大脱走
後日、レギから俺に一報が届く。
「隊長! 最近やたらと盗難被害の報告が兵士達より届いています」
「それは困りものだな」
「隊長は何かご存知なのではないですか?」
盗難被害、と言われすぐさま思い当たるのは例の一件だ。
「それよりもレギ、折り入って話がある」
「誤魔化そうとしてませんか隊長」
「殊は盗難の話よりも重大なんだ、実は――」
レギは俺から聞かされた内容に鋭い虎の眼を細めていた。
「……隊長はどうするのです?」
「俺は向こうにそびえる山脈を越えろと、主から命令された」
である以上、俺は命令に従い、あの名前も知らない険しい山脈を越える。
「シャムや信頼できる奴を連れてな、レギはどうする?」
「自分は隊長に命を拾われたのですから、もちろん付いて行きます」
レギ、お前ならそう言ってくれるだろうと思ったからこそ、打ち明けた秘密だ。このことが帝国に知られれば俺は敵前逃亡、もしくは竜討伐隊の指揮を混乱させた罪に問われ即座に処刑される。
レギには口封じとして念を押すようにこう言い含めた。
できれば、何事もなく山脈を越えられればいいのだが。
「しかし隊長、あの山脈は竜の住処ですよ? 竜はどうなさるおつもりなんですか」
「……それは俺の主に聞いてくれ」
主のことだから、何かしらの策略を張っているとは思っていたが、そうか。
前方にそびえ立つ山脈は、竜族の住処だったのか。
存外、どうでもいい情報だ。
されど重要な情報だ。
例え目指すべき山脈が竜族の巣窟だったとしても、ギオス金貨を対価に主から命令された以上俺は行かなければならないし、かと言って竜族の存在を知らずに背後から奇襲にでも遭えば命取りになるだろう。
「それで隊長、出発はいつですか?」
「今夜だ」
「こ、今夜ですか!?」
「何だ、何をそこまで動揺している」
「じ、自分にも心の準備がありますから」
レギの説明が本当かどうか怪しい所だが。
俺達は早々に準備を済ませ、出立しなければならない。
「ヴィラン、言われた通り、エルドラードの富豪に闘技場、リッツ領の領地、そしてクラックの財産は売り渡した。これが対価のギオス金貨一万枚を乗せた馬車になる」
山脈から踵を返すように陣地内の野営テントに視界を戻すと、アビーがギオス金貨一万枚を乗せた馬車と共に駆け付ける。一万枚ものギオス金貨をここまで牽引してくれた馬達を労い、そしてアビーを労う。
「ありがとうアビー」
「でも、金貨の使い道は?」
「色々あるだろ、ギオス金貨は世界共通の通貨なんだろ?」
「そうだね、この世で唯一の世界的な金貨だ」
でもよくよく考えればそれもおかしな話だね。
アビーはお気楽な声色でそう言う。
どうしてギオス金貨だけは他の貨幣と違って世界共通なのか。
それはやはり……世界の枢軸を担っている俺の主の影響なのだろう。
「とにかく、これだけのギオス金貨があれば一生遊んで暮らせるよ」
「アビーはそんな人生嫌だろ?」
一生遊んで暮らす。
それは蓬田塔矢の時分であれば願ってもないことだが。
地球よりも文明力に劣るこの世界で言われてもな。
「いや、僕は案外受け入れるよ」
「そっか、じゃあとりあえずレギとアビーの二人には金貨の警護を頼む」
「ですが隊長、自分にはちょっと野暮用が」
レギは今夜出立することに酷く焦り、唸り上げている
レギは裏表がない奴だと私的に認めていた。
だから、恐らくレギの場合の対応はこう言えばいい。
「分かった、なら俺が見張りをしておくから、手短に用事済ませて来いよ」
「ありがとう御座います隊長!」
お礼を口にしたレギは全速力で帝国方面へと駆けていった。
きっと肉親かそれに近しい間柄の誰かと別れを済ませるのだろう。
◇
そして今宵、異世界ギオスの月が天空に昇った頃。
「ねえ、ダニエルさん、聞いてくれる?」
「何だね?」
「私、これでも一所懸命、頑張ってるのに、この隊の連中ってば酷いのよ?」
「どう酷いと言うんだ」
「こんなうら若い乙女を捕まえて、みんなでマミーって皮肉るの」
シャムが帝国の使者の注意を惹き付けているその間に。
竜の付近で見張りをしていた衛兵どもを静かに卒倒させ。
六翼の竜に繋がれていた鉄鎖を解除した。
「シャム、もういいぞ」
「分かったわ、ってことでダニエルさん、さようなら。少しの間だったけど楽しかった」
「な!? 待て貴様ら!!」
「そう言われて大人しく待つ盗賊はいないの、勉強になったかしら」
銀竜のシルヴィアはシャムを背に乗せると、颯爽と羽風を起こして空へ飛び立った。
そのまま六翼の竜達は陣営の上空を旋回飛行している。
地上に唯一残っていた俺はダニエルと対峙し機運を計っていた。
「これは、どういうことだヴィラン隊長? 貴公はよもや帝国を裏切るおつもりか」
「さすがはダニエル様であらせられる、理解が早い」
「まさか、本当に?」
「えぇ、俺はエルドラード帝国に反旗を起こすことにしました……貴方達の狙い通りだろ?」
「き! が……っ! 出合え出合え!! 兵士達よ、この不届き物をひっ捕らえるのだ!」
「もう遅い、っ!」
帝国への反抗声明を確と伝え、踵を返し野営テントの間を疾風の如く駆け抜けた。
すると上空で旋回していた六翼の竜は一斉に山脈へと向けて進行する。
「ヴィラーン!! 早く飛び乗りなさいよー!!」
「分かってる! 今行く――ッ!」
野営テントが敷かれている高台の崖から全力で跳躍した俺は、しばらくのあいだ空を飛んでいた。重力に歯向かうように空を滑翔する時間は、麗しい我が主との一時のように居心地が良いものだ。
刺激に溢れ、高揚感が止まらなくて、享楽に浸かるように神経は集中していた。
興奮物質であるアドレナリンが滂沱の滝のように溢れ出る。
空を単独で滑翔している俺を銀竜のシルヴィアが拾ってくれた。
けど、沸騰するようにもたげた興奮は冷めなくて。
「上手く行ったわねヴィラン、さすがはヴィランだけはある、わ……――」
隣に居合わせた痩躯の嫁の儚い唇を、つい奪ってしまうのだった。
雨の日も、風の日も、雪の日も、晴れの日も。
私は、私は――
すっとこどっこい節を貫き通す!
変幻自在の節捌きを、見よ!
(´∀`(⊃*⊂)ヌェエエエエエエエエエイ!
この肛門が目に入らぬか!
前回も申し上げましたように、私は迷子です。




