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在ったのだと


 修行、もとい、俺達の自分探しが始まって二日目のこと。


「ヴィラン様、俺と一つ手合わせ願いたい」

「いいともディゴ」


 リザードマンでも特に才気溢れるディゴが俺に模擬試合を挑んで来た。


「止めろ、ここでの力比べは俺の許可なしでは認めない」


 しかしその申し出はメルラシエに却下されたようだけどな。


「……では貴方の許可を頂きたく」

「リザードマンの匹夫よ、俺の言うことが聞けないか」

「確かに貴方は強い、対峙しただけでもわかる」


 ――だが、俺はじっとしていられない。


「それが生来からの性分だ、許して欲しい」


 ディゴは自分自身の性分をよく理解しているようだ。

 俺はディゴとは違い、未だ己が胸像が見えてこない。


 メルラシエの言いつけだと、今はただ瞑想し、本来の自分を見出す時らしい。


「では、その誤りかも知れぬ認識を正してやろう」

「と言うと?」


 今のメルラシエは筋骨隆々とした姿だった。

 そのゴツイ右腕を目に留まらぬ速さで振ると、彼は一本の槍を手にしていた。


「やるぞ」

「……感謝する」


 すると二人はとつぜん模擬試合をし始め、刃を交える。


 メルラシエが繰り出す槍の穂先の軌跡は練達に至っているように見える。


 ディゴの三日月刀に合わせるよう繰りだされる槍捌きはまるで――舞踊のよう。

 しかし、出鱈目もいい所だった。


「くっ!」


 なのに圧倒的な戦力差を露呈するように、メルラシエはディゴを押している。


「……」

「どうしたのキング?」

「いえ、メルラシエの力量を見極めようと思い、つい注視してました」

「あはー、そうなんだ」


 二人の試合に注目しているのはキングだけじゃない。

 俺やシャム、戦闘嫌いなミランダさえも熱心に見ていた。


「不思議ですね」

「何が?」


 不思議がっていたミランダにシャムが尋ねる。


「二人のやり取りは直接刃を交わしているはずなのに、音が静かすぎて」


 と言われ、俺も違和感を覚えた。


 ディゴの刃を変則的とは言え、メルラシエを獲りに行っている。

 メルラシエは踊るようにそれを受け止めるが。

 二人の剣戟が全くと言っていいほど、耳に届かない。


「あ、本当。不思議ね」

「シャムの良い所だよな、そうやって自分の理解を超えるものには一向に目をくれないのは」


 シャムの今のトーンは大体そんな感じだった。

 そう言うとシャムは物凄い形相で俺を睨み始める。


「……殺す」

「そこまで怒ることないだろ」

「子供扱いは止めなさいよ」

「ああ、悪かった」


 程なくして、二人の模擬試合にも幕引きの時が来た。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「……上を見よ、リザードマン」

「上?」


 疲弊したディゴの上空にはメルラシエの槍が回転しながら迫っていた。

 メルラシエがいつの間に槍を放ったのか、まったく分からない裡に――ッ!


「ぐっ」


 放られた槍はディゴの背後に落ちて、リザードマンの尻尾を断ち切っている。

 そしたらディゴはリザードマンの姿から人間の姿へと変わり。


「どうだリザードマンよ、いや、ディゴ。お前は本当の自分を見出せそうか」


 その場に片膝ついたディゴは首を横に振る。


「こんな脆弱な自分を、俺は本当の自分と認めない」

「それもまた佳し」


 ディゴの飽くなき向上心を、メルラシエは否定しない。

 ディゴの心がけは見習わねばならないな。


 ◇


 メルラシエの修行場に三日滞在したが、心中穏やかじゃない。

 ここは退屈だ。


 修行と言われ、どんな苦難が待ち受けているかと思えば単なる瞑想だからな。

 日本の病院の待合室で数日間待たされているのと一緒だ。


 苛立ちだけが募る。


「……ねぇキング」

「何でしょうか?」

「退屈じゃないかな?」


 どうやら神の一柱であるヘルメスも、痺れを切らし始めたようだ。


「主、今は修行中です故、ここは堪えましょう」

「えー、その反応は僕が知ってるキングじゃなーい」


「……ヘルメスとキングの関係性は?」


 そう聞いたのはかくいう俺だ。


「キングと僕の関係は、親子に近いかなー」

「余計なことを聞いて主を煩わせるなヴィラン」


 親子に近い、か……俺も主である女神とはそう言った関係だったな。


「そう言えばお前は黒木の友人と名乗ったな、あいつは元気にしてるのか?」


 メルラシエは天女のような容貌をして黒木の近況を俺に聞く。


「元気にしてましたよ。けど、あいつと再会したのは二十年振りですから、そこまで詳細は知りません」

「現実に帰ったら言っておいてくれ、たまには顔を見せろと」

「承知いたしましたが、黒木は貴方の何なんですか?」

「黒木は前世の記憶がある稀有な存在だが、ここでのあいつは私の息子だ」


 神格を持っている連中は揃いも揃って子持ちか。


「それって誰との間に出来た子供なの?」


 湖に足をつかしていたミラが、天を仰ぎながら寝ぼったい声で聞いていた。


「……存外、この中に相手がいるかもな」

「ヴィラン、貴方の女狂いは治してちょーだいね」


 メルラシエの冗談と分かりきっているのに、シャムはそう言う。


「シャムと出逢って以来、俺は俺のままだったろ?」

「私と出逢う前までは童貞だったのは知ってる」


 ならシャムは処女じゃなかったと? それはないだろ。

 とは思えど、口には出来ない。


「お前はどう思うドロシー?」

「そこで私に話を振るか!?」

「何かいけなかったか?」

「いや、特に問題はない」

「って言うことだよシャム」

「私はまだ何も言っていないぞッ」


 このように、かつて敵対していた蟲詠みとの関係性も友好だし。

 今回の戦争もヘルメスの覇石生成を活かして、平和的に進められないだろうか。


 そんな妄念を過らせていると、メルラシエが口を開いた。


「皆、気を散らせすぎだぞ。ここでは集中して自分を見出せ」


 ――自分は世界に取ってどんな存在なのか。

 ――自分はどこから来て、どこへ向かうのか。

 ――自分は、誰だったのか。


「問い詰めよ、己が心に」

「……」


 自分の正体に迫って、それが何になる。

 今俺達が欲しいのは、誰にも負けない力だ。


 ならば力とは――?

 ならば俺とは――?

 ならば異世界ギオスとは――?


 こうして自問自答していると、幼い頃を思い出す。

 俺を産んでくれた母を亡くした父が遺影の前で肩を震わせて涙を垂らしている。


 あれ以来、誰かが嗚咽を漏らす光景を見る度、胸が張り裂けそうだったっけな。


 ◇


 そして一週間に及ぶ瞑想を終えると、メルラシエは男の姿で立ち上がる。


「お前が最後だヴィラン」

「最後?」

「気付いていないようだな、他の連中はとっくに自分を見つけた」


 言われ、周囲を見回すと白い濃霧だけが視界に入る。

 シャムは? ミランダは……みんなは何処へ消えた?


「お前以外はとっくに自分を見つけた……と言っても、また直ぐにここへ戻って来るだろう。我らは誰でもなければ、何者でもない。皆一様に生命の木に生った果実。生を成し遂げ、そしてその時になってようやく」


 ――己が在り様を定められる。


「……ヴィランはまだ、己を見つけられない。これが答えなのだ」


 黒木は言っていた、メルラシエは究極の自分探しをしている最中だと。そしてメルラシエは言った、命は一生を終えてこそ、初めて本当の自分に辿りつくのだと。ならば、


「ならば、貴方は死を追い求めているのか?」

「……生憎、俺は不死の身体だ」

「永遠にここに閉じこもっているつもりなのか?」


 と言えば、メルラシエは穏やかな笑みを浮かべる。

 肯定的とも、否定的とも取れないその表情は無限の可能性を窺わせていた。


「……貴方のようになれるのだろうか」

「俺のようになる? その前にお前が何者であったか示す必要があるな」

「俺に死ねと?」

「生きろと言っている、何故ならお前はまだ俺には成れてないのだから」


 そう言うメルラシエの面持ちをよくよく窺うと。

 彼はいつの間にか蓬田塔矢の容貌を纏っていた。


 久しぶりに蓬田塔矢の姿を目視して、懐かしい気持ちに帰る。


 確かに今の俺は何者にも成れてないが、その一生を全うした蓬田塔矢が何者で在ったのか想像できたような気がした。蓬田塔矢はたんなる――親不孝者で在ったのだと。


 その悟りに行き着いた時、明光が射した気がした。

 俺は蓬田塔矢のようには決してならないと。


 すると、メルラシエの背後に輝かしい円の扉が現れた。

 それは源光庵にある悟りの窓のように在って。

 窓から見える景色は、主が見せてくれたかのような美しい光が広がっている。


 メルラシエの顔を窺うと、その扉をくぐれと言いたそうにしていたんだ。


「……――行ってきます」

「己が何者か迷った時、また会おう」



お早う御座います、いつか読者の皆さんから先生と呼ばれたいサカイヌツクですぅ。

駄目かね(´・ω・`)


平沢進さんの白虎野の娘を朝から聞くといい気分になれます。

朝冷えした私のマントルが再起するような、そんなアゲアゲな曲です。


師匠(平沢さんの尊称)の曲はどれもこれも歌詞がいい。

私もいつか師匠のような感情豊かな文章を書きたいです。


駄目かね(´・ω・`)

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