アビーの旅立ち
「ねぇ」
ムジカから嬉しい申し出を受け、内心舞い上がっていた。それは俺から色好い返事を貰ったムジカもそうだったみたいだ。ムジカはまるで娘が生まれた時のような面持ちで、クラナを抱きしめていたよ。
「ヴィラン」
「っ、ミランダか、何かな?」
「……話が聞こえて来たんだけど、覇石を持ってるの?」
ミランダは朴訥な娘だ。
彼女の落ち着きを払った藍色の瞳は、アビーを彷彿とする。
「内緒にしてくれるか?」
「するよ……覇石を持ってるのなら、何が遭っても守った方がいい」
それが、私が母から聞かされた我が家の言い伝え。
彼女は消え入りそうな声で、もしかしたら重要なことを言っていた。
「もし良かったらその言い伝えの話を詳しく聞かせてくれないか」
「駄目、口外しちゃいけないことになってるから」
「そうか……ありがとう、考えの足しになったよ」
「……私もお礼を言わないといけないと思ってたの」
「って言うと?」
問うと、彼女は踊り子姿のまま、俺に丁寧なお辞儀を残した。
「キャシーを救ってくれて、ありがとう」
「あれは、本当に気にしなくていいんだよ」
俺があの奴隷を救いたかっただけなんだし。
何より、俺にはその力がある。
長いこと剣闘士やっていたから、銃剣類には慣れているんだよ。
そう言うと、彼女は何も言わず近寄り、キスをしてくれる。
マスカルもキス魔だし、この国ではキスは挨拶やお礼の印なのだろうか。
◇
「どうしたんだレギ? シャムが大の字でくたばってるみたいだが」
「それがですね隊長、どうやらソードファイターのクラスは相当辛いらしくて」
シャムは虎の姿になったレギを枕にして、眠りこけていた。
砂漠の夜は寒いから、そのままじゃ風邪を引くと思い毛布を掛けてやる。
するとシャムは寝返りをうって、同じく寝ていた竜の稚児を抱きしめる。
この光景をどうしても写真に撮りたくて、急いで写真機を探した――。
「ヴィラン、その写真機をしばらくの間借りてもいいかな?」
「アビーか? 別にいいけど何に使うんだ」
写真機であれば他にも数点あるしな。
帝国の野営地から抜け出す際、盗賊達がかっぱらったのだ。
「旅の記録として利用するんだよ」
言っただろ、僕は先発隊として建国場所を見つけて来るって。
「確かに聞かされたが、俺は許可してないぞ」
「あーれぇー? 僕はもう旅立つ準備出来てるんだよ?」
と言うことは。
「アビーはクラスチェンジを済ませたのか?」
「ああ、僕のクラスはアサシンナイトになったよ。基礎体力が格段にあがった」
……そんな彼女を試す一環で、拳を繰り出してみた。
アビーは放たれた拳を片手で受け止めて見せる。
「ちなみに聞くけど、今試したの?」
「ああ、クラスの恩恵はどんなものか知りたかった」
「確かに強くなったけど、まだまだヴィランに及ばないよ」
だから本気で殴るのは勘弁してくれ。と言い、アビーは抱き付いた。
「これで……僕も少しは使えるようになったかな? ヴィランの右腕として恥ずかしくないだろうか」
「気にするな、もとい、気にする所が違う」
アビーには元々マネジメントの方を期待して雇っているようなものなんだ。
俺がへらず口叩くと、アビーは誤魔化すように笑う。
「それじゃ、明日にでも出発するね。シャムや他のみんなに宜しく言っておいて」
「何度考えても、急過ぎる話だと思うんだよな」
何か隠してたりしないか?
アビーは俺の問い掛けに真っ直ぐ見詰め返した。
「……いい目だ、信じるに足る」
「ああ、じゃあ僕は行くね。ちなみに竜を一匹借りるよ」
「シルヴィアは止せよ、シャムのお気に入りだ」
「分かってる、じゃあヴィラン……愛してる」
俺には誰かに愛を囁かれるのは不相応だという自覚がある。
何故なら俺は姑息な人間だからさ。
姑息で、卑怯で、奴隷という惨めな格好も相まって。
俺は誰かから愛されるような、立派な人間じゃないんだ。
確たる心でそう思い描いているけど。
「アビー、必ず帰ってこいよ」
けど、アビーとの離別に、俺は真人間の振りをして彼女を見送った。
我が主、女神よ。
どうか俺の欺瞞をお許しください。
どうか、彼女の旅路に幸運をお与えください。
空目問題、今から出す単語を適切に空目せよ。
1:えらい
2:穴
3:えらい穴
さぁ、どうぞお答え下さい。




