柩の外は青い空
何年も前に書いた、自分の原典みたいな作品です。
気に入って頂ければ幸せです。
☆
柩の中で眠り、地下墓所で目覚めるのは、人が思うほど悪いものでもない。
柩の内側は真紅のビロード製でふかふかだったし。
居心地よく改装されて暖炉まで置かれた地下墓所の温かな暗闇は、それだけで心安まる穏やかな目覚めを約束してくれた。
だからその日、目を覚まして柩の蓋を開けた瞬間、目に飛び込んできた眩しいばかりの青空には、体が一気に灰滅するんじゃないかと思うほどの驚きを覚えたものだった。
びっくりして振り向くと、柩の横で一人の青年がお腹を抱えて笑っていた。
村の教会に新しく派遣されてきた神父だった。
「教会の備品を虫干ししているんだ。いい機会だから、ついでにと思ってね」
私は備品じゃない、とまるで小娘のように声を上げたのを憶えている。
もっとも必要以上に陽光を避けていた当時の私は、そのせいでろくに成長もしておらず、見た目は文字通り子供の姿を保っていたのだけれど。
「たまにはいいじゃないか、青空の下で目を覚ますっていうのも」
確かにその通りだし、何より目覚めた時に誰かが――かつての母のように――笑顔で迎えてくれたのが嬉しかった、なんて、でもその時はなぜだか悔しくてとても口には出せなかった。
この風変わりな神父はその後、過度に私と関わった罪で異端審問に付されて火あぶりとなり、以来私が青空の下で目を覚ますこともなくなった。
あれからどれほどの歳月が過ぎ去っただろう。
けれど今でも、目を覚まして柩の蓋を開ける時は少しだけ思ってみたりする。
この柩の外には青空が広がっていて。
その横ではあの風変わりな神父が笑っている──
それは夢──それが夢。
数百年を経てもなお変わらない。
恥ずかしいほどささやかな。
まったくもって乙女のような。
でもだからこそとてもとても大切な、たった一つの……




