母が願ったからだ
「で? 何が遭った?」
城の玉座へ向かうと、重役達が勢ぞろいしていた。
「ヴィラン、貴様の後任を決める時が来たようだぞ」
「少なくとも俺の後任はニードルさんじゃないのでご安心を」
「俺がこの国にどれほど貢献したと思っているんだ貴様は」
「確かに、貴方がいなければ国の治安はここまで保たれてなかったかもな」
重役は玉座の前を扇状に取り囲み、思い思いに俺を覗っている。
いつからだろう、この面子でこの様な会議をし始めたのは。
「で、ミランダ、具体的に何が遭ったんだ」
「……その前にヴィランのお母様について質問させて貰っても宜しいですか?」
俺の母について?
「悪いが、俺は物心ついた頃には主に育てられていたから」
「では、ヨモギダ・トウヤの名前について心当たりは?」
「……」
思いがけぬ名前を久しぶりに耳にして、ミランダの双眸を見つめ返した。
ミランダの藍色の瞳は覗き込むだけで暗い過去が浄化されるような神聖性を持ち合わせ、かつてはなかった自信に満ち溢れている。二年前と今の彼女の変貌を傍で体感し、毎日が驚きの連続だったかも知れない。
「心当たりあるが、ヨモギダがどうしたんだ?」
「ヴィラン、貴方のお母さまの国が今、列国の侵攻を受けています」
「それってつまりどういう意味だ?」
ミランダの今回の予言には要領を得れなくて、もっと具体的な内容を聞きたかった。
そしたら彼女は俺に近寄り、手を取って耳打ちしたんだ。
「貴方が地球という、ここではない世界から転生して来たのを、極一部の者は知っています」
「……ふーん」
言われた俺はその『極一部』と思わしき顔ぶれを窺った。
シャムに、レギ、ラシェットにミラ、ニードルはないか。
それからキングとヘルメスと言った所だろう。
今挙げた六人、ないしは七人は、この国の発展に大きく貢献してくれた。
中でもヘルメスによる覇石の生成は国の一大資産として他国との外交に役立った。聞いた話によると、遠方の国では覇石を動力源とした機械化文明が発展したらしい。
「それで?」
「今言いましたように、貴方のお母さまの国が列国による侵攻を受けています。私達は貴方のお母さまを救うと同時に、国のさらなる発展のために遠征軍を当該国へ送ることを進言致します」
ミランダの未来予知に一切裏切られたことはない。
にしても俺の母親? あの人ぐらいしか思い浮かばないな。
異世界ギオスに転生して来る前、散歩に出向く俺を仕方ないと言った感じの表情で見送ったあの人ぐらいしか……あの人との思い出を回想していると、無性に地球が懐かしく思えて来るから不思議だ。
「いいだろう、陣頭指揮は俺が取ればいいのか?」
「ヴィランが行かなくて誰が行くのよ」
シャムは二年前と変わらず、今も口喧しく俺に小言を告げる。
でも、二年後の彼女は昔にはなかった美しさをかもし出していた。
肩まで伸ばした青毛の黒髪は風に撫でられるたび、馥郁とともに精緻に揺れ。
宝石の瞳は以前にはなかった強い意志力が籠められていて。
体付きは触れれば体温の熱で溶けて消え入りそうなほどの繊細さを保っている。
彼女が街を歩けば戦狼だろうと、蟲詠みだろうと意識を惹かれているようだ。
そんなシャムを狙う男の影が絶えなくて。
ここ二年、俺は極力シャムを傍に置くように意識していた。
「ヴィラン」
「主のお出ましですか、とすると今回は大事なんでしょうね」
一方の俺の主である女神の容貌は二年前から何一つ変わっていない。
されど貴方は美しく。
今でも主は俺の理想形の人だった。
「私は忙しいご身分なんだよ、常時お前に構っていられない」
「今回は何用ですか?」
「特だった用件はないな」
「さっき忙しいと自分で仰ったじゃないですか」
やや礼儀に欠いたことを口にすれば、主は俺に歩み寄る。
「思えば、私がお前を異世界ギオスに転生させた本当の理由は今にある」
主が歩くたび、新世界の音が聴こえるような気がした。それは地球でもなく、異世界ギオスでもないまた別の扉の向こう側から聴こえて来るようで。
ゆっくりと歩んで来るその――宣告に、ばれないよう固唾をのみ込む。
「……と言いますと?」
「ヨモギダ、お前が異世界ギオスに転生したのは、お前の母親が願ったからだ」
願望を叶えたい、飽くなき私の欲望よ叶い給え・・・。
――時は世紀末XXXX年。
サカイヌツクの願いが世界を見たし、世紀末覇者はやって来た。
世紀末覇者「破ぁああああああ!!」
モブ「おら! 駄目だ、こいつ強ぇ!」
世紀末覇者「破ぁああああああ!!」
モブ「おら! こらおら! だぼおら!!」
世紀末覇者「破ぁああああああ!!」
世紀末覇者は荒んだ世界を救おうと、気合い全壊で一縷の光を天に迸らせる。
――そして世界は救われた、かのように見えたが。
世界の荒廃そして、世紀末覇者による救世こそが、サカイヌツクの願いだったとかなんとか!
なんとか!!
続かない。




