第2話 餌付け
今回もーーーーー*-----で視点が変わります
魔物には討伐目標レベルとランクが与えられている
これは冒険者ギルドが設定したものであり、今ではすべての国が取り入れている
討伐目標レベルはもちろん魔物を討伐する軍や冒険者のレベルである
一般的にSランク以上の災害級以外の魔物はその討伐目標レベルのものが5人そろっていれば討伐が可能とされている
なぜ5人なのかというと、それは冒険者のパーティ制度に由来する
パーティとは冒険者が複数集まっている集団をさすものである
パーティの上限は詳しくは決まっていないが、暗黙のルールとして5人までと決まられている
なぜかというと、SSSランクの魔物がある国の王都に向かって侵攻してきたことがあった
それは人魔大戦後の出来事であったが、強大な魔物の前に人々は再び恐怖で震えることになった
だが、多数の冒険者と軍が立ち上がり、この巨大な魔物を迎えうったのだ
そのうち冒険者は5人パーティでの戦闘を義務付けられていた
どの冒険者のパーティも基本5人で組んでいたが、1つのパーティが例外として6人であった
そのパーティは男4人女2人の男女混合の冒険者であり、その王都が誇るSランクの冒険者であった
普段は3人でパーティを組んでいた2つのパーティが古くからの付き合いだったため、そのSSSランクの魔物の討伐に関してのみ臨時で6人のパーティを組んだのである
そのうちの2人は将来を誓い合った仲で、すでに結婚の日取りも決まっていた
冒険者ギルドも軍も彼らが最高戦力であることは分かっていたので、この例外を認めたのである
だが、悲劇は突然訪れたのである
この魔物を討伐することはできたのだが、女性をかばって魔物の攻撃を受けた男が亡くなってしまったのである
その男と女性は先ほど述べた結婚を控えたものたちであった
魔物は討伐され、犠牲者も少なかったため大勝利であったといえるこの討伐戦であったが、SSランク冒険者が死んだという事実は人々の心に強く残った
このことから6人以上で人数でパーティを組むと不幸なことが起こるといわれた
実際に冒険者ギルドも、この事件を機にからパーティの上限は5人が望ましいと考えている
その風潮は今でも残っており、5人は冒険者のパーティの上限値であるため、基準としているようである
また、以下に討伐目標レベルと魔物、冒険者のレベルの相関を記す
G600~魔王級
SSS500~599災害級
SS400~499災害級
S200~399災害級
A150~199
B100~149
C70~99
D40~69
E20~39
F1~19
なお、討伐目標が600を超える魔王級は人魔大戦以後出現していない
「と、ところで、なぜそんなに高レベルなのでしょうか…」
冒険者になれて少し浮かれていたが、受付嬢の言葉で我に返り、その言葉の真意を探ってみた
基本的に冒険者に登録するものは初心者が多い
以前にも述べたが、アプリコットではこの町の出身者か、腕に覚えのあるものが冒険者に登録する
もちろん俺は後者になるのだが、受付嬢が言うにはその腕に覚えのある人に比べても高レベルらしい
このまちにドラゴンの討伐に来るものはワイバーンというCランクに値するレベルのものが多く訪れる
そのレベルは2桁後半で100レベルには届かないものがほとんどである
また、この町の訪れる冒険者も基本的にはCランクのものだけである
にも関わらず俺のレベルは139で冒険者全体の中でも上から数えたほうが早いところに位置している
ちなみに一般的な冒険者の多くの平均的なランクはCランク後半~Bランク前半となっており、レベルに直すと大体100前後となっている
この中で冒険者になっていない俺のレベルは正直異質であり、受付嬢が不思議に思い俺たちを警戒するのも当然である
「ああ、それは師匠のおかげかな。俺には剣と魔法を教えてくれた師が2人いるんだ。その人たちのおかげだよ」
これが俺の考えた設定で、シエルと相談して決めた内容である
正直、Cランクにしておいて冒険者に登録するのもよかったのだが、それだとワイバーンより強いドラゴンを狩ってもお金があまり入らないので、お金稼ぎとしては非常に効率が悪い
だが実際に師が強く、その師が俺を育ててくれたとしたら俺のBランク相当のレベルなら受け入れられると想定したのだ
「な、なるほど。で、そちらの方は?」
「私がカイトの師匠……私が育てた…」
実際に俺は幼い頃シエルに魔法を習っていたし、嘘はついていない
「そうなのですか。失礼ですが、カードのほうを拝見させていただいてもよろしいですか?」
シエルは「…はい」と言いながらポケットの中のギルドカードを手渡した
裏面に記載されているレベルを見て、受付嬢は再び声を荒げた
「れ、レベル237!?しかも!シエルってあの『悠久の風』!?」
シエルのギルドカードに記載されたレベルや技能は後に説明する
悠久の風とは、シエルの二つ名である
彼女は一時期、冒険者として活動していた時期があったのは前回も述べたと思う
とある町が病魔に侵されて全滅寸前だった時、颯爽と彼女は現れ村人を治療した
シエルは名前だけ名乗り、すぐにその町を去った
その町の村人はシエルに深く感謝し、風のように現れ去っていった彼女を悠久の風と呼び称えるようになった
俺のことといい、本当にお人好しな魔物である
「その名前嫌い……シエルって呼んで……」
シエルはやはり名付け親にもらった名前で呼ばれたいようである
本当、その名付け親とはいったいだれなのか…
「わ、分かりました。でしたらシエルさんがいるので大丈夫だと思うのですが、一応ギルドの説明をさせてもらいますね」
冒険者とは、冒険者ギルドに所属するものを指す
基本的に魔物の討伐や依頼品の納品を対価にお金をもらう
まず、冒険者のシステムについて説明された
ギルドカードと呼ばれる、自分の名前や技能、職業に依頼達成数が書かれたカードをなくすと、再発行の手数料としてお金を少し支払わされることを説明された
冒険者のランクは基本的にそのレベルに準じたものになっている
例えば、レベル30のものならEランクに、レベル50のものはDランクといった具合になっている
もちろん例外も存在するが、基本的に職業や技能の強さからギルド側が判断を下す
冒険者は自分のランクにあったものか、自分のランク以下のものしか受けない
これは、冒険者を支えるためにギルドが講じている方法に基づいている
冒険者はギルドからお金を受け取る時、素材売却料と依頼達成料の合計金額が支払われる
だが、たとえ自分の1つの上のランクでも高い魔物を倒したとき依頼達成料は支払われないのだ
この依頼達成料はどの魔物にも当てはまるのだが、どれだけきちんと素材の剥ぎ取りをして売却したお金にも届かない仕組みになっている
1つや2つ程度の高位ランクの魔物を討伐した際でも、自分のランク以下の魔物を討伐するほうがもらえる金銭が多くなるのだ
したがって、冒険者は自分のランクにあった魔物を討伐する
そのため、危険な冒険者稼業でも死亡者はあまりいないのである
また、冒険者のパーティーは基本的に最大5人とされている
そのパーティーにもランクは存在し、所属冒険者の平均レベルに該当する
例えば、Bランクの俺とSランクのシエルが組んだらパーティーはAランクとなる
「パーティーの申請はここでなさいますか?依頼の受注は?」
「いや、今日はこの街についたばかりだから、依頼に必要そうなものの買い物をしてゆっくりしてきます。Cランクのワイバーンを明日討伐したいので、依頼の受注をお願いします」
「分かりました。今後とも、冒険者ギルドを贔屓にしてくださいね」
受付嬢は、大分落ち着いてきたのか、噛んだり慌てたりすることはなくなった
依頼の受注完了をギルドカードに記載してもらった後、俺は背負っていたバックからあるものを取り出した
「これをどうぞ、『ゼリー』というデザートです。柔らかいのでスプーンを使って食べてください。」
俺が取り出したのは「ガラスの器」の中でエメラルドのように輝くゼリーである
「メロン」と呼ばれるフルーツを贅沢に使い、素材のおいしさを重視した逸品である
氷の魔法で冷やしたゼリーは大変美味で、作った自分も驚いた
これも星の記憶で読み取った異世界の知識で、この世界にはないものである
この珍しい差し入れを持って行って、少しでも好感度を上げようとしたのだ
間違ってもこの受付嬢がかわいいからという理由だけではない
「では、自分たちは宿屋のほうに行きますので、これで失礼します」
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私はアプリコットの冒険者ギルドに雇われている、受付嬢のラーシェである
Sランクのレベルで、プレセリア王国の特殊工作員である私はここであることを目的として働いていた
この町には最低でもCランクの冒険者がドラゴン退治にやってくる
中にはAランクやSランクといった、冒険者の中でも一握りのものもやってくる
彼らを品定めして、この国に仕えるものを探していた
だが、レベルが高くても野蛮で礼儀を知らないものや、反対に優しく礼儀が伴っていてもランクが低いものが多くいた
まだ相応しい人は見つからず、時間だけが過ぎていった
いつものように朝の忙しい時間を乗り越え、少し気を気を抜いていた昼過ぎに彼らはやってきた
男のほうは髪も服もすべて黒で統一した青年であった
背丈は170を超え、顔立ちはまだ幼さが残っているものの、かなり整っていた
その漆黒の瞳には色とは正反対の希望に満ち、輝いていた
女のほうは白銀の美しい髪に、白を基調とした服を着ていた
胸はあまりないが、少なからず美人に分類されるであろう私よりも可愛かった
眠そうな眼の奥にある青い目に見つめられるとなぜか私が少し委縮してしまうが、非常に澄んだ綺麗な瞳であった
かれらの第一印象は悪くはなかった
いつも通り、ドジなふりをしつつ対応しているとかれらは高ランクで、なかなか優遇された職業であることがわかった
彼女はSランクで彼はBランクの師弟の関係であるといった
彼女が悠久の風であることは名前を見て分かったのだが、彼女が悠久の風と呼ばれるようになったのはおよそ50年程度前である
長命な種族なんだと感じた
だが私が気になったのは横の彼である
年は19の自分よりも若々しいのに、どこか気品にあふれる青年であった
最初は貴族だと思ったのだが、名前にセカンドネームがないのでそれはないと断定した
だが、話し方もその振る舞い方も優雅なもので少し見惚れてしまった
彼はゼリーという見たこともないものを渡して去っていったが、ギルドから出る姿を見て違和感を感じた
彼が左の腰にさしていた剣はSランクの私にも底が知れないほどの力を秘めているように見える
歩いていても重心にぶれがなく、胸をはって歩くその姿は最上級の騎士にも見えた
冒険者の強さはレベルだけではないと考えられているが、彼はそれを体現しているようだった
その割には技能が弱かったが、もしかしたら魔防具でも読み取れない究極技能を持っているのかもしれない
とりあえず国王様に連絡しよう
PS.彼にもらったゼリーは大変おいしかった
明日おねだりすることを忘れないようにしなければ…
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ギルドを出てから砂漠の冒険での必要なものを買った
このお金は魔の山に来る冒険者が落とした財布のようなお金を入れる容器の中に入っていたものを使った
一応今日まで使わず取っておいたのだが、魔の山に再度来るものはいなかったので、俺が使わせてもらっている
「…いいの?…あの女…」
俺たちは宿屋に向かう途中にシエルがこんなことを聞いてきた
あの女というのはギルドでの受付嬢のことだろう
「ん?ああ、やっぱりシエルも気づいていたのか。まぁ大丈夫だろう。」
シエルも受付嬢の様子が気になったのだろう
だが、たいした問題ではないので心配はないと思う
多分あの女性は高位のレベルの元冒険者か何かだったのだろう
その彼女は慌てたふりをしなが俺を観察していた
尤も、星の記憶を使えば対象のステータスを知ることが出来るので、参考になったかもしれないが俺はそれはしなかった
俺が星の記憶で鑑定したら相手の職業を知ることができる
万が一彼女が俺のように職業に関連することで悩んでいて俺が一方的にそのことを知るのはよくないように感じている
したがって俺は他人のステータスを見ないように考えている
もちろん彼女が俺と敵対するのであれば話は別であるが
「明日からは忙しくなる。シキが食べ物や服を作って送ってくれるが、宿屋代を稼がないといけないな…」
「…ねえ…カイト……」
シエルがなぜか少し不機嫌な顔も出こちらを見つめてくる
俺はおそれ、動揺しながら「ど、どうした?」と聞くと
「……ゼリー……食べたいの……作って……」
シエルはかなりの甘党で俺の作るスイーツにいつも舌鼓をうってくれる
彼女は受付嬢だけがゼリーを食べているのは気に食わないらしく、俺にゼリーを要求してきた
「わ、分かったよ。幸いゼリーは中に入っているから宿屋で渡すよ」
「…ん……ありがとう…」
シエルは微笑みながら上目づかいで俺にお礼を言ってきた
俺はいつもこの可憐な笑顔に負けてしまう
「明日はワイバーン討伐だ。よろしくな、シエル」
「ええ……頑張りましょう?…」
俺たちは今度こそ、旅の疲れをいやすために宿屋に向かった
ようやくシエルの目の色を書くことが出来ました(忘れていたとはいえない)
次週、もしくはその次にはワイバーンとの戦闘シーンがある予定です
そこでカイトの戦い方が分かります