魔法使い
洞窟はどこも兵士が沢山いた。
そもそもここは、誰にも見つからない秘境だったはずだ。それがなぜバレたのか。兵隊を次々と壊滅させていく。そしてその度に生き残りは逃げていく。
「くそ!魔王め!」
「……」
兵士の槍は震えている。
「やめておけ。貴様では俺に勝てない」
その時、頭上で大きな爆音がした。それと同時に上から岩が落ちてくる。私は反射的にその兵士を押し出す。兵士は少し飛ばされた後、地面についたことを確認した直後に岩が道を塞いだ。成る程、勝てないと判断したのであれば、仲間を守るために足止めすることを選んだか。
「ああ、道が!?」
遅れてきた兵士が私の後ろから声を上げる。兵士は剣を構えた。
「やめておけ」
「……」
「それに、君の上司は君を見捨てたのだ。」
「……」
「さ、ここで戦うのはナンセンスだ。そうだな……ここで私の話相手になってくれ。その暁にはこんな岩なんぞぶっ飛ばしてやる」
「だが、貴様は私の仲間を殺したじゃないか!」
「正当な防衛だ。私もこうするしかなかった」
怒りが私に向く。兵士は剣をしまい、武装を解く。
「つけたままだと、暴発しちゃうのよね」
兵士は上半身だけ武装を取ると、身軽な女騎士となった。黄金の髪に青い瞳。唇は少し膨らんでいるが、いわゆるチャームポイントというべきか。女騎士は細い腕を前に出すと、詠唱を始める。
『大いなる雷よ、大気の精霊と共に闇を打ち払わん』
「雷閃!」
雷の閃光。それが鋭く私に襲いかかる。私は先程拝借した剣を地面に刺し、その場を去る。剣に雷が引き寄せられ、地面に流れたが、一撃で剣は壊れた。私は岩を蹴り、飛び上がり、女に近づく。彼女は冷静に体を運び、私から距離を取る。そして今度は雷の球体を私の周りに漂わせた。私はつま先をトンと地面につける。
「もらった!連鎖雷閃!」
雷の球体に向かって閃光を放つと、それが連鎖し、全ての球から雷が私に向かって襲う。それは衝突すると煙のを発生させる。その煙の中、私は息を潜めたが、上から魔力を感知する。今まで彼女が行なってきたのは、初級魔法であったが、これは違う。雷の衝撃は一度煙を晴らす。そして彼女は攻撃を止めない。再びできた煙の中に自らつっこみ、そして雷を纏った剣で私に斬りかかろうとした。タイミングや攻撃の連鎖、そして全弾食らっていた前提ならば、彼女の攻撃は理にかなっている。しかし、振りかぶった剣は私の目の前の障壁で止まる。少し驚いたようだが、それでも砕こうと力を入れている。ジリジリと剣が入ってくる。私はその白刃を持つと、そこに溜まった雷を吸収した。
「な……」
声を上げて彼女は驚く。
「戦う手本を見せてやろう」
私はそう言うと、障壁を勢いよく飛ばした。相手はバランスを崩す。私は吸収した雷を彼女に向けて飛ばす。彼女は先程、私がやったように剣を地面に突き刺し、その場を回避した。剣は一瞬で黒く焼け、ボロボロと地面に落ちる。私は彼女が立ち上がる前に、火球を放つ。火球を二つ放ち、相手の動きを封じる。彼女はキョロキョロと辺りを見回す。
私は火球を放とうとしたが、
「閃光!」
という声とともに、彼女は何かに強い光をあてる。それは彼女が脱いだ鎧。強い光はさらに強くなり、辺りを包む。普通の人間ならば、これで怯むだろう。ただ魔法使いは目に見えるものだけを信じてはいけない。目に見えないものこそ本質なのだ。火球を放つ。そして光が開けると、彼女は煙を体から放ちながら倒れていた。
彼女に近づくとかろうじて息はあるようだ。それにしても、このように力がある彼女が一般兵なのか。私は彼女に回復魔法を使う。並みの魔法使いならば、先程のコンボで致命傷を負うだろう。もしくは、彼女の十八番だったのかもしれない。ただ今回は相手が悪かった。ただそれだけの不幸だ。彼女は起き上がる。非常に不思議そうな顔で私に尋ねた。
「……あんた、何したの?」
「おい、冗談だろ?あんだけの魔力持ってて回復魔法を知らないのか?」
「……魔法で回復……聞いたことないわ」
「お前の国には僧侶はいないのか?」
「僧侶……いないわ」
話がどうも噛み合わない。魔法使いには代々覚えるべき魔法がある。各属性の初級魔法を使えなければ、そいつは魔法使いではない。その中に回復魔法もある。初級は誰でも唱えられ、大怪我になると僧侶の大回復魔法に頼るしかない。回復魔法が使えない、はまだ彼女の師匠のせいにできるが、回復魔法を知らない、ことは理解できない。
「待って、回復魔法……禁呪であったかも」
「はあ?回復魔法が禁呪?それこそあり得ん」
「……ああ、そうね。魔王に助けられたのは釈然としないけど、一つ教えてあげる」
彼女は薄く笑った。
「あなたは、最低最悪の魔王マラスト。ここで1000年もの間、眠っていたのよ?」
タイトルと主人公の名前が2話目で登場って遅くね……?