能力試験
「私の名前を国名に宛がうのは止せ」
「……」
内心では、ですよねと軽い感じに、唐突な主の登場に返していた。
仮にこれが逆の立場であれば、俺だって棄却する。
「お前は嫁達と仲良くダンス踊ってれば、それで幸せだろ?」
「主、とりあえず他所で話しましょう」
ここは俺とシャムの寝室で、彼女は今こと切れたように寝ている。
「シャムの処女性は煩わしかったが、きっとそいつ明日から大人を気取るぞ」
そんな風にシャムを揶揄する主の背中を押し、廊下へと抜け出した。
明かりは天窓から注がれる淡い自然光が頼みだった。
もう直夜が明ける。
その頃合いに、主は俺とシャムの仲を引き裂かんばかりに現れたのだ。
「今回はどのようなご用件ですか?」
「お前は、地球のことはもう覚えちゃいないか?」
――お前は地球に置いて来た両親を、覚えちゃいないか?
「お前を失った両親の気持ちを考えたことは?」
「考えるまでもないですね、考えた所でしょうがないですし」
「それもそうだな、だが、両親はお前の遺体を前にしてこう願ったぞ」
どうか、蓬田塔矢が、来世では幸せになってくれますように。
それが父や、母さんが涙ながらに願った内容だと主は言う。
その願いに俺は覚えがあった。
それも蓬田塔矢をやっていた頃の時分に。
「世継ぎをつくると躍起になっているようだが、その前に国を立て直さないとな」
「世継ぎに関しては出来次第、報告しますよ」
「先発隊として旅立ったアビーのことも忘れるなよ?」
「ご忠言ありがとう御座います」
そう言えばアビーは今頃どこで何を?
彼女のことだから男でも引っ掛けているのだろうが……。
「今回はどのようなご用件でしょうか?」
主が用もなく人前に姿を出すのは、これまでの経験からすると考えづらい。
ふと、うつむき加減に主の顔色を窺えば。
彼女は神々しい美貌を、もったいぶることなく体現していた。
「さっきも言ったように、お前は両親の願いによって異世界ギオスに転生した。だから聞きたくなったんだ、ヴィラン――今のお前は幸せか?」
「……両親の身に何か遭ったのですか?」
「どうしてそう思った?」
「単なる杞憂ですが、今の俺が幸せかと問われても、返答に困りますね」
そもそもがそもそもの話で、幸せとは?
このさい一般論でもいい、誰か俺に幸せの指標を提示して欲しい。
「断言はできませんが、俺が幸せを語るにはまだ早いかと」
だって俺はまだ十九だから、蓬田塔矢の月日と合わせても四十に満たない。
「少なくとも、幸せは誰かから一方的に与えられるものじゃないさ。ならヴィラン、この国の民と一緒に幸せになってみろ」
と言い、主はギオス金貨を親指で弾いて寄越すのだった。
◇
「この国の民と一緒に幸せになる? どうやって?」
「知らないが、それが主から言い付けられた次の命令だ」
命令した後、主は消え去り、俺は二度寝した。
二度寝から起きたあとは、シャムと一緒に身支度をしている。
何の身支度かと言えば、今日も今日とて元老院との議会がある。
国政に乗り気なシャムとは違い、置物であろうと認めるほど俺は消極的だ。
「あの人ほど不可思議な人もいないわよ」
「……ともかく、この国を救わないことには次へ進めない」
「了解した、なら今日も気合い入れて掛かりましょう」
昨日の今日で彼女はすっかり長官気取りだ。
顕示欲の表れなのだろうか? 俺にはわからない。
◇
そして今日の議会が始まる。
議題は国が一丸となって幸せになること。
玉座の間に集った元老院に議題を告げると、静まり返った。
「ひゃっひゃっひゃ!」
「シノン、安易に笑わないように。これはヴィランが仕える女神たっての命令なんだから、罰が当たるわよ。とりあえずエスパダ、昨日言った人身売買の廃止はもう手配してるの?」
議会はシャムが主導権を握るように確認している。人身売買の廃止が実行されているのか、確認を問われたエスパダは萎縮するように手を揉んでいた。
「確か、私の認識によりますと、昨日の議会では何も決まってなかったかと」
「そんなことあるはずないじゃない、ねぇミラ?」
「昨日は人身売買の廃止、ヴィランの国王就任の通達、それと国名変更の三項目が決定されておりました。昨日の議会の様子は一部始終書き留めているから」
シャムのお付きの奴隷のミラは書記の係らしい。
「しかし、昨日の今日で奴隷商売を廃止しては確実に反感を買います」
「いい、分かった。ならエスパダ、人身売買の廃止の件は一週間で履行しなさい」
一週間も猶予をあげるんだから、ちゃんと実行すること。
と、シャムが命令した瞬間、エスパダの顔つきが変わる。
「何か勘違いしておられないかシャム殿、我らの王はヴィラン殿であって貴方ではない」
「今時国王が国のことを一から十まで決めるのは古代的なのよ」
「例え古かろうと、我らが守って来た大切な伝統なのだ」
「で――むぉ」
シャムが次に言わんとする反駁は手に取るようにわかった。
だから彼女の口を俺の手でふさぎ。
「エスパダ、ならこうしよう」
「どうなされるので?」
「シャムにはこの国の内政を取り仕切る権限を王である俺から与える。お前こそ何か勘違いしているようだが、俺は彼女が議会に口出すことに何ら不満を覚えていない。エスパダが理不尽な命令を受けて不機嫌なのはわかるが、この国の陋習は即刻撤廃しないことには、俺も気が気じゃない」
人身売買? そんなおぞましい蛮行を許すほど俺は日和見主義ではない。
中間管理職であるエスパダの言い分も分かるが、それがお前の役職だ。
不満があるのならエスパダは今の地位から背任する他ない。
「……私にどうしろと仰るので?」
「何もお前に限ったことじゃない、この場に集った元老院全員の能力を改めて査定するとしよう」
「どうやって?」
口にあてがわれていた手をどかし、シャムが素朴な疑問を口にする。
どうやって査定するのかと言えば、やはりここは試験だろうな。
「試験? 誰が試験管やるのよ?」
「試験管は俺が見つけて来る、それまでの間議会は行わない」
もっとも、俺には試験管に相応しい人物に心当たりがあった。
ミランダ――カリン王国から連れて来たあの令嬢であれば、何とかしてくれるんじゃないか?
んー、日本人として、時たま刀が欲しくなりますよね。
どうもこんにちは、両手に天下五剣を構えた夜叉のサカイヌツクですー。
私、趣味の創作で刀鍛冶についてリサーチしたことがありますが。
刀鍛冶職人の朝は早いんですよねぇ~。
そんな彼らが造成した、銘刀が欲しい、誰かくれ、くらはい。
ちなみに私が今一番欲しい銘は『雷切』です。
雷神を切り伏せた名刀とか、中二病にディープインパクトじゃないですか!!




