英雄賛歌
「ハァーハッハッハッハ! 見ろヴィラン、人間がゴミのようじゃないか」
「主、哄笑するにしても俺を巻き込まないでください」
それも戦場で、何の罪もない俺と同じ奴隷に対してだ。
某日、俺達は竜族との戦場に本当に駆り出されていた。
相手は一匹の若々しく獰猛な黒い飛竜に対し、こちらの軍勢は四千は出ている。
竜の格好は地球で言うところのヨーロッパ風の其れだった。顔つきは恐竜に近く、精悍であり猛禽類の目を持ち、何より特徴的なのは幅十メートルに及ぶ頑強そうな両翼。
一騎当千とは彼ら竜に対する称賛の言葉だ。
主が仰る通り、眼下で竜に翻弄されている奴隷戦士達はゴミのようだった。
「どうするヴィラン? 飛竜は私もやり辛い相手だ」
先日俺の右腕となったアビーは後方の高台から戦況を分析している。そもそもアビーにはマネジメントを期待しているのであって、戦場に出て来て有能な男を見つけ食指を伸ばすのはお門違いだ。
「竜に対するエルドラードの定石とかないのか?」
と、俺の新しい配下となった猫目の軍師、レギを問いただすと。
「ないことはないのですが、飛竜に対しては基本的にはバリスタや魔術師による攻撃で消耗させ、地に落ちた所を地上兵で強襲するのが鉄則です」
ならさっさとそれをやれ、最前線で竜に遊ばれるよう蹂躙されている奴隷が可哀想だ。
「ハハハ、超受けるなヴィラン」
人間嫌いを自負して止まない主はその光景を肴にしてたる酒を味わっているし。
「ならレギ、バリスタを持ってこれないのか?」
「エルドラードが所持するバリスタは全て絶対防衛圏の守りに使われてます」
絶対防衛圏とは、エルドラードが国民に対して打ち出した政策のようなもので。エルドラードが定めた防衛圏の範囲以内であれば、外部からの攻撃が絶対に届かない。と言うものだ。
それにより国民の安穏的な生活を保障している。
「なら使える魔術師はいないのか?」
「それがですね隊長。有能な兵士ほど、功績をあげて退役していくのが現状なのです」
なるほど、それはどこの世界でも言えることである。有能な奴ほど仕事での功績を上げるのは早く、地位を上げ管理職になるものだ。そして有能な奴ほど、俺達奴隷のような下働きは毛嫌いする。
まったく、嗤えるよ。
戦場で竜による火炎に身体を焼かれ、阿鼻叫喚を上げている奴隷兵士。彼らに与えられた装備は自前で用意していた石槍や棍棒、皮の鎧にロングブーツと言った所だ。
「クハハハハハハハッ!! 面白い、実に愉快だ!」
「……」
抱腹絶倒して、その場で胡坐を掻き始めた主を内心見下していた。
「ではどうする? 戦局を変えるいい案はないのか」
「ヴィラン、貴方の実力を知らしめるのです」
「彼女も言ってますように、隊長が隊長になったのはこのためかと」
……はぁ、ならやるだけやってみるか。
「ぐあぁあああああ!!」
「ニードルさん、貴方もいらしてたんですね」
「その声は、まさかヴィランか!?」
前線に赴くと、ニードル保安官が奴隷兵に交じって絶叫していた。
もはや彼とは腐れ縁と言ってもいいかもしれない――ッ!
「っ!?」
「聞いた所、竜族は人間の言葉が判るそうじゃないか、大人しくしろ」
地上を焼き払おうと近づいた飛竜の上に飛び乗り、降伏するよう言い渡す。
すると竜は俺を振り払おうと飛行速度を上げる。
「暴れるな、俺は意外とジェットコースターが好きなんだ……再度告げる、投降しろ」
「……――ッ、ッッッ!!」
しかし竜は依然として曲技飛行を止めなかった。
だから俺は渾身の力を拳に籠め、竜の背骨を――ッ! 穿った。
岩を砕いたような鈍い音が上がると、飛竜は悲鳴を上げ、俺と一緒に地に落ちる。
そこに大量の地上兵が押し寄せ、竜を嬲り殺していた。
「……俺は投降しろと言っただろ?」
飛竜は地上兵に身体をいたぶられる最中にあっても、俺を見詰めている。
竜の瞳は美しい円模様を描いていて、その輝きは虹色のようだった。
かくして、大抵は敗北すると言われる竜との初戦を俺達は制した。
「ヴィラン、私はこのことを報告しに帝国に戻る」
アビーは俺の戦果を上層部に報告するために帝国に帰投するらしい。
「見事です隊長、まさか本当に単独で竜を地上に落とすとは」
「レギ、お前も軍師を名乗るのなら戦果をあげろ。でないと使い物にならない」
俺の太鼓持ちをするのもいいが、戦場で役立てるようになってくれ。
叱咤から逃れる一環だったのか、レギは俺の後方を指さした。
レギが示唆した方向には、四千に及ぶ兵士達が俺を覗っていた。
「ヴィラン!! 貴様、ここで会ったが百年目ぇッ――あふん」
ニードルが出しゃばろうとしていたが、即刻黙らせた所で。
「いいか? 俺達の目的は竜族の長であるモルドレッドを討伐することと、もしくはエルドラード帝国の皇帝、ベガに謁見することだ。その二つのどちらかを達成すれば、お前らを軍から解放してやる」
俺は奴隷にまで落ちぶれた彼らに、出来もしない口約束を言い渡した。
すると四千の兵達は熱狂し、大歓声を上げる。
それは、闘技場ではお馴染みとなっていた、英雄への賛歌だった。
私「できちゃった婚しようじゃないか神よ」
神「めんどくせーな~」
神はいつもの口癖を言い渡す。
神は決して私とのできちゃった婚に否定的じゃない様子だ。
まぁ、だから?
私は神と既成事実をつくるよう奮起するために、その日は盛大に精力を付ける。
私の目前でペテン師っぽい笑みを浮かべているこいつは意外と、夜は激しいからな。
続く。




