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葉を見ず、花を見ず  作者: 喜世
第6章 真実
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【6-7】水火の争い

 久田さんの帰社を待つ間社長はずっと事務室にいた。

 経理部部長、総務部部長が辞表を出しに来た。

 山川課長から、社長の傍に居るようにと命じられ、俺もその場に立ち会った。


「父の代より今までご苦労様でした」


 社長が労うと、蚊の鳴くような声で『申し訳ありませんでした』と二人は頭を下げた。

 申し訳ないと思うなら、なんで久田さんの仲間になったんだろう。


 そして他にも社員数人が後を追うように辞表を出し、LOTUSを去った。


「今までご苦労様でした……」


 そう声を掛けたあと、社長はぼんやりと辞表を眺めている。


「……お茶、淹れましょうか?」


 虚な眼差しのまま首を横に振った。

 精神的にかなりダメージ喰らってるのが目に見える。


「……傍にいて、どこにも行かないで」


 山川課長の判断は的確だった。


 でも居るだけでいいんだろうか? でもなんて声を掛けるべきかわからない。

 ただ隣で座ってるだけしか出来ないのがもどかしい。


 小池部長が社長を慰めに来た。


「健一、そう落ち込むな。辞めた数、あの時より少ないだろ?

ここに居るのは殆どがお前を社長と認めて残った連中だ。信じてやれ」


「……はい」


 少し顔色が良くなった気がする。


「……社長、何か召し上がりますか?」


 社長はまた首を横に振った。


「……食欲ない。いい」


 すぐさま小池部長に怒られた。


「何言ってんだ。ダメだ。腹が減っては何とやらだ。松田! 寿司とれ。人数分だ!」


 寿司人数分って…… 経費で? それとも?


「おじさんが奢ってやる」


 すごい太っ腹! 

いけない、こんなことしてたら。出前の手配は下っ端の俺がやることだ。


「先輩、俺がやります」


「いい。俺がやる。お前は社長の傍にいろ。社長はお前に傍にいて欲しいんだから。

万年最年少の先輩に任せとけ」


「すみません。ありがとうございます……」


 どんよりとしていた空気が漂っていた事務室が、急に騒がしくなった。


「えー。弁当あるし」

「弁当あるやつは晩飯にしろ! 今日は久田のせいで何時に終わるかわからんぞ!」

「わさび抜いてください!」

「サビ抜きがいい人他にいますか?」


 社長の顔も大分穏やかになってきた。


「お寿司、召し上がりますか?」


「……うん」


 やっと首を縦に振ってくれた。一安心だ。


「みんなで食べましょう」


-----------------------------------------------------------------------------------------

 小池部長の奢りで松田先輩が手配してくれたお寿司で、みんなで少し遅めのランチタイム。


「社長は、回転寿司行かれたことありますか?」


 誰かがそう聞いた。

 社長が行くのは高級寿司屋って、イメージがあるのかもしれない。


「もちろん。ていうか、行くのほとんど回転寿司だよ」


「へー。意外」


 やっぱりそうだ。

 まだまだ社長と社員に距離がある……


「商談とかでは行かれるんですか?」


「誘われたらね。俺は絶対自分じゃ選ばない」


 そういえば寿司屋の予約指示をされたことはない。

 一回だけ行った回らない寿司屋は、沙田先生にご馳走様してもらった時だ。


「なんでです?」


「若造が寿司屋って、生意気って思われそうだもん。怖いじゃん」


 どっと笑いが起きる。

 発言が全然社長らしくない。でもそこが社長だ。


「ネタは何がお好きですか?」


 また誰かが聞いた。


「タコかな」


「お前んとこ元々大阪のせいか、たこ焼き大好きだもんな」


「社長はたこ焼き作られるんです?」


「得意料理。そうだ、落ち着いたら、社内でタコパしようか」


 自分から社員を誘った!


「是非! やりましょう!」


 社員も乗り気だ。


 社長と社員が会社で楽しげに言葉を交わす。

 俺の夢見た光景が、今目の前で現実になっている。

 嬉しいはずなのに少し寂しい気がするのは、なぜだろう。


 俺一人で実現出来なかったから?

 俺はここの本当の社員じゃないから?

 もうすぐ俺はここから出ていくから?


 結子さんに声をかけられた。


「……どうした?」


「……LOTUSって、いいなって」


「……もっと良くしていかないとね、これから」


 その場に俺は居られない。

 いや、もう俺は要らない。


「……そうですね」




 食後のお茶をしていると、社長の携帯に電話が掛かってきた。


「はい。蓮見です。……え?」


 突然顔が険しくなった。

 一方的な電話なんだろうか、社長は聞くだけ。全く受け答えしない。

 しばらくして電話が終わると、突然席を立った。


「すみませんが、部屋に籠ります。しばらく入室禁止でお願いします」


 秘書として付いていこうとしたら、クールモードで拒まれた。


「来るな。事務室にいろ」


 手伝いどころか、同じ部屋にいることすら断られる。

 さっき、『傍にいて、どこにも行かないで』って言ったのに。


 でも仕方がない。社長命令は絶対だから。


「……かしこまりました」


 神妙に命令に従うと、追加で要求された。


「絶対に一人で行動するな。いいな?」


 何が起きたんだろう。


-----------------------------------------------------------------------------------------

 とうとう夕方になっても、久田さんは姿を見せず仕舞い。

 定時少し前、社長から緊急招集が掛けられ事務室にまた全員が集合した。


 社長の口から、恐ろしいことが告げられた。


「久田から脅迫電話とメールが来ました。

標的は、私、姉、叔父、母、甥、姪、大阪の親類。

そして、梅村です」


 俺も?

 だから、社長は俺に一人で行動するなって……


 社内がざわついてる。


「なんで梅村が?」

「久田も相当だな」

「ヘブンスへの恨みじゃないか?」

「理不尽すぎるだろ、梅村にとっちゃ」


 散々迷惑掛けといて、また迷惑をかけた。

 社長の傍に居るだけで迷惑。存在自体が迷惑。


 そうだ。


 俺も今日付で出て行こうか。

 LOTUSもヘブンスも辞めて、社長の前から姿を消そうか。

 いや、いっそ……


『翔太はん。あとや。社長さんの話聞かな』


 そうだった。


「この脅迫を持って久田を今日付で解雇し、警察に通報しました」


 社長がついに手を下した。


「母はしばらく叔父の清水社長のところへ行ってもらいます。姉と甥姪は義兄に依頼しました。大阪も警備を強化してもらいます。また、万が一を考え、白石学園にも事情を話し警戒を促しました」


 全部一人でやったんだ……

 俺はなんの役にも立たない。


「そして梅村ですが、ヘブンスさんと協議の結果、弊社で引き続きの勤務となりました」


 LOTUSにもヘブンスにも俺は厄介なお荷物。

 邪魔者だ。


「今日からしばらくビジネスホテルで生活してもらい、出退勤時にボディーガードをつけます。

こちらの費用と管理は全てヘブンスさん持ちです」


 無駄な俺に、無駄な経費を使うべきじゃない。


「社長」


 手を挙げ、言葉を遮った。


「なんだ?」


「ホテルもボディーガードも要りません。

私を久田さんを誘き寄せる囮に使ってください。

私だけ野放しにしておけば、警察も簡単に久田さんを捕まえられます」


 社長は静かに俺に命じた。


「梅村、これはヘブンス社社長命令だ。必ず従うように」


 最強の社長命令だ。これを行使されたら、もう刃向かえない。


「……かしこまりました」


-----------------------------------------------------------------------------------------

「ところで健一。お前さんはどうするんだ?

当主のお前さんが一番危ないだろう?」


 浅井部長の考えは尤もだ。


「マンションは高セキュリティなので大丈夫です。

通勤退勤時のボディーガードを、知り合いの会社に依頼しました。今日から来てもらいます。こちらは私費で賄います」


 すぐさま山川課長が声をあげた。


「社長。社の経費を使ってください」


「いえ。これは我が家の問題。社の経費はこの会社の警備の強化に使います。

今日付で違う警備会社に契約を更新し、明日以降、防犯カメラを増設します。

詳細は後ほど、経理部、総務部に指示します」


 それから、諸々連絡事項や指示が続いた後、最後に社長が指示をした。


「定時後で申し訳ありませんが、人事会議を行います。各部長、課長、総務部は小宮さん、会議室にお願いします」


 早速新体制の準備に入るんだ。

 これで、誰にも邪魔されない社長の新しい時代が来る。

 俺はそこには不要だ。

 邪魔なんだ。


 デスクで仕事を始めたけど、鬱々としてたのが顔に出てたらしい。


「ネガティブ翔太くん、チョコでも食べなさい」


 松田先輩が、俺の口の中にチョコレートを押し込んだ。


「社用スマホ少し使うぞ。GPS入れるからな」


 手際良くGPSを入れる先輩。これで行動を監視される……


「もう少ししたら、ボディーガードさんがくる。

一緒に家に帰って、荷造りしたら、ホテルに行くんだ。いいな?」


 事細かに先輩から注意事項、禁止事項を指示された。

 あれはダメ、これはダメ……


 明日から先の見えない憂鬱な日々が始まる。

 顔に出てたらしい。


「……梅村、警視庁は無能じゃ無い。久田はすぐ捕まる。そう暗い顔するな、な?」


「はい……」




 俺を迎えに来たボディーガードさんは四十代の男性だった。


『……好みやない』


 がっかりした梅吉の一言に、俺は吹き出しそうになった。


『やっとわろた。……せやけど、ほんまは、男前なぼでぃーがーどさんがよかったわ』


 確かにイケメンじゃない。

 そして、失礼だけどボディーガードっぽくない。


 ……でもこれは偏見だった。


 ボディーガードさんは、警護に関する資格をいっぱい持ってるすごい人だった。

 明日からしばらくお世話になる人。

 俺の安全を守ってくれる人。


 まずはこの人の迷惑にならないように、決まりを守って行動していこう。


-----------------------------------------------------------------------------------------

 次の日、朝礼で新体制の人事が発表された。


 経理部は山川課長が部長に昇進。

 総務部は幹部がごっそり抜けたせいで、小宮さんが部長に大出世。

 赤城さんも課長になった。


 二人が社の初女性管理職らしい。これで社長の目標が一つ実現した。


 うちの部署は、小池部長が専務兼任になった。

 ……かなり嫌がってたけど。


 それに伴って皆さん少しずつ昇進して、松田先輩は主任になった。


「……職場でも家でも頭が上がらない」


「頑張ってください! 松田主任!」


 すぐさま思いっきりくすぐられた。


「やめて!」


「『先輩』だ。主任って言ったらこうだぞ!」


「わかりましたから、やめて!」




 その日の午後、虚偽する必要がなくなった原の履歴書が正しいものに戻った。

 俺の後輩に戻った。


「皆様、原将輝、改めて精進いたしますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


 真面目に挨拶する原を、驚いた様子で見る社員が結構な数いた。


 俺の可愛い後輩は、本当はこういうやつだ!

 チャラくて調子のいい男じゃない!

 真面目で人懐っこくて努力家だ!


「梅村先輩!」


 抱きついてきた原を抱きしめ返す。


「原!」


 やっと「先輩」って会社で呼んで貰える。

 やっと「原」って呼べる。

 落ち着いたら、堂々と飲みにも行ける!


 浮かれすぎてたのか、松田先輩に突かれた。


「……お二人さん、嬉しいのはわかるが、あんまりベタベタするな。

二名ほどヤキモチ妬いてらっしゃる」


「え?」

「え?」


 一人はわかる。旦那さんに引っ張られてる社長。そっぽを向いてる。

あれはほっとけばいい。いつもの事だ。


 もう一人は誰だ?


「……井川さんが拗ねてる」


 すごく不機嫌そう。

 原はすぐに俺から離れて、井川さんのもとに向かった。


 その様子を笑って見てた松田先輩が、咳払いすると俺に向かって言った。


「……やっぱり俺は、お前に本当の後輩になってもらいたい」


 松田先輩の真っ直ぐな視線を受け止めきれず俯いた。


-----------------------------------------------------------------------------------------

 社長室で仕事中、突然不思議な質問が投げ掛けられた。


「翔太。警察官に佐藤さんって知り合いいる?」


「すみません、下の名前は何でしょうか? 佐藤だけですと心当たりが数人……」


 高校から大学まで部活もずっと一緒で仲が良い友達が一人。

 大学の時お世話になった先輩が一人。

 面倒をよく見てた後輩が一人。


 そもそも佐藤は日本でかなり多い名前だ。


「……あ。ごめん、書いてない。年齢も。これじゃわかんないよね」


「その『佐藤さん』が何か?」


「川地先輩が、翔太の聞き取りにって、掛け合って翔太の知り合いを手配してくれたらしい。

明後日来るから、よろしくって」


「かしこまりました」


 先輩か後輩か友達か、誰だろう。


 梅吉が呑気に聞いてきた。


『翔太はん、三人の佐藤さんで誰が一番男前だすか?』


 梅吉はあの日から旦那さんを吹っ切ろうとしている。一度も会っていない。

 でも夢には毎晩優しい旦那さんが出てくる。

 辛いはずなのに、俺にはそんな様子は見せない。


(男前? 友達の『佐藤』だね。刑事やってる。

ポスターに単独で載ったことあるから、警視庁も認めたイケメン。

俺の記憶共有するか、どこかに写真があるけど……)


『ええです。楽しみに取っておきますよって!』


 梅吉、ウキウキしてるけど…… あとの二人の『佐藤』はそんなでもない。

でもその『佐藤』友達だって、俺はイケメンだと思ってるけど、梅吉のタイプかは怪しい。

 どの『佐藤』が来るんだろう。




 俺も梅吉も密かに楽しみにしていたその日。

やってきたのは『友達の佐藤』だった。


「久しぶり、翔太」


「久しぶり、与晴(ともはる)


 梅吉がため息混じりにつぶやいた。


『……これはあかん』


(あ、タイプじゃなかった?)


 警察官にピッタリの男らしい凛々しい顔。

 目力が強いというか眼光が鋭いというか……

 俺はイケメンだと思うけど、梅吉の好みとは違っ


『……ここまでの男前やなんて、思わへんかったさかい』


 恥ずかしいのか、照れ臭そうにボソボソっと言ったその言葉に声を上げそうになった。


(は!?)


 ……俺が与晴のことイケメンだと自然に思ってたのは、前世からの俺のタイプだったからか!?


 社長の声で我に返った。


「え!? 佐藤さん、翔太と同い年なの!? てっきり俺と同じくらいかと。

あ、ごめんなさい……」


 与晴はこういうのに昔から慣れている。

見た目もそうだけど、言動が落ち着いていてるから、年上に見られる。

 ……特に俺と一緒にいると。


「梅村は可愛い顔なんで若く見えますから。

普段、女性の上司と仕事してるんですが、

この見た目のせいで、私の方が年上で上司だってよく勘違いされます」


 余裕で微笑む与晴にちょっとイラッとした。


「……可愛いって言うなよ」


「……相変わらずだね」


 与晴の笑顔に胸がキュンとなった。

 俺じゃない。梅吉だ。


『目があかん……』


 旦那さんに対するほどではない。でも、間違いなく永之助さん以上にドキドキ、キュンキュンしている。

 与晴と目が合う度に。


 せっかく川地さんが俺が緊張しないようにって手を回して与晴を手配してくれたのに、

梅吉のせいでなんだか疲れた……


-----------------------------------------------------------------------------------------

 与晴の仕事は、俺をホテルまで送るところまでらしい。


『よっしゃ!』


 梅吉、喜びすぎだ。


「今日まだ仕事ある?」


「ホテルの部屋まで護衛で終わり」


「じゃあさ、晩飯一緒にどう?」


 せっかくだ。もう少し二人で話をしたい。


「いいね」


 梅吉が俺以上にウキウキしていた。




 お酒を飲みながら、いろいろ話す。

 やっぱり気の置けない友達との時間は嬉しい。

 互いの仕事の話になった。


「すごく大事にされてるね、社長さんに」


「うん。まあ……」


 半分以上が前世からの所有欲、執着心だけどね。


「職場の皆さん良い人だし。雰囲気いいし」


「でも出向だから、この事件解決したら、ヘブンスに戻される。

……そこから先は全くわからない」


「……そうか。でも、ヘブンスが嫌なら、LOTUSに転職すればいいんじゃない?」


 それができたら……


「……これだけ迷惑かけて、そんなことできると思う?」


 居るだけで邪魔。迷惑。残りたいなんて、言っていいわけがない。


「……ごめん」


 雰囲気が暗くなった。俺の話はもういい。


「……与晴は? 楽しい? 刑事の仕事」


「うん。この前さ……」


 機密事項が多い警察の仕事。限られた情報の中だったけど、

与晴が生き生きと仕事をしているのがよくわかった。


「良い上司で、いいチームみたいだね」


 でも、与晴の表情が少し曇った。


「だからこそ怖い。今後どうなるか……」


「どうして?」


「ペアの先輩の結婚が決まりそう」


 結婚即退職の時代じゃない。でも刑事の仕事は女性にはキツイだろう。

結婚したらなおさら……


「キャリアのエリートをお婿さんにするらしい。

……だから、家に入るために退官するんじゃないかなって」


 そう言う事情か。


「……男の先輩と組んでみたいなって思ったことはある。だけど、まだ先輩に教えてもらいたいこといっぱいあるし、正直、違う人と組むのが想像つかない」


 出向が決まった時の自分、その時の原を思い出した。

 環境が変わる時、人は不安になる。


「……その不安はその先輩にもチームの人にも、言えないよね」


「……翔太に初めて言った」


 ちょっとスッキリした顔だ。

周りに迷惑ばっかりかけてきた俺が、少しだけだけど与晴のためになれたのが嬉しかった。




 ホテルの部屋に与晴を入れた。

 異常に梅吉がドキドキしている。


『少し話すだけだからね! なにもしないからね!』


(なにを言うてはるんだすか!? なにてなんだすか!?)


『妄想は後で一人でご自由に!』


(絶対しまへん!)


 こんなおバカな会話、絶対に目の前の友達には聞かせられない。


「ここに缶詰はキツいね。うちの独身寮より狭いかも」


「え。マジ? 天井高いから竹刀の素振りできるのはいいけどね」


 もう少ししたら六段に挑戦する現役剣士に、そんなこと言うのはちょっと恥ずかしいけど。


「やってるんだ」


「うん。一応秘書だし、護身術も少しだけど覚えたけど、やっぱり剣道の方が好き」


 与晴の強い目にじっと見つめられ、俺ですらドキッとした。


「翔太、無茶なことだけはしないって約束して」


 凛々しい顔や雰囲気とは対照的に、与晴は本当に刑事なのかと思うくらい性格も口調も、昔から優しく柔らかい。


 秘書と刑事、どう考えても危ないのは後者だ。


「そっくりそのまま返すね」


 与晴の目は笑ってなかった。


「……なんか危なっかしい。不安なんだ、今の翔太見てると」


「……大丈夫だって」


「何かあったら悲しむ人が絶対にいる。忘れないでほしい」


 その与晴の言葉は重かった。

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