骨肉争い
その後、リザードマンの国には一昼夜掛けて辿り着いた。
ある弓兵が俺達に矢を放つと、アルゴが恣意的に炎のブレスで仕返ししていた。
火炎のブレスでリザードマンの矢倉の一つが全焼してしまう。
俺達はその中、彼らの街に降り立った。
「皆の者待て、我らは敵じゃない」
「皆早急に矛を収めるのだ」
ディゴとエッザの二人が取り囲んだリザードマンに何事か説明している。
「帰ったのか、ディゴ、エッザ」
「父上!」
群衆の中から、白い鱗のリザードマンが現れ、エッザは駆け寄っていた。
ディゴも妹の後に続き、鷹揚にそのリザードマンの前に歩いて、膝を付く。
「父上、只今戻りました」
「過酷な任務をよくぞ果たした、これで我らは救われる」
その光景を胸に収めた後、俺は周囲を見渡し、街の様子を窺った。
街にはいくつもの人家と似た建造物が並んでいて、街並みの風景は王国とよく似ている。違いを上げるとすれば王国が白を神聖視していたように、この街では黒色の建造物が目立つことだ。
「ヴィラン殿、家の子供達が世話になった」
「失礼ですが貴方のお名前は?」
「バサゴと言う……そちらに居らせるのは、まさかマスカル様か」
「マスカルのことをご存じで?」
白いリザードマンのバサゴは、マスカルを敬称している。
マスカルは嘆息を吐いて、拙くだが。
「ただいま、父は今何を?」
「……貴方様が生きて戻られたことを報告して参ります、しばしお待ちを」
「いい、自分の足で報告しに行く。行くぞヴィラン」
まるで狐に化かされたような気持ちでしかなくて。
しかしマスカルは俺の懐疑心を否定するように迷いなく歩む。
彼女にはここらの土地勘があるいい証拠だった。
「先生、先生のお父さんって」
「……キャシーは戦争に首を突っ込みたいのか?」
「それは」
「だろうな、お前は根っからのお嬢様だ。戦争などの汚濁には関わらない方がいい」
キャシーの気持ちも理解出来る。
普段から世話になっている人が、敵国の出身だった。
驚き、というか疑問なのだろう。
じゃあどうしてマスカルは今まで俺達の恩師をやっていたのか。
マスカルはそのまま迷うことなく、リザードマンの宮殿に入って行った。
宮殿で警護していたリザードマンは彼女の姿を見て、矛を引く。
「……マスカル、まさかとは思うが貴方の父親が月読なのか?」
「だからどうした」
「であれば貴方の態度が理解出来ない。普通なら」
「込み入った話しは後にしよう……父上は居られないのか!? 貴方の娘であるマスカルが生きて帰って来たのだぞ、顔を見せたらどうだ!」
と言い、マスカルは宮殿の玉座の間らしき所に入っていく。
俺達が居る入り口から向かって伸びる黒い絨毯は、次第に階段へとぶつかり、数段先には玉座がある。玉座に向かうまでの通路の両脇には十数ものリザードマンが侍られていた。
「帰ったのか、マスカル。報告を聞いて耳を疑ったぞ」
「……貴方はそこで何をしているのだ?」
「国の繁栄を願っている」
マスカルは一心に、玉座に座る黒髭を蓄えた男を見ていた。
「国の繁栄? 貴方がしているのは内ゲバ擬きの虐殺だろ?」
「ようこそお越しくださった、旅の者、ヴィラン殿。家の娘が失礼したようで」
俺は玉座に座る男に一礼をした。
隣にいたシャムやラシェットも倣って礼をしている。
「申し遅れました、私の名はヴィランと言います」
お噂はかねがねお聞きしております。
俺がそう言うと、月読は顎鬚に手をやっていた。
「貴公が覇石の原石を持ち、あまつさえは竜族を率いてカリンに居ると聞いてな」
「月読様、貴方の望みをお聞きしても宜しいでしょうか」
「……と言うと?」
「私がその望みを叶えてみせていれます、その代り」
その代り、俺達に覇石の加工法を教えて欲しい。
俺が持っている覇石は実質三つだが、その内の一つはこの国に与え。
見返りに二つの覇石を使って、誰よりも屈強な国をつくりたく思う。
「私どもに、覇石に伝わる秘伝をお教え願いたい」
言うと、玉座の間に居たリザードマンがどよめいた。
「……覇石を持つことは、つまりは天下を統べることと同義だぞ。私や、敵国カリンの国王を差し置いて、其方は天下を統一しようと言うのか。であれば其方の考えを聞いておきたい」
月読は俺にこの先の理念を尋ねる。
天下を統べる者か、その立場はつまり、俺の理想に適っている。
俺は奴隷から、成り上がって……。
どう、したいんだ?
「父上、ヴィランは奴隷の地位を嫌っているだけなのです。であれば、こいつの本望は奴隷制度の廃止じゃないでしょうか。それよりも今すぐ無駄な戦争をお止めください」
答えにためらっていれば、マスカルが中断するように割って入った。
「この戦争の発端は、カリンの独裁政治が起因している。戦争を止めたくば現国王のフリッグの首を差し出せ」
「まだその様な小さなことを仰られるのか、フリッグ様は貴方の唯一の兄ではないか」
マスカルの説明調の説教により、今回の件の素性が見えて来たようだ。
月読とフリッグは実の兄弟だった。
ここからは推測だが、フリッグは兄として国王の座を世襲したが、弟の彼はそれに納得がいかなかった。彼は当時、奴隷のような扱いを受けていたリザードマン達を懐柔し、そして今に至る。
蓋を開けて見れば案外単純な構造の、骨肉争いだったわけだ。
昔と今のギャップを垣間見る一時がありまして。
昔のゲームって凄いなあ、っていう感動を覚えました。
具体的に何が凄いかって言うと、モザイクが(略。




