試験管の王国
「どうして俺が貴方がたの王になるのでしょうか?」
招かれた人狼の玉座の間には、血の臭いが漂っていた。この嫌な臭いを嗅いでいる限り、とでもじゃないが連中の王にはなれないな。俺を蔑視のような炯眼で見詰めている人狼の毛色は黒く、凶兆を覚える。
「事情を説明するまえに、先ずは俺の名を明かそう。俺の名はエスパダ」
「ヴィラン、俺の名はヴィランと言います」
「僕の名前はヘルメス、崇め奉るといいよ」
どこからともなくやって来たヘルメスはこの際放置するとして。
エスパダと名乗った居丈高な戦狼はすくっと立ち上がり。
玉座までに掛けられた八つの階段をおもむろに降りながら事情を説明し始めた。
「お前らが引き連れていた銀色の毛をした男の名はキング、あれは我が国始まって以来の最強の戦狼としてその名を知らぬ者はこの国にはいないほどだ。奴はその強さから、一代にして王座にまで出世した」
――しかし、奴はとんでもない徒おろそかな王だった。
「王になってからの奴はいつも気が抜けていた。戦いに飢え、血に飢え、ついにはこつぜんとその姿を玉座から消し去り、我が国始まって以来の危機を招いた」
「そう言えばキングの姿が見当たらないねぇ~、彼はどこへ?」
キングの主であるヘルメスがその所在を尋ねると。
エスパダは狼の口で片頬笑んで。
「奴なら奴が置いて行った妻子の許に向かわせた」
「そうなんだね……キングも隅に置けないなー」
それはどうでもいいが、キングがこの国の王だったことと、俺が王になること。
この二つに何の関係があるのだろうか?
「それで、どうして俺がこの国の王に選ばれたのでしょうか?」
「強さこそ、我が国の権威の証だからだ。無論、敵対勢力には適用しないがな」
そしてエスパダは目前にやって来ては、片膝付いて頭を垂れる。
まるで俺を王として迎え入れるための、最大限の礼儀を持たせるように。
「ヴィラン、我らが王よ。どうか我が国を救って欲しい」
「赤の他人に救って欲しいと言うほど、この国は窮地に追いやられてるのかな?」
ヘルメスが笑顔で先方の痛い所を突くように問い質すと。
――その話! 引き受けてあげようじゃないの!
「……シャム、盗み聞きするのはいいが、安請け合いは止せ」
玉座の間の入り口からシャムが奴隷を連れて押しかけた。
「ヴィラン! これはチャンスなの、お分かり?」
「明言するほどの好機だったか? 俺にはそう思えないが」
シャムと話す時はこう言う場面が多い。
特に理由も話さず、あーしろこーしろと喧しく口出しする。
蓬田塔矢やっていた頃の母とまるで同じだった。
「この国は素晴らしい立地をしている、と言うのが私達の見解だ」
シャムのお付きのミラが周辺の立地条件に太鼓判を押す。
なるほど、俺には土地の良さなんて分からないからな。
「それだけが理由か?」
「……他にも理由は一つあるけど」
ミラはそう言うと、俺の前で片膝付いていたエスパダを気にしていた。
エスパダは先程から動向を覗っていたので、自分には構わずと言った感じだ。
「この国は今内紛が起ころうとしている」
「内紛? アビゲイル王女の一件と同じ感じか?」
「大体は、私達もまだ詳細は知らないけど」
「……遅かれ早かれ、こうなる運命にあったのです」
曖昧だったミラの言質を補間するように、エスパダが口を開いた。
「我ら、戦狼という種族は酷く野心が強いもの。となれば、連中は国の安寧、体裁などよりも自分の地位や強さといった保身的なものにのみ価値観を見出す、愚かな種族なのです」
「貴方は俺に連中の王になれと言うが、今の話だけ聞くと責任を放棄しているようにしか見えない……俺はそういった無責任な連中の道具にされたくないな」
エスパダは俺の反論を受け、尚も頭を垂れた。
視界には映らない彼の表情が気に掛かる所だが、どうしたものか。
「……俺の妻も賛同的だし。試しになってやるよ、この国の王に」
これが俺の打算だった。
俺が一国の王になるには、まるで力が足りてないが。
しかし何事も経験は必要だ。
この国を試験管のように見立て、俺に王になれる素養があるかどうか実験してみようと思った。
タイトル:塩対応
私「らっしゃっせー」
神「来たよー」
私「……らっしゃっせー」
某日、私は神(旦那)に隠れて食品店で働きだした。
私の様子が気になったのか、神(旦那)が来店する。
私「ご注文は?」
神「適当でいいよー」
神(旦那)の注文にカチンと来たもんで。
私「はい、ご注文の塩1キロ!!」
神「しょっぺーなぁ~」
なんて風に、その日も惚気ました。




