ヨモギダシュウヤ
「お帰りヨモギダくん、修行は上手く行ったかな?」
エルドラード帝国の皇帝ベガは物見遊山といったようすでそう聞いた。
だから俺は手を握りしめ、身体の感触を入念に確かめる。
「問題ない、修行の成果は確かに反映されているみたいだ」
「それはよかった。じゃあ後は宜しく」
そう言うとベガは快活な顔をして、片手を上げてこの場を立ち去った。
かつてのクラスメイトだったというベガの飄々とした態度に唖然とする。
「どうした?」
黒木がそんな俺に何をぼけっとしているのか尋ねる。
「いや、あいつが本当に元クラスメイトだったのか、全然印象になくて」
「竜ヶ峰はここに来て誰よりも変わったよ。俺もいまだにあいつはよく分からねぇな」
「……出来れば、俺の代わりにお礼を言っておいてくれ」
◇
メルラシエの修行を終えた後、一日の休暇を挟みエルドラード帝国を発った。
ここから北西へ向かい、かつて俺達が興業していた闘技場の街まで向かえば。
母の国を侵攻している敵勢力との国境に直に辿り着くだろう。
聞いた話によると、過去に爆破された鉄橋は今は元通りになっているらしい。
「……」
そこの道筋を辿っていると、ニードルが不機嫌そうにしているんだ。
「懐かしいですね」
「何がだ、貴様まさか『あの事』を他の誰かに漏らしてないだろうな?」
「何のために? 例え誰かに話したとしても、些事の範疇ですよ」
ニードルと昔を回想していれば、シャムが不思議そうにしていた。
「何の話?」
「これは俺とヴィランの因縁だ、シャムには関係ない」
「ニードルさん、貴方って律儀な人よね」
「そ、そうかな」
シャムから律儀な人と称されると、ニードルは得意気に笑ってみせる。その哄笑は鉄橋が掛かっている渓谷に木霊していて、ちょっと異質な情景を浮かべている。
「ヴィラン、前方に何者かの影があるぞ」
すると軍隊を先導していたキングがその報告を耳に入れる。
「早速のおでましかしら」
「シャム、お前は下がってろ」
庇うようにシャムの前に身を乗り出すと。
「ヴィラン、貴方は下がってて」
シャムは俺を手で押し退けてさらに前に出る。
どうやら、シャムは今回の戦争でどうしても過去の因縁と決着付けたがっている。
「キング、敵なのか?」
「全軍止まれ! 俺が直接何者なのか問い質して来る」
「あは~、だったら僕も一緒するよキングー」
キングだけであれば不安だった言及も、ヘルメスが一緒なら安心だ。
何と言ったってヘルメスは神の一柱だからな。
「各自、周囲を警戒しておけ。もしかしたら敵が潜んでいるかも知れない」
「それはありません。私の眼にここでの敵襲は見えなかったので」
とは言え、ミランダ、俺は知ってるんだ。
今回の敵には君よりも強い未来視を持った化け物がいることを。
「ヴィラン、どうして私の邪魔をするのよ?」
キングが不穏な影の正体を尋問している間、シャムが突っかかって来た。
だから俺は、不満そうに斜に構えている彼女の両肩を掴んだ。
肌を露出していた彼女の両肩からは、確かにシャムの存在を感じられる。
「俺はもう二度と、君や、ミランダ、この遠征軍に参加しているみんなを失いたくない。だからだ」
「……でも現に私達はこうしてここに居るじゃない」
「杞憂だとでも言いたいのか?」
俺が体験して来た凄惨な現場を、彼女は夢や幻にしたがっている。
俺だってあんな思いは夢幻となって、消えて欲しいと願う。
「ヴィラン、ちょっといいか」
シャムと不協和音を重ねるようなやり取りをしていると、キングから呼ばれる。
「何だ? 奴らは一体何者なんだ?」
「彼らはお前の味方だと主張している、一部の者はお前の弟を名乗っている」
「……弟? 俺の?」
それは決してありえなくはない話だった。
俺の母が、異世界ギオスに来て、誰かと見初め合い子を成す。
そうすれば必然的に俺にも弟分が出来る、のではないか?
弟の話を出され、俺はシャム達を連れて件の連中に近づいた。
「初めまして」
「初めまして、もしかして君が俺の弟を名乗った人か?」
そいつにはどこかで見覚えがあった。
誠実そうな顔貌をしているが、装飾品や身に着けているものはどこか異様というか。
中でも注目したのが彼が持っている機械式のボーガンだ。
「そうです、名前はヨモギダシュウヤ。ヨモギダミナトの息子の一人です」
「……母さんは今どこで何を?」
蓬田ミナト、それは正しく蓬田塔矢の実母の名前であり。
事情を知らない人間が当てずっぽうで口にできる名前じゃなかった。
こんにちは、サカイヌツクです。
近頃の世情のため、自分もハイパー自粛中(引き籠り)ですが。
そんな自分に出来るのは、部屋の換気ですね。
さぁ空き巣泥棒、今よ!!!!
来たら刀の錆にしてくれるわァ!!!!




