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イエスだった


 両国の命運を背負っていた戦争は、フリッグの死去によって幕を閉じる。

 月読はフリッグの葬式に参列すると、再び両国の和平条約を結ぶよう動いた。


 カリン王国は殲滅作戦で兵力の八〇%を投入し、疲弊しきっていたから。

 彼の国は和平条約を受け入れるしかなかったようだ。


 和平条約の署名書には俺の名前も入っている。


 醜悪とは言え、二つの国の王と名前を並べるのには悪い気はしない。


 こうして俺は自力で自分達の平和を守った訳だが。


「行くのかヴィラン」


 マスカルは新天地を求め、出立しようとした俺にそう問いかけた。


「……和平条約の中にも書かれていたでしょ、両国は奴隷制度を排除するに伴い、奴隷の存在をこの国から失くすって。俺が奴隷であることは覆しようのないことですから」


 だから、俺が生き抜くにはこの国を出て行く必要がある。


 これも何もかも女神である主のせいだ。

 何て詭弁がましいと思われるだろうが、間違ったことは何一つ言っていない。


「お前と過ごした半年間、悪くはなかったぞ」

「俺の方こそ、貴方のご指導を受けて随分と踊りが上達した」


 だから、礼を言わせて下さい。

 そう言うとマスカルは不意に涙を流すんだ。


「マスカルは、これから先どうするので?」


「私には、父月読が和平条約を反故にしないか見届ける義務がある。このまま国に残ってしばらくは連中を監視するだろう……フリッグ様が亡き今、この国を指導できる器は私ぐらいなものだ」


 彼女は不敵な笑みをたたえ、そう言うのだから。

 あの親にしてこの子あり、というものだ。


「ヴィラン、この国を後にする前にちょっとだけいいか?」

「何でしょうか」

「お前と苦楽を共にして来た、踊り子クラスの連中がお別れを言いたいらしい」


 そうか……この国でも、俺を嫌っている奴と、俺との別れを名残惜しむ人はいて。

 それって案外当たり前のことだけど、今の俺には意外と言う外ない。


 主は人間のこう言った一面が嫌いなのかも知れないな。

 どいつもこいつも得体が知れなくて、腹に何を抱えてるのか分からない。


 もしかしたら今俺を連れ立っているマスカルだって、内心では俺を引き留めたい気持ちで一杯なんじゃないか? なんて愚かな妄想を繰り広げていると、マスカルの顔つきがいやらしくなった。


「ヴィラン、今からお前にはこれまでの成果を見せて貰おうか」

「って言うと?」


「当初のお前は踊りに対する壁を感じていたと思う、俺は今一踊りを楽しめないってな」


 ――今のお前はどうなんだ?


「今は、そうですね」

「その答えを、ここで見せて貰おう」


 そう言うと、マスカルは国の広大な中央広場で立ち止まった。

 群衆の中にはキャシーや、ミランダ、踊り子クラスの連中がいて。


 まさか、マスカルの狙いは――フラッシュモブをしようと言うのか?


「では行くぞ」


 と言い、マスカルは音楽を奏でる魔石を起動させる。

 最初のメロディはどこにでもあるようなのどかな風情に溢れていて。


「……――」


 マスカルが広場の中心に立ち、姿勢を整えた瞬間。


 流れていた音楽はその様相を変えるよう、ビートが加わった。そしたら俺の予想通り、群衆の中で日常生活を送っていたキャシー達がマスカルに参加するよう踊り始める。


「……こんなサプライズされても、俺はこの国を直に去りますよ」

「誰もそんなこと言ってないじゃない」


 けどキャシー、なら何のためにこんな真似を?

 問えば、ミランダとクラナの二人が俺の手を引っ張る。


 二人に引かれるよう、輪の中心に立たされた。


「乗って来いヴィラン! でなければ旅など許可しないからな!」

「……やりますよ」


 それが、俺のせめてもの贖罪だ。


 元々童貞だった俺は、女性と寝ることへの罪悪感を拭えなくて。


 マスカルに妙な噂を流されても困る。


 今ここで踊らないとマスカルは陰口と一緒にあの情事を暴露しそうな雰囲気だ。


 結局、俺やシャム、仲間達はこの国からクラスの恩恵を授かれなかった。


 それに対する怒りもあれど、みんな意外と後悔はないようだった。

 俺達が後悔や未練を持つには、まだまだ若く。

 俺達がこの国に募らせた思いや経験は未熟だから、どうでもいいというか。


 俺達は揃いも揃って阿呆なんだろうな。


 なんて言う風に、仲間達を内心で軽視しても問題ない。

 これは俺の個人的な思念で、一時的な誤魔化しなのだから。


 全ては今踊っている恥ずかしさを紛らわすための妄想でしかなくて。

 全ては、連中との別れを惜しんでいた寂しさを、紛らわす一環だった。


 次第に音楽はムーディーで、エモーショナルなものへと変わり。


 マスカルやキャシー、ミランダやクラナと言った特に世話になった人間とのペアダンスを繰り広げるのだった。


 ◇


 あ……そうだった。


 踊り子クラスのフラッシュモブは中々楽しかった。

 マスカルは俺の踊りをとくと窺い、太鼓判を押してくれた。


 のはいいとして、俺は大事なことを忘れていた。


「ヴィラン、今までありがとう御座いました」

「ミランダ、俺はこの国に一つ忘れ物をしていたよ」

「忘れ物?」


 それはミランダ、君だよ。

 俺は主から言い付かっていたんだ――いつ君を娶るのかって。


 だから俺は、陽光を背負い彼女に手を差し伸べて。


「……――俺と共に来ないか?」


 駄目元で、当惑するミランダを旅に誘った。

 そしたら彼女は笑顔をたたえたんだ。


 彼女の返答はその笑顔から汲み取れる、答えは――


「私は、貴方がこうしてくれることをずっと、夢に見ていたのです」


 答えはもちろん、イエスだった。



こんにちは、サカイヌツクです。


今回の副題にある、イエス、というキーワードですが。

私の人生において、イエスよりもノーの方が大多数を占めます。


例えば……そうだな。


僕と契約して魔法少女になって(略。

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