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シャムの嘆き


「ヴィラン殿、君には私の帰路の護衛を引き受けて貰いたい」

「……護衛ですか」

「不可能だったかな?」


 正午過ぎ、邸宅前には二十台を超える馬車があった。

 これ、全部クラックの馬車なんだよな?


 クラック一人、馬車一台を護衛するのなら俺一人でも容易だろうが。

 だから俺の返事は歯切れが悪かった。


「誰かに狙われているんですか?」

「聞きつけた情報によると、盗賊が私達を狙っているらしい」


 リッツ領で跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している例の盗賊共か。


「荷台には何を乗せてるんです?」

「いずれも高価な品々だ。今回の舞踏会で知り合った貴族への献上品などだね」


 荷台の一つを拝見すると、アンティーク調の調度品がずらりと在った。

 これは時価にしてどれくらいの価値があるのだろうか。


 ◇


 リチャード邸宅を出立したクラックの行商は、彼が管理する財閥本部へ向かうよう南下していた。最強の奴隷との呼び声も高い、女神の加護を受けている俺は色々と脳内でシミュレートしている。


 クラックから託された馬車の護衛に、神経を研ぎ澄ましていた。


 ――――ッッッッッ!


 ……遠くから、何かの大群がこちらに押し寄せている地響きが聴こえる。


 本当に盗賊の連中が姿を現したようだ。


「テメエ等、馬車にあるものすべて俺達に寄越しなあ!!」

「出ないとテメエ等の命は保証しねぇぞ!!」


「何だね君達、実に騒々しい」

 クラックが律義に盗賊に素性を問いただしている。


「俺達はここらを縄張りにしている盗賊団だよ」

「分かったら、さっさと荷台にある品物全て差し出せ」


「……いいだろう、私や、私の奴隷たちに危害を加えないのなら」


 クラックが話に応じると、盗賊達は歓声を上げていた。

 きっと連中はこう思っているはずだ、今日はいい酒が飲めそうだ、と。


 結果的に、盗賊連中は馬車一台を残して他は奪い去ってしまった。


 俺はこの後の想定を脳裏で描いていた。


 金儲けの一環とはいえ、俺を一端の剣闘士に育ててくれた主に感謝する。


「お手柄お手柄、みんな、今日は御苦労様」

「シャム、この後で俺とデートでもしないか?」

「気が向いたら」


 ……シャム、やはり君は盗賊団の手の者だったのか。

 盗賊団でも、彼女の地位が気に掛かる所だが。


「ねぇ、これは何?」

「これは、棺じゃないか?」

「それは分かってるってば、どうして棺がここにあるのか訊いてるのよ」

「あー、例のリチャード三世の遺体でも入ってるんじゃないか?」

「ふーん……っ!?」


 すると彼女は棺の中を開け、見てはいけないものを見てしまったようだ。


「どうしたシャム?」

「……いや、何でもない」


 その後、シャムは棺を気に入ったと言い、自分の部屋に運ばせて。

 人払いをした後は、棺を足蹴にし始めた。


「……ヴィラン、どうして貴方がここにいるの?」

「もちろん、君達のアジトを確認するために来たんだよ」


 お察しの通り、俺は盗賊団が来る前から棺の中に身を隠していたんだ。


「私に会いに来た、とかじゃなく?」


 棺から抜け出て、彼女の部屋を覗った。

 岩壁に覆われたシャムの部屋には綺麗な衣装類が沢山置かれている。

 後は化粧台と、コスメグッズが散在しているぐらいか。


「ヴィラン、貴方一人がここに来てもどうにもならないよ?」

「先ず確認したいことがあるんだ」

「何? やぶからぼうに」


「先日亡くなったリチャード三世は、君達の仕業じゃないよな?」


 シャムにリチャード三世の殺人の真偽を問うと、神妙な表情を取った。


 保安部の推測によれば、彼を殺害したのはこの盗賊団だった。

 保安部の推測に俺は否定的じゃない。

 何故ならば盗賊団は舞踏会に招かれざる客だったからだ。


「そんな報告は受けてないなあ」

「そうか」

「用ってそれだけ?」

「……君達は一体何者なんだ?」

「見ての通り、盗賊だけど?」


 よくよくシャムを覗えば、彼女のいで立ちは盗賊のそれじゃない。貴族が着るような煌びやかなジャケットを羽織り、下は黒いスラックスを穿いている。例えそれが生業としている盗賊の一環で得たものだとしても、様になり過ぎていた。


「……もしかしてヴィランは、私達の生い立ちについて知りたいの?」

「それを含め、結果的に俺はリチャード三世を殺害した犯人を追っている」


 シャムの部屋に在った立派なソファーに腰を下ろすと、彼女は隣に座る。


 彼女が隣にやって来るとは思ってなかったので、萎縮して体をちぢこませた。


「舞踏会にはどうやって紛れ込んだんだ」

「招待状を貰って、それで出向いたんだけど?」

「その招待状を見せて貰えないか?」


 すると彼女は席を立ちあがり、化粧台の引き出しから招待状を取り出す。


「悪用しないって誓う?」

「ああ……」


『亡国の麗しい姫君、シャム様へ。お初目に掛かる、私はリッツ領を統治しているリチャード三世と申す。祖国を失った貴女にお悔やみ申し上げると共に、私が主催する舞踏会への招待状を認める。貴女も知っての通り、私の強引な行政改革は他の貴族達から非難されている。貴女はその後、亡き王国の配下を引き連れて盗賊団を結成したと聞き及んでいる。であれば、舞踏会に集まった貴族達に復讐してみるのも一興ではなかろうか。冗談はさておき、貴女を舞踏会へ招待する』


 盗賊であるシャムに寄越された招待状をざっと鑑識した。


「シャムは元々王族だったのか?」

「そうだよ、私の両親は王族だったんだ。小さな国だったけどね」


 シャムは甘えた声を発し、俺の膝に頭を乗せた。


 彼女を俯瞰して見詰めると心臓がドキドキしてしまう。

 それに、彼女からはいい匂いがする。


「この招待状は偽物だよ」

「うっそ! 何でヴィランにそれが判るの?」

「俺もリチャード三世から招待状を貰ったけど、封蝋の印が違う」


 俺の封蝋にはリチャード三世の家紋を二重の円環で覆うような形だったけど。

 彼女の招待状の封蝋は、家紋を×印で損なう形だった。


「察するに、君達は誰かに嵌められたんだよ」

「そんな筈ないよ、そんな筈ない」

「どうしてそう言い切れるんだ」


 と、彼女と言葉の応酬をしていた時だった――


「シャム、デートの件なんだけ……誰だお前?」

「バレちゃったねヴィラン、悪いけど、貴方をここから帰す訳にはいかない」


 先ほどシャムを誘惑していた一人の男がやって来て、存在がバレる。


 シャムはやって来た男の背中に隠れ、他の盗賊達も呼び寄せた。


「ヴィラン、選んで。素直に私達に従うか」

「従う? 悪いけど、俺の主は一人で十分なんだ」

「……そっか」


「シャム、こいつはどこの誰なんだ?」

 シャムを庇うように立っている盗賊は曲刀を構えて聞いていた。


「彼はヴィラン、舞踏会で知り合った奴隷」

 だからそれなりに対処しておいてと言い、彼女は部屋を跡にした。


「……奴隷か、それも剣闘士用の」

「奴隷とはいえ、剣闘士『用』だとか、夜伽『用』だとか、止めて貰えるか」

「奴隷風情が俺達に生意気な口利くんじゃねぇッ!!」


 男は叫んだ瞬間、腰元に所持していた拳銃を抜き、俺に向けて撃ちやがった。


 秒速四百メートルの速度に達する弾丸は俺の額で鈍い音を立てた。


 が――


「……奴隷、テメエどんな魔法使った」

「ここの勢力は? 何人くらいの盗賊が潜んでる?」


 弾丸は額の前でひしゃげ、歪な形になって地面にコトンと落ちる。


「クソ! クソ! クソが! 何で銃が通用しねぇ! おい誰か魔術師呼んで来い!」


 その後男は何発か発砲して、拳銃は効果しないと判ると魔術師を呼ぶ。


 どうでもいいが、今は敵から目を離したら即刻――


「ォアッッッ!!」


 即刻、俺の鉄拳を喰らってしまうだろ。


 俺からブロウを貰った男は(くずお)れ、昏倒した。


 次いで駆け付けた盗賊達にも同じくブロウを見舞う。


 喰らった盗賊達は血反吐を飛び散らせながら倒れるんだ。


「退きなさい!! ラシェット! ミラ! 今から火炎を放つ!」

「無駄だよ」


 と宣言しても、軽装の魔術師は自身の経験則に基づいて火炎魔法を放った。無数の火炎の矢が徐々に勢いを増して、終いには通路を塞ぐほどの巨大な火柱になり、俺の背後で倒れている盗賊もろとも飲み込んだ。


「……そんな、どうして魔法が通用しない」

「俺が奴隷だからだ」


 前提として『女神の』という言葉が入るのを忘れてはならない。


 巨大な火柱は俺に触れると払われた霧のように消滅する。


 そしてがら空きだった横腹を足で穿つと魔術師は壁に衝突して意識を失う。


 その後も続々と駆け付ける盗賊をなぎ倒していけば、次第に――


「ねぇヴィラン、いくら何でも酷いんじゃない?」

「白旗か、いくら何でも呆気なさすぎないかシャム」


 シャムが白旗を掲げて、俺に投降する意向を見せた。


 その時には盗賊団のアジトだった古めかしい建物は壊滅的な損傷受けていて。


 俺達が出ると同時に、倒壊する。


「……いくら何でも」


 酷いんじゃない?




 あの後、私は神様としっぽりと一杯引っ掛けました。


「君はどうして死んだのー?」


 神の声は間延びしていて、正直イラッとしますが。

 それでも自分の役目を全うしようと、私の死因を尋ねます。


「知りたい? どうしても?」

「めんどくせーなー」


 面倒がっている神様に、私は正義の鉄槌をあはーんと下す決意をしました。


 続く。

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