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未来の嫁のことだ


 王国の象徴であり、内政に対する発言力も有する国王のフリッグは立派な白いあごひげを蓄えた細身のご老体であらせられた。もしかして病気か何かで、もう余命いくばくもないかも知れない。


「よくぞ参られたヴィラン殿」

「この度はお招き頂きありがとう御座います、フリッグ様」


 フリッグの隣に失礼するよう華美なクッションの上に胡坐を掻いて座る。


 俺達の席にはムジカを始め、各自治体を治める首長が揃っていた。

 フリッグと俺を上座に座らせ、彼らはU字を描くように仮面舞踏会を見守っている。


「ムジカよ、何でもお前の所の娘も前座に参加しているらしいな?」

「は、然様で御座います。不出来な私にはもったないほど美しい娘です」


 確かに、クラナは美しい容貌をしている。


 きめ細かい褐色の肌合いは光にあたると艶々しくなるし。


 一緒に稽古に励んでいる最中でも、常に気品を欠かさないような娘だ。


 そしてムジカが何かを言い掛けた時、会場の灯りが消された。


 俺は夜目を光らせて、会場内を括目する。

 入り口から一つの松明を持ったマスカルが、踊り子の衣装でやって来た。


 マスカルは先ず、松明を持ったまま俺達に向かって恭しくお辞儀する。

 その次に左右の会場客にもお辞儀すると、手に持った松明で会場を灯し始めた。


 ――フリッグ様に於かれましてはご壮健であらせらるようで、誠何よりで御座います。


「今宵、フリッグ様より前座を任されることになりましたマスカルと申します。ご来場の皆様、これを機会に何卒お見知りおきください」


 マスカルの手によって会場の灯りが全部点くと、仮面姿の踊り子達が颯爽と登場する。マスカルから厳しく叱咤されるよう訓練した忍び足は皆完璧で、彼らの所作は一切音を伴わなかった。


 すると会場内にこの国の伝統音楽が流れ。

 踊り子達は音楽に合わせて、流麗に踊り始めた。


「……いかがなヴィラン殿、彼女達との学院生活は?」

「楽しいですよ、俺はなまじ教育を受けてなかったので尚更」


 フリッグは打倒に世間話から入った。


 伝統的なパフォーマンスを独自に昇華させたマスカルの振り付けを、みんな一寸の狂いもなく踊っている。会場からは所々見惚れたかのような感嘆が上がっていた。


「……単刀直入に用件に入らさせて頂きます、フリッグ様達はどうして覇石を欲しがるのでしょうか」

「……それを其方(そなた)に打ち明けていいものか、今しばらく考えさせてくれ」


 殊は、国益に関わって来るものでな。

 とフリッグは返答を控えた。


「それに、今は彼女達の美しい舞を見逃す手はないであろう」


 と言われても、俺はこの光景を何百回と見て来たんだ。

 単純に飽きると思っていた……けど、生徒達の踊りは練習の時よりも冴えている。


 キャシーは前向きな性格が表に出るよう自信に満ち溢れた表情をしている。

 クラナは内に眠る深い愛情を顕わにするよう慈愛の眼差しを観客に向け。

 ミランダは幽玄な雰囲気が伝わってくるほど、神懸かっていた。


「彼女達の中にヴィラン殿が見初めた相手はいないのか?」

「……いえ、特には」


 フリッグの質問に俺は嘘を吐くように誤魔化した。

 みんなを率いているマスカルとは、一度二度、寝たことがあることを。


「マスカルは年々妖艶になっていきますな」

「確かに、ダメ元でこの後誘ってみるか」

「何でも奴には男が出来たらしいですが、宜しいのでは?」


 首長の数人がそんなことを言っていた。

 ムジカはその話題に合わせるように俺の方を向き、膝を手で叩く。


「ヴィラン、其方も男に産まれたからにはガンガン攻めるべきだぞ」

「で、あるか。私も幾人もの姫君と恋に落ち、素晴らしく幸せな人生であった」


 フリッグも恋多き男だったらしい。


 次第に踊り子達による前座も山場を迎え。

 場慣れした観客たちは合いの手を入れボルテージが上がって行く。


 普段とは違う表情を見せている彼女達を、頬杖突いて興味深く眺めていた。


「――今宵、前座を務めましたのは稀代の踊り子である私ことマスカルと、私の可愛い生徒達です。どなたさまも彼女達の燦然たる輝きをいつまでも覚えておいてください。それこそが私どもの本懐にたり得ます」


「よくぞ魅せてくれたマスカル、ご苦労であった」

「――ありがとう御座います、我が国に神の祝福があらんことを」


 そして踊りはマスカルの礼と共に終わり、踊り子達はこの場を後にする。

 彼女達が去った後、仮面舞踏会の本番が始まり、料理が運び込まれた。


「……ラシェット? どうして居るんだ?」

「ガーディアンの勤めの一環らしい、それ以上は言うな」


 国王達の料理を持って来た給仕の中にラシェットがいた。

 ガーディアンって、守護者って意味だよな? おかしな話だ。


「知り合いか?」

「えぇ、彼は俺の同朋ですよ」


 紹介すると、ラシェットはフリッグに会釈していた。


「中々に精悍な顔つきをしているな、どうだお主、私の知り合いを紹介してやろうか?」

「紹介、ですか?」

「ああ、丁度お主のようなガーディアン候補生を募っているのだ」

「……申し訳ないですが、俺はもう守らねばならない物を持っているので」

「いい返答だ、そう言うのであればこれ以上口にしないが」


 まったくもって惜しいことばかりよ。

 ラシェットから振られたフリッグは頭を抱えている。


「フリッグ様、お悩みでもおありですか?」

「……ヴィラン殿に言ってもしょうがないのだが、今この国は敵の侵攻遭っていての」


 敵?


「どんな敵ですか?」


 まさかエルドラード帝国じゃないだろうな。


「不死の軍団だ、敵は遥か西方から侵略を開始している」

「相手はエルドラード帝国でしょうか?」


 であれば、俺が力添えしてやってもいいぐらいだ。

 帝国には煮え湯を飲まされたのだからな。


「エルドラード帝国は一応中立の立場を取っているが、現状はどうなっているかわからぬ……ヴィラン殿は気にしなくていいことだ。戦争は一人の英雄で決するほど容易くないぞ」


「そうですか、では再度お聞きいたしますが、覇石を何故欲しがるのです?」


「覇石には様々な神力が秘められているからだ、其方は何も知らずに覇石を所持しているのか?」

「どうやらその様ですね、俺は覇石の美しさに惹かれているだけの輩ですから」


 ならば俺は覇石の利用法をもっと学びたい。

 俺達が所持している覇石は原石の塊で五つ。


 こんなことなら、もっと採取しておくべきだった。


「であれば其方の所持する覇石を我が国に献上して欲しい。覇石(アレ)があれば戦況を覆せる」

「予めムジカ様にもお伝えしましたが、交換条件でならお受けしましょう」


「ヴィラン殿、物は試しに其方が所持する覇石を見せてくれぬか?」


 先方はまだまだ俺に不信感を抱いているようだ。

 別に信頼を得たい訳じゃないが、いいだろう。


 そして俺達の宿泊先へ一旦帰り、覇石を探すと驚愕の事実が判明する。


「シャム、お前が可愛がってるグレッグの餌が覇石だって聞いたぞ」

「今さら何を言ってるの? お帰りヴィラン」

「今さらって、確かに今さらだが」

「聞いた所によると、竜の稚児は覇石を舐めるように食べて成長するらしいわよ」


 以上、お分かり?

 ソファに寝そべって、口癖のように説明するシャムにイラッとした。


「グレッグは覇石をもう二つも平らげたのか?」

「いいえ、グレッグが成長するにはあれ一つで十分らしいわ」

「じゃあ無くなった二つのうちの一つは、盗まれたのか?」

「何よ、私は何でも屋じゃないの。一つはアビーが持って行ったでしょ」


 聞いてないんだが……!


 と言うことは、俺が持っている虎の子の覇石は三つか。

 とりあえず残っている三つを慎重に扱わなければ。


「……シャム、どうやら覇石は時価にしてギオス金貨十万枚の価値があるらしいぞ」

「へぇー、それで?」

「いや、何でもない」


 シャムは平然としているが、その価値を聞いて覇石を死守するだろう。


 一つは今からフリッグに持って行くとして。


「ヴィラン、覇石の持ち出しは禁止よ」

「今から国王陛下にお見せする約束なんだよ」

「だったら、グレッグの食べ残しを持って行きなさい」

「冗談言うなよ」


 ◇


「――っ、こんなに巨大なものを、どこで手に入れた」

「お気を付けて、重さにして言えば五百キロの塊です」


 舞踏会の席に覇石の塊を持って行くと、国王並びに首長は席を立つほど驚く。

 どうやらこれは連中が欲しがっている覇石で間違いなさそうだ。


「ヴィラン殿、これを我が国に譲ってくれるとして、見返りに何を求める」

「……フリッグ様、ちょっと頭が痛いので、風に当たって来ても宜しいでしょうか?」

「ん? あ、ああ、無理することはない、そうするといい」


 そうして俺は導かれるよう宮殿の庭へ出た。

 庭先の噴水では、主が綺麗な銀毛を月光になびかせている。


「どうしたヴィラン、今は私と話なんかしてる場合じゃないだろ?」

「俺にはそう思えません」


 貴方が現れる時はいつだって、人生の分岐点だから。


「女神だからとは言え、過大評価し過ぎなんだよ。まったくこの世は窮屈だな」

「主は覇石に秘められている力をご存知ですか?」

「教えて欲しいか? 教えて欲しかったらさっさと奴を(めと)れ」

「奴って?」

「踊り子の中に混じってる未来のお前の嫁のことだ」



 ティク・トク・ティク・トク。

 お・お・おーーーー。


私「よし、これで今日の調律は完璧だね」

私「今日はライブ本番だし、ファンをばしっと魅了しちゃうんだぞー」


 してライブ。


私「マゥザァアアアアアアアアファッカァアアアアアアアアアアア!!」

私「シィットゥ!!」


 ディディディディディディディディディディディディディ♪

 私は私の魂の雄たけびにのっとり、ライブをぶっ壊した☆彡


私「シャラァアアアアアアアアアアア!!」


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