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BadHabit 8


「ヴィラン! 私達一生……ここに居ましょう」

「そういう訳にもいかないだろ、王子が戴冠した後は闘技場に帰る予定だ」


 王城で暮らすこと早一週間が経ち、シャムは何事かをほざく。


 淡々とした調子でシャムの戯言を聞き流していると。


 彼女は俺の背中に抱き着いた。


「……ヴィラン、愛してるから」

「から?」


「私と一生王室の恩寵に預かりましょ。その方が私達の生涯も永遠に幸福なまま暮らしていける」


 今度は何を企んでいるのか知らないが、シャムの野望はいつだって小さい。

 彼女には大きな志がないのか? と、齢十五の娘に期待してもしょうがない。


「……具体的に、シャムには夢とかないのか?」

「夢?」


 と訊き返した彼女の瞳には『お金』と書いてある。


 成金じゃあるまいし、少しは我欲以外にも目を向けたらどうだ。


 その方が人生豊かになる。とは蓬田塔矢やっていた頃の自負だ。


「じゃあ逆に訊くけどヴィランの夢って何?」

「……世界平和」

「……へぇ」


 あからさまな嘘に対し彼女は不信感をあからさまにしている。


「失礼します」

「ミハエル? どうしてここに来たの?」

「ヴィラン様から戴冠式のお召し物を用意して欲しいとの一報を受けまして」


「ありがとうミハエル、シャムの当日の衣装もあるよな?」

「えぇ、ご用意させて頂きました」


 王城で暮らすこと早一週間、俺達は豪勢な思いをしているとはいえ、内情的には窮屈な時間を過ごしていた。アビーの計らいで王子の戴冠式に出席させてもらえることになったが。


 王子は王城にいる貴族達に一歩も外に出るなと命じている。


 自分の戴冠式を邪魔する連中の身動きを封じる狙いだろう。


 だから王子に許可を取り、ミハエルに当日の衣装を持ってきてもらった。


 その衣装は我が主である女神の加護を受けている特別な衣装だ。


「……似合う?」

「えぇ、とても十五とは思えない気品に満ちていらっしゃるかと」

「ヴィランもそう思う?」


 と、シャムは黒衣のショートドレスを靡かせる。


 とても似合ってると思えた。


「でも、どうして黒い色調なの? お葬式じゃないんだしさ」

「さぁな、主の趣味だと思う」

「失礼する。ヴィラン、もしかして今君の噂の主の話をしていたかな?」


 ヴォルフ王子が来室し、俺達は咄嗟的に身構えた。


「物騒だな、矛は収めてくれよ」

「申し訳ありません、まさか王子ご本人がやって来るとは思わなかったので」

「先日の失言を謝罪しに来たんだ、そしたら気になる内容を言っていたのでね」


 王子は俺の主に関心を示している。


 だが主は人間が大嫌いだ、特に王子のような腹黒い人間は。


 ……なら俺も主から嫌われているのか?


「ヴィラン、君の主を是非舞踏会に招きたい」

「舞踏会? 今回も舞踏会があるのヴィラン?」

「戴冠式の前夜祭だよ」


 シャムはそうなのかと頷き暢気な調子で舞踏会の日程を訊く。


「で、舞踏会はいつなの?」

「明日だ」

「あ、明日? なの?」


 彼女の内心が見え透ているようだ。


 シャムは「なら私達の超豪華な暮らしも明日で終わり? 冗談じゃない!」と言いたそうにしているが、そこは王子の手前、口を噤み言葉を言い淀んでいる。


「シャム殿、その衣装とてもお似合いだ。明日は私と一曲どうかな?」

「喜んで……でも、王子の奥様となる人が可愛そう。王子は女の人に弱いと聞いています」

「そこは私の不徳の致す所でね、私も明後日には国王になることだし」


 明日の舞踏会で特定の人を見つけることにしよう。


 と、さも今思いついたかのように王子は打ち明ける。


 シャムはその言葉に踊らされるよう、姦計を企てるのに必死だった。


 王城に一緒に来た彼女の奴隷を集め、事情を説明した後。


「既成事実!! これが今回の作戦よ」


 小さな手で握りこぶしをつくって、馬鹿なことを高らかに宣言していた。


「……ミハエル、お前にも明日の舞踏会に参列して欲しい」

「畏まりました」


 これで、準備は整った。

 後はアビーから言われたとおりに動き、極力王子の気を引き付けよう。


 その日は夜遅くまでシャム達が呪詛のように算段を立てていたから、寝つきが悪かった。


 ◇


「は!? 今何時!?」

「午後四時で御座います」

「しまったー、ミハエル、どうして起こしてくれなかったの?」


 翌日、シャムが何の罪もないミハエルに食って掛かっている。


「ミハエルは一、二回、シャムを起こしたはずだぞ」

「……そうなの?」


「然様で御座います、ですが奥様は私はまだ眠い、眠気が残っていると不測の事態を起こすのが生来からの気性だから。まだ寝かせておいて、後五分。と言い、一向に起きる気配がなかったのでこれは処置なしと思いまして」


 ミハエルの弁明のようなそうじゃないような説明にシャムは頭を抱えた。


「そろそろ着替えろシャム、舞踏会が始まる」

「はぁ……わかった、わかりました」


 と、彼女は大胆にも俺達の目の前で着替え始める。


 シャムは先日も披露していた白いシルクの下着の上に黒衣のショートドレスを着こむ。清廉とした彼女の白い肌合いと黒衣のドレスはコントラストでよく映えた。そして化粧台に置かれていた香水をひとふり掛け。


「さ、準備出来たわ。行きましょう」

「よし行こう」


 元々王族だった胆力をもって、堂々と華々しい会場に躍り出る。


 彼女をエスコートしているつもりが、俺は彼女にエスコートさせられているようだ。


「これはヴィラン殿、それと麗しい私のシャム、よくぞお越しくださった」

「ヴォルフ王子、この度は誠におめでとう御座います」

「ありがとう二人とも、所でヴィラン殿の主の姿が見えないようだが?」


「……主はきっとお出でになられません」

「何故?」

「主は人間がお嫌いですから」


 そう言うと、ヴォルフ王子の口元が一瞬歪んだように見えた。


「ならばあの噂は本当だったのかな? みんなも聞いてくれ。これは国の存亡が掛かった根も葉もない噂なんだが――今私の目の前にいる男、ヴィランの正体は隣国、エルドラードのスパイだ」


 スパイ? 王子は唐突に何を言い出したのだろう。俺は一介の奴隷に過ぎなくて、スパイといった重要な役に就くほど異世界ギオスでの人望はない。


「それを証拠に、ヴィランは先日、リッツ領領主のリチャード三世の事件に深く関与していた。みんなも知っていたように、リチャード三世と我が弟ラリーは浅からぬ仲だったのだ。であるからこの男にはこんな噂が立っているのだよ……と言うことだヴィラン、先日、君に働いた無礼を許して欲しい」


 私はその噂に気を立て、感情に任せ歯止めが利かなかったのだ。


 と、王子は小声で体裁を取り繕うが。


 今の一件で俺の悪評は舞踏会に広まり、シャムも身動きし辛そうになった。


 王子が冷ややかな目をしながら立ち去ると、今度はアビーが近づいて来る。


「あの王子は本当に陰険だねヴィラン」

「そんなこと言うものじゃないぞアビー」


 こんな状況で王子を非難すると、体制批判と受け取られ、俺達は即座に牢屋行きだ。


 聞けば今回の警備にニードル保安官も参加しているというし。


 ヴォルフ王子の『お膳立て』は、恐るべきものがある。


「まぁ、その時はその時さ。それよりも僕と一発、じゃなかった、一曲どうかな」


 アビーから手を差し伸べられる中、俺は(まなじり)に映っていた主を気にした。てっきり今日は出てこないと思っていたが、主はミハエルと談笑しているようだ。ヴォルフ王子がそんな二人に近づいていた。


 王子は見るからに主に靡いている様子で、嫉妬しか覚えない。


「さ、僕達も踊ろう。今を楽しまないと損するよ」


 そしてアビーから多少強引な誘いを受け、俺も舞踏会の中に埋没する。


 彼女とベーシックな社交ダンスを踊っている最中でも、噂が気に掛かり。


「……君は俺の噂を知ってたか?」

「ああ、ヴィランと会う前に寄った居酒屋で全部聞いたよ」

「だから俺に近づいたのか?」


 問うと、アビーはいつか見せた怜悧な顔つきに戻る。


「馬鹿なこと聞くなよ、私は何の理由もなく男を誘惑しない」


 つい、明後日の方向に目を背けてしまった。


 彼女に対する浅薄な誤解を抱いてことが恥ずかしくて。


「そうそう、僕は今のヴィランみたいな恥辱に塗れた表情が大好物だ」

「……悪かったな、こういった経験は王子ほどないんだよ」

「でも、ヴォルフ王子って実は種無しなんじゃないかって噂だよ?」


 咄嗟に彼女の口を手でふさいだ。

 周囲で踊っていた貴族達は失笑したり、白い目で俺達を見ている。


「ははは、噂は所詮噂に過ぎないよ……だが、隣国の動向が不穏なのは事実のようだ。私自身、幾度かエルドラードに潜入していたのだが、新皇帝であるベガは国威拡大のため、この国を狙っているとの情報を掴んだ」


 新皇帝? 何者だろうか。


 主の言いつけでずっと剣闘士やっていたから、外の世界はあまり知らない。


「ヴォルフ王子も、亡くなられた国王陛下もその情報は察知していた。ヴォルフ王子は陛下に戦力の増強を訴えたが、陛下の考えは違ったらしい。そこでヴォルフは国王陛下を亡き者にするため、エルドラードに出向した陛下を、ある橋を陥落すると共に抹殺したのだ」


 ――それってもしかして、例の鉄橋のことか?


 王城から隣国へ向かうには、保安部の基地を経由して国境に近い闘技場方面へと向かう。どうやらあの時の主は俺に国王陛下の墓標を見せるために、わざわざ左のルートを選ばれたようだ。


「王子はその所業をエルドラードのせいにして、戦争への機運を高めている……ヴィラン、お前はこれを聞いてもヴォルフ王子に取り入るつもりなのか?」


 王子が言ってることが正しいかも知れない。

 アビーが言ってることが正しいかも知れない。


 そのどちらに於いても、この事件の真相は変わらない。


 全ては女神である主の嫌う人間が、女神に歯向かうよう仕組んだ陰謀のせいだった。



 ウォーウォーオオ、ウォーウォーオオ。

 ア――――――オ!


 皆さん、どうもこんにちは。

 音楽の血が滴る作者のサカイヌツクです。


 あれ? 言ってませんでしたっけ? 私は生まれも育ちも横浜。

 ソウルミューディックの街、横浜ですよ。

 盛大な詭弁を振えば、横浜には至る所にミューディックプレイヤーが置いてあります。

 もちろんトイレにも、乙姫っていうミューディックプレイヤーがですね(略。

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