救出劇
意識が醒めると、耳朶に尊い歌声が届く。
それは天上で奏でられる讃美歌のように――美しく。
それは遠い記憶にある、主の歌声だったような気がする。
嗚呼、我が主。
貴方に拾われたのは、これ以上ない幸運でした。
貴方が差し伸べてくれた救いの手は、畏れ多く。
握り返すことは叶いませんでしたが、それでも。
それでも貴方は、お美しい。
すると、月すら羨むほどの美しさを秘めた主は姿を消した。
俺は消えた主を取り戻すように、必死に手を伸ばし。
先程は握ることが叶わなかった彼女の手を、追い求めていた。
「やあヴィラン、目が覚めたんだね」
「……アビーか?」
「無理に声を出さなくていいよ、今から状況を説明するからさ」
視界には、一面見渡す限りの雲海が広がっていた。
幻想的な雲海の上にある空は茜色に染まっている。
どうやら今は夕刻のようだ。
女神の加護を受けている俺すら、肌寒い。
耳には雪を踏みしめる音と、遠くで起こった雪崩れのような音が聴こえる。
「ヴィラン、君は残念だけどモルドレッドに敗れたみたいだね」
……そうか、俺はモルドレッドの光のブレスをモロに喰らって。
激痛に耐え切れなくて、意識を失ったのか。
今も身体の前面がジンジンと麻痺し、周期的に浅く痛む。
「でも君は奇跡的に生きている。僕は君が生きていることに賭けて、全力で捜索したんだ。こんな過酷な環境下にある山脈の頂き付近までハイキングしてね」
君の右腕として、恥じることない殊勲だと思わないかい?
アビーは普段通りに喋っているつもりだろうが。
彼女からは口をカチカチと鳴らす、シバリングの音が聴こえる。
「……すまない、俺だったらもう……大丈夫だ」
「虚勢張るのは止めてくれないかな、僕は今必死なんだ。わかるだろ?」
「……すまない」
酷い寒さに堪えながら、アビーは慎重に雪山を降る。
俺は彼女の背中に乗せられ、脱力したまま運命を共にしていた。
もしこのまま滑落したら、彼女と一緒に天命を迎えよう。
けど俺は先には死なない。
俺には、我が身を助けてくれた彼女を看取る義務があるから。
◇
その後二時間も経つと、辺りは真っ暗闇に包まれた。
「ごめんねヴィラン、闇の中での行動は慣れたものとはいえ、危険だから」
その頃にはアビーと俺はテントを張り、再会の喜びを分かち合った。
アビーは瞳を潤ませ、俺に口付けを施す。
彼女の口内から唾液が混じった簡易的なスープを摂る。
彼女は口内に含み、ひな鳥のように俺にそれを繰り返し与える。
「――……凄い回復力だね。もう肌が再生してるよヴィラン」
男前だった君の相貌は完全に戻ったから、安心して。
と彼女は俺に安堵を促すようにまた口付けを施す。
「……シャム達は、どうしてる?」
「他のみんなは竜の奴隷として働いてるよ。僕は竜の目を掻い潜って、君を探しに来たんだ」
「ニードル保安官は?」
「彼は、ごめん、わからない。特に気に留めてなかったから」
「……じゃあモルドレッドは? 奴はシャム達を使役して何をしたいんだ」
「モルドレッドの目的はわからないけど、僕達には想像すら及ばない高次な意識で動いてるんじゃないかな。例えば――女神の抹殺とかさ。もしくは天下最強と謳われる魔王の地位の簒奪を狙ってるとか」
「それだけ聞くと、モルドレッドは単なる劣者にしか思えないな」
異世界ギオスには帝国を抑える竜族の上の存在がいるらしい。
どこぞの戦闘狂民族だったら、胸が高鳴るかもしれないが。
俺は絶望のような失意しか感じないんだ。
「……落ち込まないでくれ、君には僕やシャムや、ニードルさんがいるよ」
「ニードルは余計だ。そう言えばレギはどうしてるんだ?」
「レギは竜族に仕えていたまじないし? から妙な魔法掛けられて」
何でもレギは妙な魔法に掛かり、夜は虎に、昼は人間の姿になるようになったらしい。
俺は以後、竜の肉は控えるようにする。
あの時シャムが止めてくれて本当によかった。
「はは、僕達普通に喋ってるね。君の回復力は異常だよ」
「一先ず礼を言っておく、ありがとうアビー」
「お礼の言葉はいいよ、言葉よりも僕はヴィランの精力が欲しいな」
怪我が回復し切ると、アビーは露骨に俺の身体を求める。
シャムが疑うほどの淫蕩さを持った彼女らしい一面だ。
しかし見ると、アビーの唇は血色が悪い。
そのことに気付いた俺は一晩中、彼女を抱きしめた。
こんにちは。
皆さんは、小説の末文としては一番何がいいですか?
私は断然的にFIN.を使っています。
約束しましょう、今作の末文も必ずやFIN.で締めくくると、キリリ。
他にも完、とか、了、とか、終わり、なんかといった日本語もいいですよね。
でもですよ? FIN.というのはそもそもフランス語でして。
そこにはフランスポルノが如実に妄想でき(略。




