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十五話 委員長のお仕事。

 林間学校がもうすぐと聞かされ、流石に我関せずとは言ってはいられまい。

 それは単純に、個人の欲と集団の秩序を天秤にかければ、それはもはや人としてどうなんだという域になる。

 男子のことを考えるならば、男子も参加せねばなるまいて。


「うんうん。なるほどねぇ。協力してくれるのは助かるよ。理由はどうでも良いや。班決めとか、色々難航していたのは事実だし」


 久遠は頬杖をついてペンを器用に回す。

 林間学校の班が決まったのは先程の担任が受け持つ英語の授業でのこと。

 男女それぞれ三人ずつ、つまり一班六人編成。先生方もまだ人間関係を把握しきれていない中で組ませるのは酷だろうに、何故この時期なのか。

 だから生徒間で勝手に組ませる案を俺は出し、押し通した。

 班が決まれば、次はそれぞれの班へ色々割り振る作業が始まる。それを俺達は今初期案を考えている。


「泊まる場所がテントじゃなくてロッジなのは驚いたが、まぁ、虫に刺されるリスクが減るのはありがたいな」


 普通課四クラス、進学課二クラス、国際コミュニケーション科一クラス。

 それぞれのクラスに分けられたロッジ、まぁ、山小屋のようなものだ。ログハウスの方がイメージしやすいかもしれない。それを二班で一つ使うことになる。流石に泊まる場所は男女別だから、妥当な所だろう。


「このロッジにこの班はやめとけ、確実に男女で行き来する」

「そうなの?」

「ウェーイ系だろこいつら」

「ウェーイって死語じゃない? 今は陽キャとか言うと思うけど」

「そうか」


 そこはどうでも良いのだが。


「そっか、そこら辺も考えなきゃいけないのか。とすると」

「俺の班とか丁度良いだろ。隅っこにいる奴らの寄せ集めだ」

「ふーん。……もしかして、急に協力を申し出て最初の一言、好きな奴ら同志で組ませとけってそういう意図?」


「あぁ。似たような奴らを集めりゃ行動を予測しやすいからな。というわけで、ウェーイ達は先生の泊るロッジの隣にしておけばいい。先生をここに泊まらせれば、女子の所に行こうとすれば確実に通ることになるからな。森の方に入って勝手に遭難する分には知らん」


「……うん、そうだね」


 苦笑いを浮かべる久遠、急に出てきた奴の意見をそこまでホイホイ聞いて良いものなのか、提案しながら思っていたが、特に気にならないらしい。


「けど、意外だね」

「何がだ?」

「九重君に対する私のイメージ、別に男子が女子の所に夜中逢引きしようとも、勝手に先生に見つかって勝

手に叱られてろ、とか言いそうなものだけど」

「お前は夜中、不純異性交遊を行う男女の漏れ出る声やら音やらを聞きながら夜を過ごしたいのか? 俺は嫌だぞ」

「あぁ、まぁ、確かに嫌だね」


「ついでに言えば、バレたとして、他の班であるところの俺達まで、連帯責任的な感じで何かしらをやらされる、連帯責任とか旧時代的なことを言い出さないまでも、何かしらの処罰を下されている奴らを見ながら二日目を過ごすとか嫌だろ。雰囲気が地獄だ」


「多分、前者より後者がメイン、かな」

「正解」


 実際逢引きする分には見つからなければ、あと静かにしていてくれれば一向にかまわないのが本音だ。

 ただ、見つかるリスクを背負うくらいなら、やらないで欲しいと思うだけだ。

 やりやすくしてしまえばその分油断が生じる。なら難しくしておいて、慎重になってもらい、果てには断念してもらうのが最上だ。

 まぁ、こいつらがやりかねないというのは、単なる俺の偏見だが。

 もしかしたら案外うちの隅っこ寄せ集めの班が言い出す可能性も、無きにしも非ずというものだ。人は見かけによらないし。


「はぁ」

「どうかした?」

「普段より頭を使って疲れただけだ」


 人と深く関わらない。

 人に頼らない。

 誰も好きにならない。

 頼らないで生きるのが、一番難しい。結果的に、どこかで頼っていることになる。

 まだ、深く関わっているつもりは無いし、誰も好きでもない。


「ありがとね」


 不意に聞こえた言葉に顔を上げた。


「仕事をしただけだ。礼を言われるようなことじゃない」


 慌ててそう答える。


「でも、君が口出さなきゃ、今日も班編成で悩んでたよ」

「そんなことは無い。どうせそれなりにやっていた。俺は少しそれを早めただけだ。結果的に」

「お手柄じゃん。手柄は素直に誇ろうよ。自分の手柄を主張するのは、社会に出ても重要だよ」

「高校生が、伝聞でしか知らない社会を語るんじゃありません」

「はいはい照れ隠し照れ隠し」


 上機嫌な久遠。眼鏡の位置を直し、ペンを持ち直す。恐らく今の話の内容をまとめるのだろう。


「あとは何を決めるんだ?」

「うーん。レクリエーションは決めたし。あっ、でも折角だから見てもらって良い?」

「あぁ」


 うへぇ、肝試しか。

 あとはラジオ体操。キャンプファイヤーでの一発芸大会、これはやりたい奴が勝手にやるだろう。


「良いと思う。というか、これ他のクラスのクラス委員やらと話し合ったんだろ。実行委員とかいると思ったんだが」

「ん? 今回のはクラス委員がそのまま実行委員だから」

「なるほどな、面倒な。知っていたのか?」

「当然」

「恩返しとか言うなら、面倒ごとに引っ張り込むな」

「そうだね、おかしいね」


 素直な答えが返ってくるとは思わなかった、拍子抜けしてしまう。


「ところで九重君。そろそろ時間は良いのかい?」

「あぁ……何でお前、俺のシフトを把握している」

「企業秘密です。そういえば、シャンプー変えたんだ」

「お前怖いよ!」




 「やはは。奇遇だね史郎、今帰り?」


 昇降口でばったりと会った人影に足を止める。

 胸がざわついて、少しだけ高鳴った。


「あぁ。そうだが」

「そっ。じゃあ、一緒に帰ろ」

「バイトだ」

「うん。電車に乗って、降りて、駅から出るまでは一緒に帰れるね」

「そうだな」

「やはは。じゃあ決定」


 歩き出して少しして、自分が朝倉のペースに合わせていることに気づいた。

 ペースを上げようと思ったが、やめた。意味が無い。ただ自分の感情に乗せられてるだけだ。それでは。


「なぁ」

「ん?」

「お前は、どうなりたいんだよ。俺と」

「んー。わかんないや。だからこうして、一緒にいるんだよ。今日だって、たまたまじゃなくて、待ってたんだから」


 心をくすぐるようなことを言ってくる、きっとわかっている。

 朝倉と過ごしてきた時間を否定したいわけじゃない。その時間だって、今の俺を構成している。これからの俺に何かを与えてくれる。


「史郎、なんか少し素直になった?」

「知らん」

「萩野ちゃんとお茶するの楽しい?」

「知らん」

「久遠ちゃんと一緒に委員長するの楽しい?」

「言うほど仕事してない」

「やはは」


 朝倉には、夕方がよく似合う。

 跳ねるようにぴょんぴょんと、数歩先を歩いて、くるっと振り返る。

 髪が揺れる、笑顔が弾ける。

 



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