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竜戦


 次第に、シャムの奴隷達が沈黙に耐え切れなくなり小言を零し始めた。


 ――どうする?

 ――いくらなんでも相手が悪い。

 ――ざまぁ。


「みんな黙ってくれ、それと俺に憎悪を抱いている奴、この後で覚えておけよ」

「何を躊躇っている? 矮小な人間が歴戦の伝説に敵うと本気で思っているのか?」

「何が歴戦の伝説だ。たかが長生きしているだけじゃないか」


 と言うと、恐れをなしたレギが悲鳴を上げていた。


「ヴィラン、モルドレッドの言う通りにしたらどうだ?」


 すると主が陽炎の中から現れ。

 主の姿を見た竜達は一様に鳴き始めた。


「久しいな、女神よ」

「……モルドレッド、お前もあいつに似て来たな」

「一体誰のことを言っているのか見当が付かないが」

「呆けたのか? それは嗤える」

「女神の方からもその奴隷に口添えしてやってくれないだろうか」


 嫌な予感がする。


 主はとことん人間が嫌いだ。

 だから人間に仇なす巨竜の存在は、彼女にとって好都合というもの。


 その考えから、俺は主を凝視していた。

 清廉とした主は麗しい短髪の銀毛をかき上げ、口端を――歪める。


「面白そうだ、是非ヴィランに手ほどきしてやってくれ」


 と言い、主はギオス金貨一枚を指で弾いて寄越した。


「今すぐ命令を解いて下さい主、ここには俺達以外にも」

「他の連中に被害がでないようにしておいてやるよ。始めろ」


 言った次には主の姿は消失していた。


「感謝する、女神よ。ではヴィラン、いざ参る」


 先手を取ったのはモルドレッドの方だった。

 傍に居たレギやシャム、他の人間に退避する指示を出す中。

 俺はモルドレッドの巨躯による踏み潰しを受け止め、地面をくぼませた。


「どうしたヴィラン、お前らの特徴は小回りが利く所だろ」


 と言われる間に、モルドレッドの左足は地面に付き、酷い振動を上げる。


「……レギ、大丈夫よね?」

「マミー、自分にもこの闘いの結末がどうなるかは判りません。しかし」

「しかし?」

「隊長が呆気なく死ぬ光景は、自分には想像出来ません――上です」


 他の奴らがモルドレッドの左足の下を意識している中。

 レギだけが上空にいた俺の姿を捉えているようだった。


 モルドレッドには左足で踏み抜いてくれたお礼として、俺の左拳による一撃を見舞ってやる――――ッッ!!


「っ!?」


 モルドレッドは頭上からの奇襲に、頸髄を穿たれ、首をUの字に曲げて前のめりに倒れた。


「小回りが得意なのは、普通の人間だ。だが女神の加護を受けている俺が得意なのは、貴方と同じ圧倒的な膂力による攻撃なんだよ」


「中々にやる。そうでなくてはな」

「……チ」


 今ので仕留めたと思っていれば、モルドレッドは飄然と立ち上がる。


「では、肩慣らしはここまでにしておくか。行くぞ小僧!!」


 モルドレッドは両翼を目一杯広げ、空を駆け上り。

 巨躯の竜達の巣窟から抜け出て、俺を誘う。


「……厄介だな」

「ヴィラン、いっそのこと素直に降参したら?」

「そう言う訳にもいかないだろ」

「どうしてよ?」


 隙を見計らってシャムが近づき、降参するよう打診して来るが。


「俺は、奴隷から大君に成り上がるんだ。そのためにこんな所で立ち止まっている訳にはいかない」

「終いにはそれなのね。成り上がることがそんなに大事?」


「…………嗚呼、俺は成り上がることに命を懸ける」

「それを聞いてどこか納得したし、安心したわ」


 それにしても、俺には空を自由に駆け巡る魔法など持ってないぞ。

 モルドレッドは満を持して空に出て行ったが、どうすればいい。


 上空にモルドレッドを待たせていると、主が俺の肩に手を置いた。


「この先、何があるか判らないんだ。今は私の力を与えてやるが、今後はお前の研鑽によってもっと自由な力を手に入れるよう努力したらどうだ。生半可な力じゃ成り上がるなんて到底不可能だぞ、ヨモギダちゃん」


 主は俺に空を飛翔する力を与えてくださったようだ。


「ありがとう御座います主」

「皮肉のつもりか?」

「いえ、決してそのような無粋な意味じゃないですよ」


 弁明すると、紅色した主の瞳が心なしか穏やかなものになっていて。


「行って来い、伝説の竜如き、さっさと斃して来い」

「……はい」


 主は寵愛する奴隷の門出を祝うように、激励の言葉を言う。


「待ってヴィラン!」


 ふと、シャムに呼び止められ、何事かと振り返ると、彼女からキスを受けていた。

 それはたぶん俺が期待していたことだった。


「必ず勝ってよね、必ずよ?」


 シャムは先程まで不安を過らせていた瞳の色を、希望に変えている。

 俺の期待に応えてくれた彼女の希望を、裏切るような真似はしたくないな。


「遅かったではないか、何か策を張り巡らせて来たというのか」


「モルドレッド、貴方は何なんだ。人間を過小評価したり、人間の真価を誤解したり。貴方はそれでも何百人もの人間の奴隷を従える竜族の長で合ってるのか? 普通の人間は単独で空を飛べないんだよ」


「だが、貴様は普通の人間ではないのだろ?」


 標高五千メートルはある山脈の上空の空気は凍てついていた。

 竜族の住処だった洞窟の中は地熱によって守られていたからいいものを。


 こんな厳しい寒さの中、まともに動けるのは竜族と一握りの人間だけなのだろうか。


「「……」」


 モルドレッドとしばらく睨み合い、お互いの出方を覗っていた。

 共に未知の敵、ともあれば、互いに必勝の手を打ち出す。


 この勝負は、先に波に乗った方の勝ちだ――――ッ!!


「っ!!」


 俺が右方向に移動すると、モルドレッドは左に動いた。

 俺達は円を描くように、牽制しつつ間合いを測っている。


 その時、モルドレッドの瞳の色が変わった。

 勝負を焦ったのか、奴は顎を開いて一筋の光を吐いた。


 直感的に奴が吐いた光芒を躱すと、モルドレッドは嗤った。


「今のを躱すか! 帝国の皇帝も避けれなかった私の秘策をよぉ!」

「竜と言えば個体ごとに違ったブレスが特徴的だからな」


 もしかして――今のが奥の手か?


 挑発するように奴を嘲弄すると、モルドレッドは瞳を光らせた。


「馬鹿めッ!!」

「――ッ!?」


 モルドレッドが吼えると同時に、後部から衝撃が走る。

 この衝撃に、俺は覚えがあった。


 蓬田塔矢の時分に、トラックに撥ねられた時のものによく似ている。


 身体は中空を回り、酷く気持ちが悪い。


「喰らえ小僧!! これで終わりだ――ッッッッッ!!」


 するとモルドレッドは中空で踊るように舞っていた俺目掛けて巨大な光のブレスを放った。


 女神の加護を受けているとは言え、激しいこの痛みはなんだ。

 これが普通の奴隷が持つ、痛覚だというのか。


 今まで忘れていたその感覚を思い出し、堪らず苦鳴を上げ。

 勢いそのままに、山脈に突き刺さるように空から落ちた。


「……人間の最期は、いつも呆気なく、侘しいものだ。これでまた」


 これでまた一つ、寂しくなるな。


後書き……後書きねぇ?

何を書いたらいいものやら、はてさて。


ここらで一丁、上手いことの一つでもバシッと言えれば。

私はまだ作家をやれる、やれるんや!


では参ります。




布団がふっ(略。

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