第3話 初依頼
今回も視点が変わります
ワイバーン
プレセリア王国のアプリコットをはじめ全国各地で確認される魔物である
2枚1対の大きな翼が特徴的でで、その生涯の半分を空の上で過ごす
基本睡眠と食事以外の時は空を飛んでいるため、腕が退化し、翼が進化したためか翼と手が一体となっている
地に降りるときはたくましい2本の足で人間のようにたつ
一応Cランクの魔物であるが、その討伐難易度はかなり高い
ワイバーンは基本、こちらの魔法攻撃の届かない高さから魔法とブレスで攻撃する
相手が疲弊する、もしくはこんがり焼けるまで遠距離で攻撃して急降下する
そして牙や爪で切り裂くのがワイバーンの戦闘である
その爪には麻痺毒が仕込まれており、何の対策もしていないものであれば、すぐにワイバーンのお腹の中に入ってしまう
そのためCランクの魔物の中でも上位の討伐難易度を誇る
一部の冒険者ギルドでは、ワイバーンの討伐目標レベルをBランクの100以上にしようとする声が上がっている
1泊朝食付きで銀貨1枚する宿屋に泊まってから残りのお金も心もとなくなってきた
現在の俺たちの所持金は銀貨1枚に銅貨167枚、鉄貨33枚である
この世界はお金は全国統一である
黒金貨、光金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨の順に小さくなっている
金貨100枚で光金貨1枚、銅貨100枚で銀貨1枚という風になっている
お金の基準であるが、俺が星の記憶でみた「ニホン」という世界に置き換えると鉄貨1枚が1円と同じ扱いである
つまり、現在俺が持っているお金をニホンのお金に直すと26,733円となっている
早くお金を稼がないと大変なことになってしまう
また、シエルは俺の作るご飯の方が食べたかったらしく、明日の朝食も俺が作ることになった
「なぁシエル。ワイバーンっていくらくらいになるかな?」
宿屋を出て街の外に行き、ワイバーンの目撃があった場所に向かっている
ワイバーンは個体ごとに縄張りがあり、目撃例があった場所に再度現れる傾向にある
その場所はアプリコットから数キロもある
「……ん、そうね。…最低でもBランク相当のお金がもらえるわよ」
各ランクの依頼の達成金額は基本的に決まっている
Fランクはおよそ鉄貨数十枚、Eランクはおよそ銅貨1枚、Dランクは銅貨数十枚、Cランクは銀貨10数枚、Bランクは金貨1枚、Aランクは金貨数十枚、Sランク以上は討伐対象の魔物の強さによるが、光金貨が最低でも数十枚はもらえる
ワイバーンはCランクなため、普通であれば銀貨10枚程度の報酬らしいが、討伐難易度が高いため、銀貨50枚以上もらえる
それに加え、ワイバーンの肉は旨く、体のほとんどは武器や防具、鍛冶道具などに使われるため、高値で取引されるのだ
解体が上手く出来る人で、ワイバーンが成体であり、なおかつその膨大な量の素材をすべて持ち帰ることが出来たら金貨1枚と銀貨50枚という、二ホンのお金に直すと150万円になる
旅の資金がたまるな…
「なぁ、ワイバーンって星の記憶によると竜じゃないってあったんだけど、本当なのか?」
冒険者ギルドにある魔物図鑑というものには、現在確認されているBランクまでの魔物なら全て載っていて、その魔物の詳細についても記載されている
そこにワイバーンの説明にはワイバーンはドラゴンであるとされているらしい
だが、星の記憶で鑑定してみるとワイバーンはドラゴンではなくトカゲのようなものに近いと書かれていた
「…ええ……ワイバーンはドラゴン種とは関係ないわ……」
「そうか、シエルが言うなら本当だろうな。星の記憶の鑑定結果は正確みたいだな」
たまに忘れそうになるがシエルも一応ドラゴンである
それもこの世で唯一の星属性を持ってるドラゴンのファフニール様である
竜にかかわる知識で彼女の上をいくものはいないだろう
「……ねぇ、そろそろいいんじゃないかしら…さすがの私もこの暑さで歩くのは嫌なのだけど……」
シエルは人間形態では竜の時に比べて弱っているとはいえかなりの体力がある
にもかかわらず、やはりこの熱さの中、足場の悪い砂漠を歩くのはこたえているのか、俺に魔法を使うように催促してきた
「ん、そうだな。周りに人は…いないな。」
探知系の魔法も技能も持っていない俺は目視と気配で確認する
使う魔法は土と光属性の魔法である
まず、光魔法で周辺の太陽の日差しを何割かを屈折させて、俺たちに直接当たるものを減らした.
これにより、地面からの放射熱は変わらないが、自分たちに当る日の光を減らすことができる
少しだけ涼しくなった
なお、余談ではあるがこの世界もニホンという国と同じで1日は24時間で太陽と月もある
次に土の魔法で鉄を素材とした馬を模したゴーレム1体を創造した
我ながら本物の馬と間違えるかもしれないくらい上出来である
もちろん、鞍(座るところ)に鐙(足をかけるところ)も着いている
実際に馬を飼うのもいいのだが、それだと食費に飼育費、などお金も手間隙もかかる
それならば、土魔法でその場その場で馬を作る方が楽だし費用も抑えられる
その反面、馬ゴーレムを維持するのにも光を屈折させるにもかなりの量の魔力の使用する
今はシエルと俺の分だけだし、俺の魔力の量はかなり多いためそこまで苦ではないが、これ以上作ったり規模の大きいものを作るのは望ましくない
また、俺の得意な魔法は土や火、氷、雷、風である
また、基本的に魔法は1部の魔法を除いて詠唱はいらず、イメージが出来れば扱える
これらの魔法の説明についてはまたの機会にしたい
「よし、ワイバーンのいる場所まで乗っていくぞ。」
「……ええ、お願いね……」
馬ゴーレムの上に乗り、後ろにシエルを乗せて出発した
ーーーーーーーーーー三人称視点-----------
「いた、あれがワイバーンか…」
カイトが目視できるほど距離にそいつはいた
空高くを舞う群青色のトカゲ、ワイバーン
自身の身の丈よりも大きい翼で羽ばたいている
その姿を見て、ワイバーンが竜と勘違いしないものはいないだろう
途端にワイバーンの目が鋭く光ったのもカイトは発見した
「気づいたか。シエル!俺がやるから手は出さないでくれ!」
「…分かったわ、油断しないでね」
カイトにとってはこれが最初のワイバーン討伐でもあり、冒険者になって初めて受けた依頼でもあった
そのため1人で魔物を討伐し、依頼を達成したいという気持ちがあった
ワイバーンはこちらに気づき、カイトを中心として螺旋状に降下しながら迫ってくる
ワイバーンがはなから地上付近に来るのは珍しいことだがカイトは動じず、ワイバーンに向かって手のひらを開いたまま右手を突き出す
右手からおよそ数センチの場所に半径50センチほどの赤い魔法陣が現れる
そこから3つの炎の球がワイバーンに向かって飛んでいく
天駆ける飛竜はその火球を避けながら進むが、追尾機能のついたその魔法を躱しきることが出来なかった
激しい爆発で空気が震えるのをシエルとカイトは感じた
「キュア―――!」
今の一連の流れだけでカイトが強者であると察し、飛竜は下降をやめ再度空に上昇した
その体に大きな傷も熱傷もなかった
「っち。火属性だったか。」
ワイバーンは主に炎のブレスと火の魔法を得意としている
そのことからワイバーンが火属性の攻撃に耐性があることはすぐにわかることである
だが、そのことを忘れていたカイトは火属性の魔法で攻撃してしまった
一瞬で魔法をあててワイバーンを地に落として、左手に持っているシエルにもらった刀、『封神剣・絶』で切り裂こうとしたのにすべてが水の泡である
かつての神話時代の勇者が使っていたこの剣の切れ味はすさまじく、ワイバーンであれば一太刀で倒すことが出来ただろう
だが、その標的はすでに剣も魔法も届かない空の上を浮遊している
一番射程の長い雷系統の魔法でも届かない
もしかしたらカイトがシキと制作した魔道具ならば届くかもしれないが、あれは壊れてシキに頼んで修理をしている最中である
つまり今カイトはワイバーンに攻撃を当てるすべがなく、相手の攻撃を受けることしかできない
「キュアァァアアア!」
はるか上空にうっすらと見える魔法陣から竜の形をした炎がカイトに迫ってくる
上級魔法並みの威力があるそれであるが、魔法のレベルは聖級に達しているカイトにとって怖いものではない
カイトは再度右手をワイバーンに向けて突き出し魔法陣を展開した
その色はワイバーンの体のように青い
そこから出てきた多量の水が大きな壁となりカイトとワイバーンの間にそびえたつ
竜の咢が巨大な滝のような水量の壁に突っ込みかみ砕こうとしている
だが、カイトの扱う魔法のほうが規模も強さも大きいため火竜はカイトに届かなかった
「キュアアァ!」
「うるさいな…」
この魔法でカイトを倒す算段だったのだろうが、それを防がれたワイバーンは攻撃の手を止めこちらの様子をうかがっている
カイトとしても地上付近に来てくれないと攻撃を当てることすらできないので、このままではじり貧である
「来いよトカゲやろう。ボコボコにしてやるよ」
「キュアアアアァァァーーー!!!」
カイトの言葉はワイバーンにとって理解できるものではないが、その態度から自身に挑発されているのが分かった
ワイバーンは人を丸のみにできるほどの大きさの口を限界まで広げる
その口内から先ほどの火竜を模した魔法の何倍もの熱が溢れている
それを限界まで圧縮したワイバーンはカイトに向かって吐き出し、急降下してきた
ワイバーンの最大の技であるブレスを放ってきた
巨大な火球がカイトに迫る
それもカイトが放った3つの火の玉とは比べ物にならない質量と熱量を持っていた
ワイバーン討伐の際はこのブレスを撃たれる前に東圧するのが基本である
この巨大な火球に身を焼かれた冒険者はあの世に多数存在することだろう
だが、本来ワイバーンはそのまま空中に静止して獲物がこんがり焼けるのを確認してから地上に降り立つ
もはやワイバーンはカイトを正攻法で倒すことを諦め、自分の最大の武器のブレスを利用し、躱すなり防いでいる間に毒の爪で切り裂くことに決めたようだ
だが、魔物使いはワイバーン程度の策に後れを取らない
カイトは戦闘中常に左手で鞘の上部を握っていた剣を抜いた
片刃の剣の刀身は波のような波紋が広がっている
人も魔物も簡単に殺めてしまう武器であるはずなのに、なぜかその美しさに魅了されてしまいそうになる
「…っはぁ!」
カイトは上段に構えた剣を迫りくる火球に向けて躊躇なく振り下ろした
膨大な質量と熱量を持ったそのブレスに少しだけ身を焦がしながら振るったその刃で切り裂いた
さらに剣を振るった際に発生した衝撃波か風圧かは分からないが、目視できないなんらかの力が発生し、ブレスの火球がカイトを中心に左右に真っ二つに割れた
その光景を見たワイバーンはカイトに接近することを悪手であると悟り、急遽降下をやめて上昇してカイトから離れようとする
しかし、すでにカイトの間合いに入っているワイバーンに逃れるすべはない
カイトの踏み込んだ左足から爆発的な力が生まれ、それが推進力となって地上付近に降りてきたワイバーンまで跳躍して一気に迫った
その距離がゼロになった瞬間
「剣技・葬刃…」
初級剣技の技能で覚えることができる葬刃は剣を扱うものが最初に覚える剣技である
自身の剣に魔力を流し込み、切れ味を上昇させる剣技である
それを魔力量の多いものが伝説の武器に使えばどうなるかは自明のことである
カイトの背後で、頭部と首から下が分かれたワイバーンは地へと落ちていった
彼は剣についた血を振るうことにより落とし、鞘へと納めていった
カイトは初依頼を達成したことを喜ぶわけでもなく、天に召されたワイバーンの冥福を心の中で祈っていた
とりあえず戦闘シーンを書くことが出来ました
もう少し台詞が多い方がいいでしょうか?
カイトの強さのほんの1部を書くことができました
来週は魔法についての説明をしていきたいと思います