表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/97

モルドレッドの幻影


「ねぇヴィラン、どうして遠征軍をエルドラード帝国に向かわせるの?」

「……あのまま西に進軍し、海峡を横断する際に軍の半分を失うからだ」

「どうして?」

「海峡には敵国の防衛網が敷かれているんだ、説明したと思うが?」


 だから俺達は今、遠征軍を南南西に針路を取り進めている。


 竜の両翼で二日掛かった大砂漠を縦断するのに、後どのくらい掛かるだろうか。


「モルドレッドの山脈を通って、帝国に向かい、一度皇帝に謁見する」

「そんな悠長なことでいいの?」

「あのまま強行軍を進めていれば、シャムは死ぬ運命にあるんだ」


 説明したと思うが?

 そう言っても、シャムは不満そうな表情で明後日の方向を見るばかりだ。


「私は私の目で見たことしか信じないのよね、お生憎様」

「ですが」


 そんなシャムに、ミランダが懸念を上げるようにして。


「ヴィランが私達の前で、涙を流したことなんて今までありましたか?」

「うーん、それはそうなんだけ、――ど!?」


 その時、巨大な黒い影がシャムを襲っていた。

 影の正体はグレッグ――シャムが今まで面倒見て来た竜の稚児だ。


 ――グレッグ、悪戯は止しなさいよ!


 シャムは砂漠の上空でグレッグと戯れている。

 その光景は見飽きていたが……けど。


 けど、何より失ってはいけない光景だったのだ。


 ◇


 遠征軍は疲弊しながらも砂漠を踏破し。

 そして見えて来たのはモルドレッドが支配していた山脈の荒涼とした岩肌だ。


「あの山脈は竜籠(りゅうかご)で越えようと思う、各自用意してくれ」


 竜籠とは、俺達の国が運用している移動手段の一つだ。

 まぁただ単に竜の身体に合わせた運搬用の籠をくっつけただけだが。


「……ヴィラン、俺と一緒にモルドレッド様の墓参りにでも行かんか」


 そう申し出て来たのは人間嫌いの竜として有名な黒竜のアルゴだ。

 モルドレッド亡き今、竜の統率を図っているのがアルゴだった。


「別にいいが、竜も墓参りなんてするんだな」

「……参ろうか」

「あ、ヴィラン、モルドレッドの巣に行くなら覇石がないか見ておいてよね」


 抜け目ない提案をして来たシャムに片手を上げ、了解と伝えた後。


 俺はアルゴと一緒に山脈の中腹にある竜の巣窟へと向かった。


 青白い岩肌には薬にも代用できる天然の苔が自生し。

 二年振りに来たが、ここはどこか既視感のある神々しさを保ったままだ。


「ヴィラン」

「……モルドレッドか」


 妙な既視感に浸っていた時、人間の姿をしたモルドレッドが洞窟中央の湖に現れた。


「何か用か?」


 モルドレッドの幻影に近づくと、奴の声の輪郭がくっきりと浮かぶ。


「用? 私が言いたいことはもう理解しているだろう」


 ――アーサーを殺せ。


「さもなくば、私にお前の身体を差し出せ」

「聞けない話だ」

「ヴィラン、貴様は何のためにモルドレッド様を殺した」


 アルゴが背後から俺と奴の対話に口出しして来た。


 とすると、アルゴにもモルドレッドの幻影が見えているのか。


「俺がモルドレッドを斃したのは、生きるためだ」

「では何故アーサーに牙を向けた」


 モルドレッドは何よりもそこに拘る。


 過去に何が遭ったか知らないが、モルドレッドはアーサーという竜に心底執着していた。


 前以て言っておけば、今回の遠征軍の目的地に彼の竜はいる。


 俺達は敵国の圧倒的な力に、大敗してしまったのだ。


「モルドレッド、お前の宿敵に歯牙をかけたのは、母を救うためだ。そしてそれが今回の主からの命令だったからだ」


「では何故女神に従う」


 何故?


「これ以上は議論にならない。さっきから何故、何故と喧しいんだよお前らは」


 そう言い、モルドレッドの幻影を手で払えば。

 幻影は陽炎を伴うように揺らぎながら消えた。


「……ヴィラン、モルドレッド様の犠牲を無駄にするなよ」

「犠牲と言われても、アルゴは奴の何を尊敬していた?」


 と言いつつ、アルゴの顔を窺うと、アルゴの瞳が光っているようだった。


「まさか、今のモルドレッドの幻影はお前が見せた幻か?」

「だったらどうする」

「お前も瞳術を使えると言うのか?」


 そう問うと、アルゴは獰猛な竜の顔貌をさらに箔つけるよう歪ませた。


「だったらどうする? 最も、矮小な俺が使える瞳術は幻術程度だがな」


 思わず、言葉にあぐねいていると、後ろから誰かに抱きとめられた。


「ヴィラン~、僕はこんな美しい光景を目に入れて最高の気分だよ~」

「この声はヘルメスか」


 彼女は酩酊しているのか、若干酒臭い。


「主、そのような無節操な男に抱き付くのはお止め下さい」


 ヘルメスと言えば戦狼の奴隷のキングが付きものだ。


「……キング、今回はお前の力を何よりも頼りにしている」

「ああ、今回の戦争、誰よりも戦果を上げるのは戦狼の軍勢だろう」

「その意気で頼む」


 ……っ、けど、前回はキングや俺の力を以てしても、大敗した。

 これは情けないことだ。

 自分の力に慢心し、計略を軽視し、軍を瓦解させてしまった。



この世は、数多のヒロインを産んできましたよね。


ゲロイン、チョロイン、駄女神、そしてビッチ。


ああ、何て、何て業が深い……。


私は宿業を負って生まれて来た彼女達にこう言ってやりたいです。


私「そんな君が居てもいいb」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ