとシュウヤはシャムと同い年らしい。
シャムは彼が俺の弟であること、同い年であることから気を許したようだ。
「ミランダです、私もヴィランとは夫婦やっております」
「兄さんには後何人奥さんが控えてるんだ?」
という具合に、シュウヤは俺の大切な臣下達と挨拶を交わし。
それを終えると、手短に用件に入った。
「兄さん、貴方が僕達の戦争に協力してくれるという情報を聞いて、僕達にもようやく勝機が見えた。だから嬉しいよ。その気持ちだけは、先ずは伝えておこうと思う」
「気にするな、俺もヨモギダミナトが酷い目に遭うのは見過ごせないんだよ」
想いを伝えると、シュウヤは儚い笑顔を湛えたまま「そうか」と呟く。
改装された鉄橋の両端に掛かっている枝垂桜が風に撫でられさざめき。
彼が纏っている儚さに、拍車をかけていた。
「作戦に関してはもう練ってあるんだけど、どうする兄さん?」
「内容を聞くわけにはいかないのか?」
「単純な話で、兄さん達と、僕達の勢力で、先ずはグリモアを挟み撃ちにする」
グリモア――それは今回の敵の一角で、悪魔の軍という異称を持っている。
グリモアは元々シャムの両親が統治していた国だと仄聞していた。
それがある日――シャムの両親である国王夫妻は配下のクーデターに遭い。
王族は散り散りに別れ、シャムやミラ達はクーデターから逃れるよう南下し。
そして彼女達は盗賊として身分を改めた。
「……」
隣に居たシャムに目をやると、両肩を手で抱え、塞ぎ込んだ様子でいる。
それは彼女なりの武者震いであり、気持ちが高揚している証拠だと思えた。
「どうやって連携を取ればいい?」
シュウヤに挟撃のタイミングについて尋ねると、重い表情をしている。
「できるだけ早い方がいい。僕らの国は北西の『古ローマ』と、東に位置する『第三帝国』からも侵略を受けているから……これ以上無辜の民に被害を及ばせる訳には行かない」
「なら俺達はこのまま進軍すればいいんだな?」
「当面の戦い方としてそうだね、けど――」
――兄さん達に、敵将の首を獲って欲しい。
「僕達はそう考えているよ」
「いいだろう、敵将の名前は何て言うんだ」
敵の大将の名前を尋ねると、シュウヤは一度開いた口を噤んだ。
名を口にするのも恐ろしいほどの存在らしいな。
「今さら兄貴面するのもあれだけど、お前達のことは俺が守るから」
「ありがとう……兄さん」
安堵を促すように手を置いた弟の左肩は、シャムやミランダのように華奢だった。
「じゃあ、僕達はダイダロスに戻る」
「ねぇ待って」
「何ですか?」
帰投しようとしたシュウヤを引き留めたのはシャムだ。
「今回の敵の中に、――ファウストって奴はいる?」
「居ますよ、ファウストは名目上、グリモアの国家元首ですから」
「おおっしゃ! ファウストだけは俺達の手で討ち取る!」
ファウスト、それがシャム達を国からおいやった仇らしい。
その名前が出て、ラシェットは吼え、闘志をむき出しにしていたけど。
「そう、ファウストは生きているのね」
「えぇ、平気ですか?」
「何が?」
「酷く動揺しているようですよ」
その名前を聞いたシャムは酷く動揺するよう、歪な作り笑いをしていた。
◇
その後、シュウヤ達は姿を消した。
何でもダイダロスには覇石を利用した特殊な能力を発揮する機械があるらしい。
別れぎわ、シュウヤから一振りの機械剣を貰った。
諸刃の剣の至る所に虹色に輝く覇石がほどこされ。
まるで宝石で出来た剣のように、繊細な印象を覚えた。
「不思議な子達だったねぇ~」
覇石を生成できるヘルメスはその機械剣を手にして、感慨する。
「なんであれば、その剣はヘルメスにプレゼントするよ」
「いいのかい? 太っ腹だねヴィラン、僕は嬉しいよ~」
「主に媚びを売って何が狙いだヴィラン」
俺の態度が気に食わなかったのか、キングが歯牙を剥く。何が狙いかと言われれば、それは軍を先導するキングも薄々気取っていることだろう。
――敵のおいでだ。
敵勢力は国境沿いに設けられているレンガ仕立ての長大な壁の前に陣取っている。
「――止まれ」
「……何故だ?」
すると敵の一人が音もなく一瞬にしてキングに肉薄し、俺達の進軍を制止する。
目の下に黒ずんだペイントを施しているそいつの顔色は、冷え切っていた。
「ここから先はグリモアの領地となる、領土侵犯は即、戦争を意味する」
「ならば戦争だ」
キングは敵の言葉を意に介さず、堂々と戦争を申し込む。
「本当に宜しいのか? お互いに無傷では済まないぞ」
「戯言を。さすがは悪魔だ、どいつも口車が上手いと見える」
「嘘だと思っているのか?」
「そういう意味ではない」
グリモアの軍勢はどいつも曲者みたいだな。
口では平和を主張するが。
「本当は殺し合いがしたくて堪らんのだろう?」
「……そんなはずな――」
「口ではどうとでも言おうが、貴様の面はさきほどから嗤っているぞ」
キングに真実を突き付けられた敵は隠していた殺意に素直になったようだ。
堪えていた嘲り顔を表面化させ、喉を嗤わせるように震わせている。
「デハ、今より我らグリモアと、貴君の国は戦争し合う、ソウイウコトデ」
そしてそいつが右手を上げると、それが合図だったのだろう。
奴の後方に待機していた敵勢が攻撃し始めた。
降りしきる爆撃の雨が、俺達の軍を瓦解させ始める。
「各自に告ぐ!! 極力陣形を崩さず、敵を打破しろッッ!!」
「ヴィラン、お前は先に行って、奴らに一泡吹かせてこい」
とすると、キングは早速自分の目標を絞ったようだ。
奴は俺達に宣戦布告した場所から一切動かず、卑しい目つきで俺達を睥睨していた。
「私の相手は君達で宜しいか?」
「貴様の相手は俺一人だ」
「嗚呼、嬉しいよ――キング、君の主であるヘルメスは私が蹂躙してあげよう」
奴には読心術でもあるようだ。
キングの名前を諳んじて、さらにはヘルメスの存在にいち早く気付いていた。
こういう奴。
未知数の能力を持ち合わせ、戦場の中で狼狽しない奴は。
「――では、いくぞッ!!」
キングからしてみれば、格好の敵なんだよな。
ねぇ、後書きはここにいるよ?
こんにちは、無駄に後書き欄に改行して不安を煽ってみました。
アジテーターのサカイヌツクですぅ~。
まぁこれは一種のSMプレイだと思えば、放置系の奴だと思います。
じゃあ、読者の皆様に今一時だけ豚になって頂いて……。
僭越ながら私が令嬢役になります、では、いきますよ?
あ、まだ居たの?
ごめんなさい、私、あの人のことが忘れられなくて……。
お詫びに、私の足を舐めてもいいから、ね?




