蟲詠み
「お前ら、何をやっているんだ!!」
俺達の部隊は謎の遺跡を拠点として腰を据えた。
竜やリザードマン、部隊の連中の力を借りて周囲の木々を開拓していた時。
一見探検家のような恰好をした謎の少女から声を荒げられる。
「初めましてお嬢さん、俺はこの部隊の隊長をやっているヴィラン」
何か御用でしょうか? と率直に問えば、彼女はヘルメットを脱いだ。
「初めまして、私はドロシーと言って、近辺を縄張りとしている魔女だ」
「魔女? 君は魔法が使えるのか」
「そんなことはどうでもよくて、お前らはここで何をしようとしているんだ」
ドロシーの髪は陽光に煌めく黄金色をしていた。
仄かに白い地肌は探検家の格好にふさわしく適度に日焼けしている。
これは俺の推測だが、彼女は魔女見習いか何かで。
彼女の師匠からこの遺跡にある秘薬の原材料を持ってくるよう命じられているのだろう。
「俺達は遺跡を探索しようと思っているだけだ。この遺跡に所有者っているのかな? いないだろ?」
「いないこともないけど、遺跡の主である妖精王の姿はもう見掛けないらしい」
妖精王――アルゴ達が仄めかしていた存在だ。
妖精王が何者なのか、今の俺には計り知れない。
「ドロシーも遺跡の探索にやって来たんだろ? 俺達と一緒に探索しないか?」
「それは別に……」
彼女は何事かを考え始めるよう口を噤んでいた。
きっと彼女の師匠からの言いつけに反してないか確認しているのだろう。
「まぁ大丈夫……だろう。よしヴィランと言ったな、私も仲間に加えてくれ」
「喜んで。とすれば先ずは遺跡を探索するメンバーを紹介しないとな」
◇
ドロシーの話によると、この遺跡は近隣住民から大変重宝されているらしい。
だから遺跡の周囲を開拓していた俺達の行為は不敬だったようだ。
「私達は他のみんなが遺跡に訪れやすいようにしてあげてるだけじゃない」
「利己的なおこないを隠す詭弁を即座に口にするやつは嫌いだ」
シャムの詭弁をドロシーはたやすく看破していた。
「で、ドロシー、この遺跡は一体何なの?」
「この遺跡は『逆さの巨塔』と言って、地下に向かってそびえる迷宮だ」
逆さの巨塔か……俺達が攻略したのは十階層付近までだったと思う。
初回は強さを重視した連中を連れて行ったから、そこまで進めなかった。
それに俺達はまさかこの遺跡に覇石があるとは思ってなくて。
極一部を除いて、皆いやいやに探索していた影響もある。
「ドロシー、お前は逆さの巨塔の内部構造を把握してるか?」
「遺跡内部の地図ならいくつか持ってる」
問うと、ドロシーはリュックサックから羊皮紙の地図をいくつか取り出す。
シャムは遺跡の地図の存在を聞きつけ、懐から片眼鏡を出した。
「どうヴィラン、知的でしょ?」
「それはグプタから買ったのか?」
「御明察、例の古地図と交換する時に色々と貰ったのよ」
素直に金に換えればいいのに。
と思っても、彼女の好きにさせよう。
あの地図はレギや竜達から彼女に贈られたものなのだから。
「どうやら遺跡の全容を記したものはないみたいね」
地面に広げられた地図には所々×印やお宝箱のマークが記されている。
遺跡とはいえ、何故ここに財宝が眠っているのだろうか?
「この遺跡は太古より神聖な場所として祀られていたんだ、ここいらは妖精王が統べる国があったらしい」
そう疑問に思っていれば、ドロシーは逆さの巨塔に纏わる伝承を語り始めた。
「妖精王は不老長寿の身で、人間やリザードマン、色んな種族をまとめあげていた伝説の王だ。彼の王に貴賤なしと謳われるほど、国民から慕われていたらしい。そんな風に人望のあった妖精王だが、彼には唯一畏れるものがあった」
一説によると、その存在は神そのものだったのではないか。
「そう言われている。だから妖精王は天に向かって国威を示すことはしたくなかった。そこで考案されたのが地下深くへと伸びる巨塔、それがこの遺跡が生まれた由来とされている」
だから、この遺跡に眠っている財宝は妖精王への献上品であり。
俺達みたいな余所者が迂闊に荒らすべきではないとドロシーは言う。
「ふーん、まぁこの遺跡にお宝が眠ってるのは理解したわ」
「ああ、俄然やる気が出て来たな」
シャムと意気投合するよう心を高揚させると、ドロシーがわなないていた。
「お、お前ら、私の話を聞いてなかったのか!?」
「聞いてたわよ、けどお生憎さま、私とヴィランはすでに神の加護を受けてるの」
「なん、だと?」
シャムの言う通りで、俺達は女神である主の加護を受けている。
妖精王が神を畏れていた理由は、まぁ察するところではある。
「じゃあ早速遺跡の探検しに行きましょう。いいみんな、この遺跡を制覇するまでは次の目的地に行かないからね。だから役割を分担しましょう、遺跡を探索する班と、物資補給の班と、周囲の哨戒――」
シャムが部隊の連中に指示を飛ばしていた時。
俺はドロシーに手を引かれ、みんなから遠ざかった。
「何だよ」
「お前の妻だったな、彼女は」
「ああ、それが?」
「このままでは妖精王の遺跡が不信心な奴らによって荒らされる一方だ」
そこでお前が頼りになってくると私は睨んだ。
「いいかヴィラン、妖精王を信仰する人間はまだ生存している。であれば、お前が――何をする」
ドロシーは俺に、連中をここから排除するよう求めてきたもので。
俺はあることが気になって、写真機を使ってドロシーを写した。
「ドロシー、残念ながら俺は君という魔女を、信用できない。君は一目見た時から怪しいって感覚が告げてたんだよ。この付近は君みたいなか弱い女子が気軽に往来できるような村や町はない」
「……ふぅ、ならば仕方ない」
――こちらが下手に出てやってるのに、お前たちはまるで言うことを聞かんな。
彼女はそう言うと、人間の外見からジョロウグモのそれへと変貌する。
上半身は人間の姿をして、下半身には蜘蛛の胴体が付いていた。
「ヴィラン、どうして人間は聞き分けがないのだ」
「……そう言われてもな、これが本当のお前なのかドロシー」
「この姿をしていて、色んな目に遭った。大抵は悲しく辛い思い出ばかりだが」
――けど、時には優しくしてくれる人もいた。
「お前もそうしてくれないか。言っておくが、妖精王は伝説上の存在だ。彼の王に貴賤なし、されど、彼の王に肉体なし。と言ってな、妖精王は名ばかりの幻想でしかない」
「……なら、妖精王って、一体何なんだ?」
下半身は蜘蛛で、上半身は美しい容貌をした魔女のドロシーは俺の問い掛けに口端を歪め、せせら笑っているようだ。
「それを今から調べるのだろ?」
「ちなみにドロシー、君のような人はなんて呼ばれてるんだ?」
「私のような者は俗にこう言われている、『蟲詠み』と」
世界は広い。
ドロシーを初めて見た時、俺は得も言えぬ親近感を覚えた。
シャムに打ち明けたように、俺は蜘蛛が苦手なんだ。
けど、不思議と魔女の出で立ちをしている蟲詠みのドロシーのことは、イカすって思ったのだ。
お主と私の仲じゃ、特に語ることもあるますまい。
ふぇ、ふぇ、ふぇ。
某日、私はのじゃろりと出逢い、そして。
黄金の野原で〇〇〇〇〇〇〇〇。




