黒獅子の御姿は。
「な、な、なぁあああああああ!?」
「お静かに」
「首を刎ねられたくなくば黙れ」
目の前で起きた血みどろの参事に、ニードルが絶叫していた。
思えば、護衛に偽装し、ムジカの首を断ち切った二人の術には覚えがあり過ぎた。
これは主から教わった、アビゲイル王女が得意としていた錯覚魔法だ。
目は竜族のそれで、頭はトカゲのようでいて。体付きは恰幅のいい俺よりもさらに一回りほどでかく、立派な尻尾を生やしている。二人の外見的特徴は明らかに人間のものじゃない。
「内のバカが失礼、貴方達は一体何者で?」
「先程女神が仰った」
トカゲ頭の人外で、女性の声音をした方は主を推していた。
「我らは太陰軍と呼ばれる、太陰の神『月読』様に仕えるものである」
次に言葉を発したトカゲ頭は男性の声音をしていた。
……淡々と説明されても、皆理解が追いつかないようだ。
「隊長、こうなった以上ここに留まっていては不味いのではないかと」
「いやレギ、ムジカが殺されたことを説明しないと、俺達追われ者になるぞ」
「なるほど」
するとムジカの首を刎ねたトカゲ頭はデカい図体で膝を付いた。
「我らに降った命令はヴィラン殿がもつ覇石の入手にあります」
「しかし貴方は強い、太陰軍の中でも優れた私達でさえ敵いません」
「……だから、今は俺に服従し、自国に招き入れた後に命を取る算段か?」
「そんなこと御座いません」
「……」
男性の声音をした方は即座に否定するが、女性の方は特に否定しない。
「ヴィラン、どうするの?」
シャムが不安げな様子で訊いて来る。
この判断は、非常に難しいと思えた。
主は判断に迷っている俺を、愉快げに見詰めている。
主がああ言った笑みを浮かべる時は大抵、俺に災難が降りかかる。
「ニードル、貴方であればこの状況に立ち会った場合、俺らをどう処理する?」
「お、おうそうだな……俺であればいくら状況を説明されても、徹底的にヴィランを追い詰め、罪をなすりつけるだろうな。理由は、国にとってヴィランは亡き者にした方が有益だからだ」
「いかにも貴方らしい見解だ、ありがとう」
ニードルはお礼を言われると、お、おうと、困惑していた。
ニードルの考えを聞けて、俺は冷静になれたよ。
「みんな、とりあえず逃げるぞ、準備しろ。ぼさっとしている奴は置いて行くからな」
「ねぇヴィラン、グレッグの姿が見当たらないの」
「俺が探して来るから、シャムは」
――だからさぁ、あれじゃあ指し物ヴィランだって可哀想だよ。
すると、宮殿の室外からキャシーの声が聴こえた。
俺はとっさに部屋を出て、キャシー達と顔を合わせる。
「誰かと思えば、キャシーか」
「怒ってるの?」
「……グレッグを知らないか? 居なくなったみたいなんだ」
「いえ、知りません」
見るとキャシーはムジカの娘、クラナも連れている。
「ミランダは? 三人はいつも一緒に行動してただろ?」
「ミランダだったらマスカル先生の所。それよりもヴィラン」
今回のことは、何て言ったらいいのか分からないけど。
キャシーは国による俺達への迫害行為について、弁明しているようだ。
が今はそれ所じゃないんだ。
一刻も早くグレッグを探し出し、この国から去らないといけない。
「マスカル先生だって、本心であんなこと言ったんじゃないの。先生は太陰軍との戦争で恋人を失ったらしくて、ヴィランにキツく当たったのはその影響なんだ」
「キャシー、ありがとう。だけど俺達はこの国から去るよ」
「え……本当に?」
「先程お父様が来ませんでしたか?」
っ……今のクラナに現状を打ち明けるのはとても酷なことだ。
彼女は父親であるムジカを慕っている、ならどうする。
その時、キャシー達の後方からマスカルがやって来ていた。
隣にはミランダも居て、ミランダの腕の中にはグレッグが抱えられている。
「これは、もう」
――こうする以外にないような気がした。
◇
目が覚めると、視界には空が映っていた。
雲が凄い速度で流れている……。
「起きたか」
「ヴィラン?」
彼の姿が見えて、上半身を起こす。
そして私は自分の居場所を知りました。
「シルヴィア、でしたっけ。この竜の名前」
「そうだ、悪いけど君達四人は俺が鹵獲することにした」
鹵獲?
周囲を見渡すと、私の他にもキャシーやマスカル先生が居て。
私達の両手は縄で縛られている。
「……どうしてこんな真似を?」
「放っておけなかったからだと思う」
そう言うと、彼は両手の縄を外してくれた。
「ちょっと、縄を外すにしても今じゃないんじゃない?」
「シャム、彼女は大丈夫だよ。特に抵抗する力もないし」
ふとその時、視界に『有りもしないもの』が映りました。
ヴィランが沢山の人から、大歓声を受けている。
その姿は伝説に伝わる英雄の御姿だった。
……彼は私達を連れてどこへ向かうのだろう。
「あの……今からどこへ?」
彼に、ヴィランに、キャシーを暴漢から救ってくれた黒獅子に問うと。
「――俺と共に来ないか? 今は何も言わず、応えてくれ……ミランダ」
「……私は、ある日から見えてたんです」
黒獅子である貴方が、私に手を差し伸べてくださることが、見えていたのです。
我、開眼せり……!
我、開帳せり……!
我、開発せり……!
以上の言葉で何か思う所があったあなたは変態の素養があります。




