2話 6月12日水曜日 朝
ミカンせいのターン
その日もまた唐突に訪れた。
不思議な夢。でも、いつだって夢が覚めるまではそこが夢の世界だということも知ることはない。
学校でみんなと授業を受けているような夢、大空を羽ばたいているような夢、殺人鬼に追いかけ続けられている夢。
夢の世界は様々だけれども、ひとつだけ共通点があった。それは、いつでも自分が主人公であることだ。
「朝だよ、起きなさい」
母の呼び声とともに、朝だと実感する。
いつの頃だかわからないが、おそらくあの時期からその日見た夢をあるノートに綴っている。
「今日の夢は冒険モノだったな。パーティーは俺と橋本と姫野さんだったな。ずっとスライムばっか倒しててつまらなかったけど」
これが毎日の日課だ。朝起きて、通称夢日記、を書く、それから俺の1日は始まる。
「気づいたらもうこのノートも10冊目か」
夢を覚えていない、もしくは夢を複数見た場合などで進捗具合が変わってくるので、自分自身何日分の夢が書かれているのかわからない。
いつしか役に立つ、そう思ってこのノートを綴っている。
朝の支度を終え、いつもの通学路を通り、学校へと向かっていた。
ジリジリと照りつける太陽、初夏だとは思えないほど暑い。
「お、祐じゃん。奇遇だね」
「おはよう、翔也。今日も暑いね」
幼稚園からの、いわゆる腐れ縁の翔也と一緒に登校するのは、たまにある日課だ。
残念なことに今年はクラスが別々だったので、会話する機会はこの朝の時間だけとなってしまっていた。
「そういえばさ、まだ書いてるの?夢ノートだっけ」
「まあ、一応。その日見た夢を一通りはね。大雑把過ぎてたまに何を書いてるのかわからなくなっちゃうこともあるけど」
翔也には夢ノートについては知られている。小六の夏休み、翔也が家に遊びに来た時にあのノートを見られていた。その時には笑われると思っていたが、翔也は「面白いじゃん」と言って笑うことはなかった。
今橋本なんかにこんなことしてるってバレた時にはめちゃくちゃ笑われるだろう。
絶対にあいつにはバレないようにしようと改めて決心したのだった。
翔也といろいろな話をした。昨日のバラエティ面白かったよなとか、もうすぐ始まる期末テストの勉強どのくらいしてるかとか、通学路にある公園での思い出など。話そうと思えば、いつまででも話せると思うが、そんな時間はあっという間に過ぎ、気がついたら学校についていた。
「じゃあ、またそのうちに」
「じゃあね」
別れの挨拶をし、教室へと向かう。ガヤガヤとした廊下、朝練を終えて片付けをしている野球部員、それらを脇目に教室へと向かった。
教室に入ると静かだった。誰もいない。不思議に思ったが、黒板に大きく、「今日は体育館で朝会、遅れないように」と書いてあった。
完全に朝会のことを忘れていた僕は急いで体育館へと向かった。
体育館へ入るとクラスの列がすでにできていた。いない人は僕を含めてあと6、7人といったところだった。
自分の場所に慌てて座った時に後ろの日比野が声をかけてきた。
「長谷が遅れてくるなんて珍しいじゃん。なんかあったの」
日比野が少しにやけながら僕に質問してくる。ちょっといじりがいがありそうだなと表情に出しているあたりが、少し苦手である。
「普通に朝会があることを忘れてたんだよ」
面白くもないような答えを返す。
日比野はちぇっと、上手くいじれなかったことを悔しがっているようだ。
僕は少し嬉しく思った。
「起立。気をつけ。今から朝会を始めます。礼」
お決まりのフレーズとともに朝会が始まる。
校長の挨拶、生徒指導からのお叱り、校歌斉唱などいつも通りに進んでいくに違いない。何事も問題なく朝会が終わり、授業が始まる。
校長の挨拶が終わり、校歌斉唱をしている時に、不思議な感覚に襲われた。
--あれ、世界の一部が侵食されてく。
佑音の目の前が真っ暗になり、その場に倒れた。
誰かが呼びかけてくれたような気がしたけど、誰の声なのかは分からなかった。
いいパスだと思う。
次はひ魔人さんのターン