修行
メルラシエの修行場から旅立った俺は過酷な状況下にいた。
俺達を送り出した黒木があの時――末恐ろしい代物だと言った理由がよく分かる。
日が昇り、その日も修行が始まるのかと思うと憂鬱すぎて吐き気を催すし。日が暮れる頃合いには体力が底を尽きてすぐに眠りについてしまう。その翌朝の陽光を目にいれ、まだ死んでなかったのかと安堵して。その日空を彩った風光明媚な夕焼けを、彼女達と一緒に見れないことに孤独を募らせる。
正に毎日が地獄だった。
毎日が地獄で、日進月歩の足並みで強くなっている自覚が芽生える。
でも、強くなっていく裡に思うんだ。
俺は一体何のために強くなりたかったのかな、と言う具合に。
「……お帰り」
その迷いをもたげた瞬間には、メルラシエが居る濃霧に包まれた湖に呼ばれていた。
素直にただいまとは言えそうにないが、俺はメルラシエに頭を垂れた。
「貴方のおかげでまた一歩、本当の自分に近づけたような気がします」
「羨ましいことを言うなよ」
「所で、俺以外にここへ帰って来たものはいないんですか?」
と言うと、メルラシエは湖の周辺をぐるりと指でなぞらえた。
その指の動きに従うように動いている影があって。
「ラシェット、何やってるんだ?」
その影の正体はシャムのお付きをやっていた鷲鼻の男のラシェットで。
彼は湖の周りをぐるぐると歩き、顎に手をやって思案しているようだ。
「ヴィランか? ちょっと考えてたんだ」
「何を?」
「……実は、お前には言ってなかったことがある」
「何を?」
ラシェットの思いがけぬ告白に、俺は飄々と返した。そのくらいラシェットとの会話に興が乗ったというか、言葉遊びに近い感覚だった。ここ近日は誰かと話したくてうずうずしていたから。
「今回の戦争の敵に、俺達の仇がいるらしい」
「お前やシャムの国を潰した連中か?」
聞くと、ラシェットは頷きながら「ああ」と肯定する。
今さらながらだけど、俺はラシェットの眼差しに注目した。
ラシェットの黒い瞳には深奥があって、見る者を惹き込む魅力がある。
とても強い眼差しだ、察するに今回の戦争に入れ込む決意はかなり固い。
「……何だよ? シャムも言っていたが、これにはお前は関係ないからな」
「なら何で俺に教えたんだ、関係ないなんて言いきれないだろ」
「そうだけどよ……俺達の国を滅ぼした連中を討つのは、俺達自身がやらなきゃ」
――それこそ、俺は本当の自分を永遠に見失っちまうだろうよ。
その答えにラシェットが辿りつくと、ラシェットの背後に扉が現れたみたいだ。
「じゃあ、俺はそのためにもっと強くならなきゃいけねーから」
「頑張れよ、お前達のことは世界中の誰よりも応援してるよ」
「その唐突な声援に、俺はどう応えればいーんだよ」
と言い、扉の向こう側に消えていくラシェットを見送った後。
メルラシエのひざ元に向かい、彼に確認を取った。
「メルラシエ、貴方の修行はどのくらいで終わるんだ?」
「それは俺じゃなく、ミランダが教えてくれるだろう」
ミランダが? 確かにミランダには強い未来視があるが。
だが、今回の敵の中にはミランダと同じ未来視を持っている奴がいる。
それが、前回敗北した時、今わの際のミランダが言い残したことだった。
「……――っ」
ミランダを失くした時の記憶が脳裏を過る。
シャムを失った時の映像が、瞼を駆ける。
戦争の敗北者が味わう荒涼感は凄まじいものがあった。
「震えているな、どうした?」
「……告白しますよ、俺がどうしてここにやって来たのか」
そして俺はラシェットに釣られるように、メルラシエに事の発端を打ち明ける。
メルラシエは俺の話に相槌を打ちつつ、耳を貸してくれた。
「ちなみになヴィラン」
「主はどこにでも現れるのですね、何でしょうか?」
そうしていると麗しい俺の主が冷ややかな風と共にやって来る。
メルラシエは女神の登場に特に歓待するわけでもなさそうだ。
「お前が今回戦おうとしている敵の中に、神格を持った奴がいる」
「……誰ですか? そいつは」
「――アーサーだよ、モルドレッドの宿敵だな」
つまりお前は今回神の一柱と殺し合うわけだな、と主は言葉を続ける。
「神を殺してもよいものなのでしょうか?」
「よいのではないか」
と言ったのはメルラシエだ。
メルラシエは同じ神の一柱として、神殺しを否定しない。
「我々は神格を与えられた存在とは言え、絶対神は女神なのだ」
主、どうやら俺は貴方のことをなめていました。
なまじ貴方との距離が近かっただけに、主の偉大さを今さらになって知る。
メルラシエから存在を湛えられた我が主は、照れくさそうにするでもなく。
ただただ、悠然とその場に立ち尽くしていた。
キエエエエエエエエエ!(エンジェル伝説感)
どうもサカイヌツクです。
何かと大変な世の中になって参りましたが。
私としては、例年のように未曾有の事態を迎えておりますので。
とりあえずめげずに生き抜くことを大事にしております。
読者の皆様の中で、今非常に辛い状況にある方もいるやもしれません。
その人たち含め、僕はとりあえず今作を更新します。
それで、出来れば読者様のために一時の楽しみを共有できれば、幸甚だと思います。




