【序】開戦
夢や……
子どもの頃の夢や……
『大事無いか?』
可愛いらしい顔がわての顔を覗き込んだ。
『あ、わかだんさん……』
まだ前髪の旦那さん。
まだわてが旦那さんのこと純粋に人として好きやった頃や。
『これ、嘉、あっち行ってなさい』
御寮人さんが旦那さんを追い出してしもた。
二人目の息子さんを風邪で亡くした御寮人さんは、風邪を極度に怖がってはった……
せやけどこの後、旦那さんはこっそり戻ってきはったんや……
『……大事ないか?』
『へえ』
『ひとりで寝るのは寂しいやろ?』
いっつも丁稚仲間と雑魚寝。風邪が感染るとあかんよって、今は一人。
『わては、正次郎がおらんようになってからはいっつもひとりや。寂しい……』
わては亡くなった弟さんと同い年。
わてはその代わりみたいなもの。
『一緒に寝よ』
『へえ』
旦那さんがわての布団に潜り込んで来はった。
『熱あるなぁ、熱いなぁ』
旦那さんの手が気持ちええ……
『梅吉、はよ良くなり』
これが最初で最後やった。
旦那さんにわての風邪が感染って、わてと旦那さんは御寮人さんにえらい怒られた。
旦那さんはわてを庇ってくれはったけど、主人と奉公人では身分が違うて番頭さんに怒られ、二度と一緒に寝ることは無かった。
せやけど、男はんが好きやて、旦那さんが好きやって自覚したわてには、ちょうどよかったんや……




