本気を見せろ
翌朝、幸せそうに眠っているアビーを起こす。
「起きろアビー、朝だ」
「……朝か、じゃあヴィランもう一発」
「冗談言ってる場合じゃない」
「冗談なんかじゃない」
「冗談にしか聞こえないし、齟齬があるな」
アビーの強かな誘いを断り、昨夜から考えていた計画を成就させる方法を模索しようとした。
すると、暖かい日差しを誰かがさえぎり、影を落とすのだ。
「……やあ女神様、今日も麗しいね」
「気軽に私に話し掛けてくれるなよ、メス猫」
影を落とした人物は主だった。
主は山の寒気に触れても眉根を一切しかめない。
「ヴィラン、モルドレッドに敗れるようでは、お前の目標は達成できないだろう」
「世界は広いからね」
「そうだ。アビーはお前より世界を知っている。そしてお前より自分を知っている」
「……と言われましても。俺はシャム達を竜族から解放することしか頭にありません」
そう返答すると、主はギオス金貨をポケットから取り出し。
「シャムを竜族から救い出すには結局、モルドレッドを打破するしかない。ならヴィラン、本気を出せ」
と言い、金貨を投げて寄越す。
寄越された金貨には、主の期待が籠っていた。
主の祝福を再度受けた俺は、手にした金貨伝えに胸を熱くさせる。
「分かりました、今度はモルドレッドに本気で挑み。討ち取ってみせます」
そう言えば主は満足するだろうと思っていた。
そしたら、主はたおやかな微笑みを浮かべるんだ。
主の微笑む姿を網膜に焼き付け、アビーを抱き寄せる。
「では、行ってきます」
「行って来い、ヴィラン」
そして俺は竜族の巣窟へと繋がる洞穴まで飛び降りるように一気に降った。
「マミー、そう嘆かないで下さい」
「……ほっといてよ。どうしてこうなることを教えてくれなかったの」
「自分だってこうなるとは思ってなかったですよ」
「はぁ、ヴィランが居なくなったら途端に」
「途端に何だ?」
「生きる気力がなくなった、お分かり……ヴィラン」
「隊長! 生きていたんですね! 本当に?」
竜族の巣窟ではシャムが給仕の仕事をさぼっていて。
俺は岩窟内を見渡し、モルドレッドの姿を探した。
「モルドレッドはどこに?」
「モルドレッド様でしたら、あそこに居られますよ」
レギが指差した方向には一人の男がいた。
あれがモルドレッド? 竜の姿はどうしたんだ。
「レギ、代わりの服ないか? 見ての通り今着てるのはボロボロになったから」
「只今持ってきます」
レギに代わりの召し物を用意させている間、シャムに帰って来たことを改めて報告しようと思ったのだが……力が抜けきったようで、その場に座り込み、呆然としているな。
「シャム、心配掛けたようで悪かった」
「……本当よ……私、本当に」
思えばシャムは出逢って以来、俺に振り回されてばかりだ。
「ヴィラン、貴様生きてやがったか! この化け物め!!」
「ニードルさんもその後お変わりないようで結構ですね」
「当たり前だ! 俺は貴様を、おいどこに行く!」
「モルドレッドが俺に気付いた、みんなは安全な場所に隠れていて欲しい」
モルドレッドは洞窟の中央にある湖の畔から、こちらを覗っていた。
俺はそんな奴に歩み寄る。
「貴様、生きてたのか」
「冥府の神の寵愛を賜り、甦った」
「……女神の寵愛を受けるばかりではなく、ハデスさえも貴様を認めたのか」
冗句のつもりで口にしたが、異世界ギオスには冥府の神もいるようだ。
人間の姿を模したモルドレッドは、腰元まで伸びた白髪を携えていた。
顔貌は静謐であり、痩身ではあるが筋肉質のいい男の風貌をしている。
「俺は主より、お前の討伐を命じられた。俺の挑戦を受け取ってくれるか」
「隊長、代わりのお洋服持って参りました。ですが一言だけいいですか」
代わりの衣服を持って来たレギは、俺と目を合わせるのだが、一瞬にして視線を逸らした。
「……モルドレッド様の討伐は、諦めてくれませんか」
「無理だ」
「ですが! モルドレッド様がいるからこそ、世界は均衡しているのです!」
「レギ、世界のパワーバランスを調停しているのがモルドレッドだとしたら」
それは最早、俺達奴隷にとっての――悪だよ。
モルドレッドが今の世界を構成する一員ならば。
言い換えれば、モルドレッドは世界の奴隷を抑圧している一極だ。
「そんなクソ野郎は速やかに排除する」
「隊長!!」
「レギ、お前は聡明であるが、今一欠落しているものがある」
モルドレッドは強く反論するレギを手でたしなめていた。
「お前に欠落しているのは劣等感、それに基づく野心とエゴだ。あの湖のように常に落ち着いていたお前を好いていたが、心配の種でもあったのだ。いつまでも私の庇護に甘えてないでもういい加減、覚悟を決めることを覚えろ」
「……レギ、下がってろ」
「どの道、お前の実力では私達の闘いには届かない」
モルドレッドに覇気をぶつけると、奴も対抗するように覇気を返す。
レギは俺達の覇気に気圧されるよう、尻もちをつき――それが闘いの狼煙となり。
「っ!?」
瞬間、俺は後方へと吹っ飛ばされていた。
後方にはシャムが居て、吹っ飛ばされた俺を見てビクつく。
「っ、へ、平気ヴィラン?」
「シャム、下がってろ。そこは危険だ」
「って言われても、私腰が抜けて」
人間形態のモルドレッドは妙な技を使うな。
奴が腰を据えて構えたのを見て、てっきり後手に回るのだと思っていれば。
奴は虚空に向けて掌底打ちを放ち、目に映らない謎の衝撃波を生んだ。
「……来い、出来ればここで闘いたくない」
「駄目だ、俺はまだ空戦には慣れてない。前回負けた敗因はそれだ」
「では、地上で闘うか? なれば帝国が敷いた戦場跡地へと行くぞ」
して、モルドレッドは先に焼け野原へと向かう。
奴を見送った俺はレギが用意した衣服着替え、気息を整えた。
「ヴィ、ヴィラン! 今の裡に逃げない?」
「それは駄目だシャム」
「どうして? どうしてよ!」
どうしてって、それが主より齎された命令だからだ。
そう言うとシャムは悔しそうに下唇を噛みしめる。
「……でもね、ヴィラン。ヴィランは奴隷だけど、単なる奴隷じゃないの。ヴィランは私の――」
「マミー、隊長でしたらもう行きましたよ」
「な!? あ、が……ヴィラン!!」
シャムの弱音に付き合うこともなく、俺はモルドレッドに追いついた。
長きに亘った帝国と竜族の戦争によって雑草の一つすら生えなくなった荒廃した大地に、奴はぽつねんと立っていて、秘めている末恐ろしい力を俺に感受させているようだった。
今は、奴の静まった視線が恐ろしくうざったい。
「シャムの言う通りにしていればよかったものを」
「であればお前はどうしてたんだ?」
「……あの山脈の先は、新世界と呼ばれているんだそうだ」
それはレギやアビーから聞かされている。
レギは竜族の山脈を越えなくても、新世界に行く方法はあると言っていたが。
危険を避けて、それが俺にとって何のためになる。
俺は常に危険と隣り合わせを強いられている奴隷だ。
大事な命は女神の加護によって守られている。
ならば危険を恐れず、挑戦してみたく思う。
でなければ主の失望を買いそうだ。
であれば主から見放され、俺は朽ち死ぬ。
「もしもお前が仲間と共に新世界に渡れば、私のような者に確実に、その命を取られていたことだろう」
「御託はいい。さっさとやるぞ」
「私に一度敗北して、気が逸るか」
――それでは、始めよう。
「っ!」
奴が放った透明の衝撃波は、僅かな大気の歪みを感知して避けれた。
しかし奴のそれは無限に続く攻撃だった。
「その程度で反抗しようとは、嗤わせるな」
「ほざけ悪漢が、お前の悪人面が輪をかけて悪どくなってるぞ、必死なんだろ?」
言うと、奴は眉間にしわを寄せ、遠方に目をやった。
奴の視線の方向には帝国軍の野営テントがある。
その方角から奴隷戦士たちの進軍による咆哮が聴こえた。
「……――」
「止せ!!」
止めてもモルドレッドは兵士たちに向けて手の平から膨大な光を放っていた。
光は綺麗な直線を描き、戦士達を呑み込んで軍を瓦解させる。
「あいつらは所詮奴隷だ。殺そうと思っても死にはしない」
「……! やっぱりお前はここで斃さねばならない相手だ」
シャムも、レギも、モルドレッドも判ってないんだ。
「俺達、奴隷の苦しみを、思い知らしてやる――」
昨夜、私は某所にて何故かBLの話題になりました。
BL好きかと言われれば、ネタ程度に嗜みます。
ではここで、私が描くBLの一部分を抜粋しましょう。
陽キャ「うっはは、すっげ」
陰キャ「なんだよ、その薄汚い笑い声やめろよ」
陽キャ「だって、上から見たら物凄い光景だぞ」
図書館と言う静謐な空間で、水と油だった二人の男子学生は表の顔を外し、世間に隠れるように行為に及んでいる。陽キャと陰キャはそれぞれの役割を理解するよう、互いを求め合うのだ是ぞ、陰陽師(隠語)である。




