もう動かない電子ピアノの夢を見て
まだお母さんがこの家に居た頃に
まだ俺が小学生だった頃に
ピアノの練習をして
お母さんから
上手くなったねと
褒められたあの頃が
とても幸せでした
いつしか電子ピアノは音が出なくなり
いつしかお母さんはこの家を出ました
思うのです
もういくらピアノの練習をしても
悲しいだけなのに
音の出ない電子ピアノの前に座るのです
メロディーが消え
思い出が色あせ
涙がたまらなくあふれるのです
電子ピアノは何も言いません
俺はひとりぼっちの夜を不安ながらに眠っていました
それからお母さんはひとりで
生きていました
それでもお母さんに会いたい
この思いに色あせた思い出と音のないメロディーが
空白の日々に絵の具で色をつけるように
もう動かない電子ピアノが
再び動き始めました
もう俺はこの世界に居ません
もう誰もその電子ピアノに触りません
お母さんが泣いていました
俺も泣いていました
色あせた日々よ
もう動かない電子ピアノの夢を見て
時がゆっくりとまわる
色あせた思い出ともう動かない電子ピアノの夢を見て