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BadHabit 5


「ほら、ご所望の肉料理だ。随分と旨そうだな、死刑囚にはもったいないご馳走だ」

「ニードルさん、この料理の名前分かりますか?」

「さぁ? 見たところ豚の卵掛けご飯か?」


「違います、これはかつ丼って言うんです。俺の故郷では必ずと言っていいほど、取り調べの際に出される料理です。犯人の本音を聞き出すためにはやはり、懐の広さを見せないといけませんから。貴方も見習ったらどうです」


「そうか、ならヴィラン、本当のことを話してくれるな?」

 と言い、持ってこられたかつ丼をニードルは口に運ぶ。


 こいつ真正の馬鹿か、俺が要望したかつ丼を自分で食うなんて。

 対象である俺からしたら妬みと殺意しか覚えないぞ。


「すげぇ、本当に美味いぞ」


 やっぱり馬鹿か。


 などと、狂犬と恐れられている保安部をバカ犬に見立てていれば。


 俺は思わぬ人物を視界に入れてしまった。


「何をしている?」

「部長!? 申し訳ありません、これは」

「いいから、さっさとそいつの手錠を解け」

「し、しかし!」

「私の言うことが聞けないのか?」


 と、現れた俺の主に対し、ニードルは肩を震わせている。


「部長の命令でなければ、誰がお前を釈放するものか……見てろよヴィラン、俺は必ず貴様の正体を暴き、そしていつか国切っての出世頭となってやる。覚えておけよ」


 ニードルは手錠を外す最中、俺に自分の志を説いていた。


 先ほどの馬鹿な対応を見ると、一生無理だ。


 とは思えど、口には出せない。


 その後、主と一緒に保安部の基地の最寄り街であるシプスの大衆食堂へと向かい。

 先ほどニードル保安官が平らげたかつ丼を注文した。


「一体どういうからくりですか?」

「勘が鈍いなヨモギダ、その質問はヴォルフ王子が来た時に尋ねるべきだったな」

「……で? 手品のネタはなんです」


「異世界ギオスは剣と魔法の世界だ。この世には誤認識を引き起こす魔法がある。私はそれを使い、王子の時はお前に成りすまし、先ほどは保安部の部長ウィスクに成りすましたんだ」


 だからか。


 そう言えばこの世界には魔法が存在してたんだったな。


 魔法を使える魔術師は極めて稀だし、失念していたよ。


「女神である私の加護を受けているお前も使える、試してみろ」


 主は使い方もわからない魔法を使えと俺に金貨を投げて命令する。

 一応までに感覚に頼ってやってみた。


「おいそこの女!」


 するとニードル保安官が血相を変えて俺達に迫って来る。


「今ここにヴィランとかいう大悪党が来なかったか!?」

「……いえ、ヴィランってどのような方なんですか?」

「身長は一八〇前後、顔つきは極めて狂暴、そんな奴だ」

「ああ、でしたら港に向かっていったと思いますよ」

「奴め、船で他国に亡命する気だな。ご協力感謝する!!」


 ニードル保安官、貴方は俺に大切なものを盗まれたようだ。


 それは――


「ちなみに! 貴方のお名前は何と言うのだ」

「私ですか?」

「っ私は急を要する任務があるので失礼するが、お名前だけでもお聞かせ願いたい!」


 馬鹿が、素人同然の俺が使う魔法ぐらい見抜いて見せろ。


 ニードルが港に向かって駆けていくと、主はにやけ面を隠さない。


「ヨモギダ、お前を男に転生させたのは私の後悔の一つだ」

「からかわないで下さいよ主、にしても魔法って便利ですね」

「そうだな、だが誤認識の魔法は写真とかの機械には通用しないから気を付けろ」


 誤認識の魔法は生物のみに有効で。

 世に広まってない希少な魔法らしい。


「それは何故?」


「少し考えれば判るだろ。悪用される危険性が極めて高いからだ、だから習得できるのは神官ぐらいなもの。ヨモギダちゃんはこの世に生を授かった時から女神である私に仕えているしな」


 意外と神聖な魔法なんだ。と主が言っても、納得できない。


 左目に髑髏の眼帯を付けている主の格好は大悪党のそれだからな。


 かつ丼を吟味した後、主と一緒に闘技場に帰ろうとした。


 ついた帰路の道は整備が滞っていて、人が通らない所には雑草で荒れている。


「闘技場でお前の嫁がでかい顔して奴隷達と盛大な祝賀会を挙げていたぞ」

「俺はシャムから恨まれていたのでしょうか」

「さぁな、恨みもあれば、愛する心もあったんじゃないか」


 道中、主から暴挙とも言えるシャムの羽目外しを耳にする。


 次第に闘技場の街に向かうまでの三叉路に行き当たった。この道を右に行けば闘技場へ、左に向かえば崖に差し掛かる。本来なら左のルートの方が早く、道が綺麗なのだが、崖に掛けられていた鉄橋がつい最近何者かに破壊されたらしい。


 鉄橋を破壊するなんて、爆発物でも使わない限り無理だろう。


「とりあえずこっちから行くか」


 と、主は崖がある左の道に歩を進めた。


 俺は主の背中について行くのだが、何故だろう。


 今、主は満面のにやけ面をしているような気がした。


「ヴィラァアアアアアアアアアアン!!」


 すると後方からニードル保安官が物凄い形相で追いかけてきた。


 彼に気付いた頃合いには主は姿を消していて。


 ため息を吐いた後、追いかけてくるあのバカを巻こうと少し本気を出した。


「ニードルさん、この先は崖しかありませんよ」

「そんなこと百も承知だ!! それよりも待て貴様!!」


 ニードルは必死に俺を追いかけてくる。

 速度は百メートルを十一秒台で駆け抜ける速さだ。


 中々にいい脚を持っていると、内心バカを賛辞していた。


 しかし、崖に差し掛かりその様相は一変する。


「っ」

「おおお!?」


 崖に掛かっていた鉄橋は中腹付近が破裂したかのように断絶していた。


 俺は断絶していた鉄橋の端から三十メートル先の向こう端まで跳躍してみせた。


 あのバカに圧倒的な力の差を誇示したかったんだ。


「……ハっ」


 力を誇示し、崖の向こう側で驚嘆しているバカをここぞとばかりに見下す。


「貴様ぁあああああああああ!! なんだその顔はあああああああああ!!」

「ニードルさん、まさか貴方もこの距離を飛んでみせるおつもりですか?」


 それは止した方がいいでしょう。

 と訴えようと、ニードルは俺に挑発的な笑みを見せられ躍起になっている。


 だからバカだと言うんだ。


「……父よ、母よ、今こそ私にその御力をお貸しくださいッ――!!」


 ――破ぁああああああああああ!!


 という怒号と共にニードル保安官は鉄橋の端から飛ぶ。


「よっと」

「ナッッッ!?」


 随分と無防備だったニードル保安官の頭目がけて石を投げつけた。


 石は見事に命中し、バカは中空で後方回転しながら綺麗に川へと落ちていった。


「……よし」

「ヨモギダ、これはもう言い訳出来ないな」

「居たんですか主、いいんです。俺も吹っ切れましたから。それに」


 ――ヴィラン!! この借りは必ず返すからなぁああ!!


「あのバカはしぶといんです。殺しても死ぬような玉じゃない」

「ヨモギダ、よくやった。見直したぞ」


 何が遭ったか知らないが、主は人間嫌いの女神だ。


 人間が不幸の中でもがき苦しむ様を何より気に入っている。


 俺の主は、そんな悪趣味を抱えたこの世で絶対的な女神だった。


 前述すれば、私は神と肉体関係になったのだ。


 ならば、ならば。


 私も神の一員になった訳か。


「何してるんだ~?」


 額にマジックペンで『ネ申』と書き印、私は今の状況を表した。


「神~? 君は神様になりたいのー?」

「神よ、私はなりたいのではなく、なってしまったのです」


 ――それもこれも、業深き貴方のせいで。

 と言えば、神様は一瞬素っ頓狂な目をして。


 その後転じるように満面の笑みをたたえては、こう言うのだった。


「めんどくせーな~」


 続く。

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