第二十三話 決断を迫られる時。
「全く。親が居たらどうするつもりだったんだ?」
「その時は大人しく帰ってたよ」
家に上げてしまった。
後悔は、あまりしていない。
とりあえずシャワーを浴びることにした。
勉強していたらマスターが賄いと称してステーキを出してくれた。萩野がいたから豪華にしてくれたと見ている。
だからまぁ、別に何か食べるつもりは無い。
「冷蔵庫の中の適当に食って良いぞ」
それだけ告げて風呂場に入った。
お湯が気持ち良い。身体を伝う水と共に疲れが落ちていく気がする。
面倒なので湯船には入らない。さっさと上がる。
「あっ、上がった? 早いね。ちゃんと温まった?」
「おかんかよ」
冷ご飯を炒飯にすることを選んだらしい。
食欲をそそる匂いがするが、そこそこ腹が満たされている俺には効果は無い。
部屋に入る。
狙いはわからんが、あまり良い予感はしないのである。
そう、面倒なことが起きる気がする。
三十分後、部屋の扉がノックされた。
「……なんで当たり前の如く俺の部屋をピンポイントでノックしてんだ」
「九重君の部屋の位置くらい、外から把握済みだよ」
「久々にこえーよって言いたくなることをさらっと言うな」
全く。
「なんでお前はそうなったんだ?」
「知りたいから」
「何を?」
「何が君を志保ちゃんに引き寄せて、君の何が志保ちゃんを引き付けたか」
「朝倉は、美しいから」
思ったよりもあっさり、俺は吐いた。
「そっか」
「……どうでも良いけど、お前、眼鏡外すと子どもっぽい顔になるな」
「それ、よく言われるけどあまり言われたくない言葉」
「そうか。悪い」
子どもっぽい顔、恐らく下着をつけてないからだろ、支えるものを失くした胸部は、思春期の男子を引き付ける暴力的な魅力を放つ。
その二つの矛盾する要素が何とも言えない雰囲気を放つ。
何でこう、萩野といい、久遠といい、朝倉といい、子どもっぽさと大人な部分を併せ持つんだよ。
これが女子高生という生き物なのだろうか。いや、一人中学生混ざってるな。
「志保ちゃん、綺麗だもんね、確かに」
「うん」
「そして、君は、複雑だね」
「どういう意味だ?」
「君、自分のこと、大っ嫌いでしょ」
「よくわかってるな」
「うん、見ていれば、わかる。自分を苦しめる選択ばかりしてるもん」
「意識、していないけど、そう見えたか」
不思議と落ち着く。
久遠と話していると、落ち着いていく自分がいた。
「ねぇ、君は誰と付き合うつもりなの?」
「どういう意味だ?」
「彼女、作らないの?」
「もうこりごりだ」
「そう」
何を思ったのか、久遠は俺が座っているベッドに潜り込んできた。
「お前さ、男の家でこういうことする意味わかってるのか?」
「もちろん」
抵抗する気はありませんと、仰向けで、手も下ろし、無防備な体勢になる。
「本当はわかっているんでしょ? ただ、目を背けてる」
「何を言いたい」
「頭ではわかってるでしょ?」
「具体的に言え」
イラついたような声が出てしまうのも、無理はない筈だ。
でも、久遠は答えず、ただ微笑だけを返した。
「……俺はソファーで寝るから、好きに使え」
部屋を出た。
別に紳士的とかそういうわけでもなく。ただ、嫌だった。
俺を相手に気を許されるのが、嫌だった。
久遠は、真っ直ぐ過ぎる。萩野みたいに、誤魔化して欲しかった。変化球の方が、心地良いのだ。
なかなか寝付けなくて。
日付が変わってそれからも、ただ黙々と時計を眺めて。
それがしばらく、気がつけば朝だった。少しは、寝れたみたいだ。
「目、覚めたんだ。朝ご飯食べる?」
身体を起こすと、当たり前のように久遠が朝食を作っていた。
「あぁ、もらう」
「コーヒーはブラック?」
「あぁ」
「デザートはヨーグルト?」
「助かる」
「あはは。九重君とこんな会話ができる日が来るなんてね」
「そうか」
頭がまともに働かなくて、適当な返答になったと思うが、久遠はご満悦だった。
トーストとベーコンエッグ。コーヒーとヨーグルトという、なんとも洋風で模範的な朝食だった。
顔を洗い、口を濯ぎ、文明社会に生きるための多少の身支度を整えて席に着いた。
無難な味付け、という感想を抱きながら食事を終える。
「九重君」
「なんだ?」
「私たちから、放課後の時間、頂戴というお願い」
「どういう意味だ?」
「私に会いたかったら放課後教室に残って。萩野ちゃんに会いたかったら、ミート&ベジタブルへ。志保ちゃんに会いたかったら、校門の前で待ってて」
「何だそりゃ」
「誰も選びたくなかったら、帰って良いよ」
「だから、どういう……」
「九重君、変わったから。今の自分と、よく話し合ってね」
いつの間にか食べ終えた久遠は、席を立つ。
そのまま、洗面所に入ってしばらく。
「それじゃあ、また学校で」
そう告げて、家から出た。
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