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人狼の国


 蟲詠み達の勢力圏から逃げるよう、アスター川の上流を辿ると。


 モンスターが潜んでいる周囲の密林はやがて広大な草原へと変貌する。


「んー、気持ちいい晴れ空ねヴィラン」

「それもそうだが、そろそろ食料が尽きそうだぞシャム」

「うっそ!」

「嘘を言ってもしょうがないんだ」


 どこかに食料豊富な村や町があればいいのだが。

 

「ヘルメスさん、貴方の見識にそんな場所はありませんか?」

「いやー、僕も長い間あそこに閉じ込められていたからね~」


 ヘルメスは大らかな笑顔でわからないなーと言っている。

 彼女は神の一柱だけあって、食事を摂らなくても平気なんだそうだ。


 だが彼女に傅いているキングは違う。


「キングは? この辺に街がないか知らないか?」

「……知っている」

「おお! ならそこに行きましょうよ」


 キングには心当たりがあるらしく、シャム達が喜びの声を上げる。


「俺の故郷だ。つまりは人狼の国だが、それでも良ければこのまま川を辿って行けばいい」


 彼が纏っている銀色の体毛が、風によってなびく中。

 キングは鋭い目つきでアスター川の上流を覗っていた。


 察するに、キングは故郷に何かしらの因縁があって。

 彼は故郷からそう遠くない場所で、蟲詠み達と死闘を繰り広げていたらしい。


 ヘルメスや、ひいてはキングに聞きたいことは沢山あった。


「……何だ? 俺に勝って大層ご満悦だろうなヴィラン」

「そう言うなキング、お前が俺に負けたのは事実だけど」

「再戦の時期を決めておくといいだろう、それが貴様の命日となる」


 キングは俺に対し挑戦的な態度だった。

 それはリザードマンのエッザも同じで。


 エッザは竜のシルヴィアの背中の上で――


「レギ、ちょっといいか?」

「よくありません! 危険ですからじっとしててください!」

「……チ」


 なおもレギを狙っている。

 その光景にキングから向けられていた殺意を、忘れてしまったんだ。


「っ!? 上昇しろお前ら!」

「え? ちょ!」


 その時唐突にアルゴが竜達に向けて急上昇するよう促した。

 急上昇したことにより、部隊の荷物が――


「助けてええええええ!!」


 バランスを崩したシャムと一緒に落ちてゆく。


「今行くシャム!」

「あは、ここは僕に任せるといいよ」


 ヘルメスは俺を制止して、落ちて行ったシャムを追いかけるように降下する。


「主!」


 ヘルメスに続くようにキングもシルヴィアの背中から飛び降りた。

 俺は主から与えられた飛行能力があったため、三人の後を追った。


「だいじょうぶか~い?」

「そんな訳ないでしょ!」

「平気平気このぐらい~」

「だからそんな訳ないでしょってーの!!」


 随分と余裕を持っているヘルメスの姿を上空から見詰め、さすがは神の一柱だと思えた。


 ――ッ!


 しかし、悠長なことを認めている場合じゃなかった。

 下から俺達目掛けて火矢が飛んで来ている――ッ!


「シャム!」

「ヴィラン! ありがとう、助かった」


 速度を上げて、シャムに追いつき何とか抱き寄せた。

 下から撃たれている火矢に対し、俺やヘルメスは空中で様子を見張ろうとした時。


「主!」


 ……キングだけが、一人で地面に落下してしまう。

 まぁ奴ほどの屈強さであれば、この高度から落ちようとも問題ない。


 問題なのは。


「お前らはどこの誰で、どうして俺達を攻撃した」


 目下に居合わせた謎の集団に対し、反発するような台詞を口にした。


 蟲詠み達との一件で学んだ轍とやらはもうどこぞへと消えてしまったようだ。


 ◇


「で、お前達は一体どこからやって来た」


 して一行は無事にキングの故郷、人狼の国へとやって来れた。

 今は人狼の国の玉座で先程の失態の弁明をさせられている。


 結局俺達に火矢を放った集団は人狼の国の哨戒兵だった訳で。


 あの後、俺が端を発した後はヘルメスが馬鹿な真似をしてくれた。


 ――君達先ずは落ち着こうよー。

 と、双方を落ち着かせようとしたところまでは良かったが。


 ――僕は神だよ? 君達がどう足掻こうが決して勝てない存在さー。

 ここらへんからのほほんとしていた空気は一変する。


 そして何を思ったのか、キングが哨戒兵に対して奇襲を仕掛けようとして。

 俺が先走ったキングを止めようとしたら、何故かまた闘う羽目になった。


 し合いに二度も勝利した後は、奴も少し大人しくなったからいい。


「俺達はここより遥か西方よりやって参りました。見受けた所、貴方はこの国の王で在らせられると思いますが」


 直立不動のまま、玉座に腰掛けている人狼に話し掛けた。


「…………」


 しかし、人狼の王は押し黙っていた。

 その目付きには以前受けた覚えがある。

 俺達をカリン王国に招いた、ムジカの目付きと一緒だ。


「先程は俺の仲間が失礼しました、早とちりしてしまったようなんです」

「仲間? だとしたらお前は、我らの王になるということだぞ」


「……?」


 先方が口にした、――我らの王になるということだぞ。

 という一言には、理解が追いつかなかった。



3月1日、私サカイヌツクは大事なことを忘れていました。


それは一昨年亡くなった愛猫の命日です。


彼女が亡くなったのは2018年の2月25日。


つまり今年で三回忌だったのですが、とーんと忘れてました。


これは家の猫様も鬼と化しますよ、激おこぷんぷん丸でしょうね。


重い。

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