番外編 もしもの選択の先。
休憩室に、萩野はいた。
人懐っこい後輩ではない、お嬢様然とした、淑女の雰囲気だ。
「来たのですね。私のところに」
「あぁ」
立ち上がる萩野、俺の目の前に立ち、寄りかかるように、体を預けた。
「ねぇ、先輩。まだ、デレテくれませんか?」
「デレろと言われて、デレる奴がいるか?」
「そうですね。……先輩。先輩の心を私に、貸してもらっても、良いですか?」
「何だよ、それ」
「今日こうして、ここに来たということは、どんな話題か、多少は予想した上で、来たのですよね」
そうだ。その通りだ。
俺は、そういう話題が来る、そう予想した上で、来たんだ。
そして、ここに来たからには、その答えは、決まっているんだ。
もしも、誰ともそういう関係になるつもりが無いなら、俺は真っ直ぐに帰るべきだ。
「そうだよ。だからさ、言ってくれよ。はっきりと」
「えぇ。はい。女の子から言わせるのですね。先輩は」
そうして、一歩、萩野は離れる。
「好きです。先輩。私は、誰かの心が、欲しいと思っていました。今は、先輩の心が、欲しいです」
「……あぁ」
「あぁ」
「うん?」
「俺は……」
無意識に、胸の前で手を握った。
「お、俺は!」
「はい」
萩野は、待ってくれている。
答えろ、俺。何を、戸惑っているんだ。
「本当に、俺で、良いのか?」
「はい」
「俺に拘る理由なんて、無いだろ」
「それは、失礼です」
「何が?」
「私の好きな人を、勝手に貶さないでもらえますか?」
「えっ?」
「やめてくださいね。ぶっ殺したくなるので」
どうやら、俺に最初から、選択肢は無かった。
否、ここに来た時点で答えは決まっていた。そして、そのことは自分に何度も言い聞かせていた。みっともなく、迷ってしまった。
「あぁ」
目を閉じる。瞼の裏に焼き付いている、朝倉の姿。
俺はまだ、彼女の姿を見れば、心臓が跳ねる。
でも、今は。
萩野を見ると、心が喜んだ。
「君のアプローチ。変化球の癖に剛速球だったな」
「不器用なので」
「むしろ器用だよ」
頭一つ下から見上げる、屈託のない笑顔は。今の俺には眩しい。
いつか、真っ直ぐに見られるように、なるだろうか。
俺が個人的に一番票が入ると思っていた、萩野結愛ルートです。
予想外に朝倉さんが票を集めましたけど。
というわけで、次回は朝倉志保さんとの話です。




