第1話 冒険者カイト
英雄王カイトは黒髪に黒色の瞳をした男であったという記録が残されている
本人は元々青色の髪であったが、星の記憶の発現時に膨大な知識を脳内に転写された時の多大なストレスと脳へのダメージで変色したのではと考えられている
この世界では黒髪黒目は大変珍しく、誰よりも目立ってしまう少年であった
それでも、常に人間の前に立ち戦う姿、彼のその強く優しき心に、人やドワーフ、エルフ、龍族、マーマン、獣族、妖精たちは皆崇拝の念を抱いたのだ
アデルと別れてから5年たって、俺も17歳になった
俺とシエルはつい先日まで、大陸の中央にある「魔の山」で暮らしていた
かつての魔王が根城としてためか、高ランクの魔物が多数存在していて危険ではあるが、そのぶん身を隠すのにはちょうどいい
時たま冒険者がやって来るらしいが、俺の家付近にはシエルの結界魔法が張ってあるため見つかることはない
この場所に来るまでにシエルを除いて合計6体の魔物を配下にすることができて、そのうちの5体はシエルさんに負けず劣らずの力を持っていた
配下の力が強すぎて主人として申し訳ないと思ってしまうことも多々ある
だが、今となっては龍形態のシエルさんにも勝てる気がする
もう1体は配下にした当初はかなり弱い魔物であったが、今となっては鍛冶に農産、建設、薬の調合といったことを行える万能の魔物で、戦闘もそこそここなせるヤツである
おかげで、俺も生産系の技能を多数覚えることが出来た
そういえば、俺のステータスは今このようになっている
名前 カイト
レベル 542
職業 魔物使い
技能
伝説級剣術
聖級剣技
気の掌握
上級狙撃術
聖級魔法
暗黒魔法
時空間干渉能力
魔物の王
もちろん、この他にも鍛冶や農産などの生産系や契約魔法といった技能はあるが、戦闘関連の技能はこれらが主である
星の記憶は今や相手のレベルや技能をしらべるためのものになっている
他にも我流で作った剣技や魔法があるが、それらはなぜか技能として反映されなかった
技能に書かれている伝説級や上級といったものは、その技能の熟練度を表している
下級は修得したてで、上級や聖級になるにつれて、速さや力の補正値が大幅に増えたり、魔法の強さが上がったりする
下級、中級、上級、聖級、伝説級、神級という風になっている
神級になると、その技能の強さは究極技能に劣らない力を持っていると考えられているが、実際に修得した人は俺や勇者も含めて確認されていないため、机上の理論となっている
現在、最強の冒険者として知られている人のレベルは417の魔法使いである
しかし、レベルはもちろん、高位の戦闘系技能を多数所持しているので、俺やシエルであれば瞬殺することができるだろう
歴代最強と言われた勇者はレベルが600を越える化け物だったらしいが、今の俺も運がよければ互角に戦えるかもしれない
隠蔽の技能の上位互換である偽装の特異技能も覚えることができた
たが、ここで各技能の説明をしていると日が暮れてしまうので、それはまたの機会にしようと思う
ともかく、「シキ」に留守番と作物の世話を任せた俺は、ついに人族の街に降り立つことになった
「ここがアプリコットか…意外と大きいんだな」
この大陸には10個の国があって、アプリコットは大陸の南部に位置する人族の国、「プレセリア王国」にある大きな街である
高い壁に四方を囲まれたアプリコットは、別名「冒険者が集う街」として、その名の通り冒険者はもちろん、世界中の全ての人に一目おかれている
しかしこの街は、大陸の南側に広がる唯一の砂漠地帯のほぼ中心に位置している
そのため、特産品や名産品などは全くない
それどころか、砂漠にある街なので砂漠も家畜も育ちにくい
そんな街がここまで大きくなったのはアプリコットの東側にある「竜の渓谷」の影響が大きい
竜の渓谷には、SSランクの火龍ニーズヘッグが暮らしているといわれている
ニーズヘッグは谷からほとんど出てこない
しかし、竜の渓谷が居心地がいいのか、ドラゴンにとって美味しいご飯があるのか、様々なドラゴンがこの地に集まってくる
冒険者は皆、このドラゴンを倒して多額のお金を得るために、自身やパーティーの腕試しにやって来る
ほとんどはCランクのワイバーンを討伐しにくる者がほとんではあるが…
そんな冒険者をサポートするための街がアプリコットである
お世辞にも立地がいいとは言えないこのまちではあるが、冒険者たちはドラゴン討伐に行く前にここで疲れを癒し、討伐後に得たお金でお酒を飲んだり料理を食べたりする
そのため、この街は冒険者の落としたお金で発展していったのだ
俺とシエルは世界を見て回る為の旅の資金を得るために、しばらくの間は冒険者になってドラゴン退治をしていくことを決めたのだ
「とりあえず、今日はギルドに登録して宿を取ろうかと思うんだけど構わないか?」
「…ええ、カイトに任せるわ……」
「シエルはこの街に来たことがあるのか?」
「…あるわよ。とはいっても、もう覚えてないくらい昔だけど……」
シエルはドラゴンなためか、ここ5年で外見の変化は全くなかった
1度彼女に年齢を聞いたことがあるが、彼女は「女の子の年を聞くのはダメ…」と言って、当時の俺では死ぬかもしれないレベルの魔法をぶつけられた
一応、シエルは自分が神魔大戦中の神話の時代に生まれたことだけは教えてくれたが、ほとんどは謎のままである
まあその謎の解明はまたの機会にしよう
シエルと話していたらすぐにアプリコットの冒険者ギルドが見つかった
かなり大きい建物で、星の記憶でみた小学校の体育館くらいの大きさがあった
建物の中に入ると、まず肉を焼いた香りがしてきた
内装は茶色1色で揃えられていて、入り口付近には多くの長方形の机と丸椅子が規則正しく並んでいて、そこで食事している人が何人かいる
後で分かったのだが基本的に冒険者ギルドは飲食が出来る施設が必ず備え付けられている
冒険者はギルドでお金を受け取るため、そのまますぐにお酒を飲み、美味しいご飯を食べられるようにするためである
もちろん、その方がギルドにお金も入るのである
「…お昼帯に来てよかったね……人があまりいない…」
そう、今ギルドの中は人が全然いないのである
冒険者は基本的に本人たちにとって簡単な依頼でかつ近場の狩場であれば、朝受注して夕方に戻ってくるのである
難しい依頼や遠くの狩場でも、基本的に朝依頼を受注して、昼前には出発するため、昼頃にはギルドはほんんどいないのである
今ギルドにいるのはホールの人が数名と、おそらくご飯を食べに来た一般人が十数人、受付の人が2人いる
だが、受付は繁忙時には4人で対応するみたいで、空席が2つほどあった
ここには食事をするために来たわけではないので、すぐに受付のもとへ向かった
「はじめまして。ギルドに登録したいのですが、ここで出来ますか?」
ちなみにこの台詞は俺が言ってみたいことの上位に君臨する
アデルと別れてから人間にはなしかけるのは初めてで、かなり緊張したがとりあえず言葉に出すことができた
この受付嬢は人族の方であり、茶色い髪の可愛らしい女性であった
ここに来るまでに見た人族の人は茶色か金の髪であったので、この国の人は皆そうなんだろう
「え?登録ですか?依頼の受注、発注とかではなくて?」
「はい。俺が冒険者ギルドに登録したいんですが、もしかして出来ないんでしょうか」
「い、いえ!この街に来るのは腕に覚えのある方が多いので、基本的にここで登録する人は少ないんですよ」
受付嬢曰く、この地はドラゴンはもちろん、危険な討伐推奨レベルが高い魔物が多くいるので初心者はやってこないらしい
ここでギルドに登録するのはこの街の出身者か、既に高レベルなものだけである
「でしたら登録をお願いします。何か書かなくてはいけないものとかありますか?」
「いえ書くものはありませんね。登録に必要な道具を持ってくるので、少々お待ち下さい!」
話していた受付嬢はドタバタしながら奥の関係者以外立ち入り禁止の扉のなかに入っていった
ここでは登録する人があまりいないのは本当のようで、部屋からなかなか出てこない
「もう一回確認だけど、シエルはギルドに登録してるんだよな?」
「…ええ。冒険者でいた方が便利なこともあるから…登録はしてるわ」
シエルは自分の名付け親を探している
おそらくだけど、街に入りやすくなったり情報の収集が楽になるためシエルはギルドに登録していると思う
俺に会ってからは探し人をそっちのけにして、俺に着いてきてくれているから、嬉しい反面申し訳なく思ってしまう
以前その事をシエルに聞くと、俺と一緒の方が見つかる可能性が上がると思うといっていた
よく分からないが、その名付け親を捜索する人員が増えたからだと思う
「なら、設定通りにな。頼むぞ、シエル先生」
「分かったわ…」
おどけた口調でシエルにお願いすると彼女はすぐに了承した
「お、お待たせしました~」
その設定の確認が終わるのとほぼ同じタイミングで、俺たちの担当であった受付嬢が扉を開けて部屋から出てきた
その手には、直径40センチ程度の水晶があった
「では、冒険者ギルドへの登録を行っていきます。とはいっても、やり方は簡単でこちらの水晶に手を置いていただくだけで結構です。」
冒険者ギルドは世界中に支部を構える、この世界最大数の所属人数を誇るギルドである
だが、その冒険者ギルドへの登録の仕方は国ごとに違うのある
どの国も名前とレベルを調べるのは共通であるが、中には登録にあたってギルドが指定した者との模擬戦をしたり、魔力の測定を行ったりする
そんな中プレセリア王国では、なかなか特殊な登録の過程を踏む
この水晶は特殊な魔道具の一種で、触れた人間の名前、レベル、職業、技能を調べて水晶内部に表示することができる
これにより、その人の情報が嘘偽りなくギルドに登録されるようにしている
だが、これには誰も知らない欠点があるのだ
それは、隠蔽の技能を持っているものはこの魔道具では表示されないのである
さらにもっと言えば、隠蔽の上位技能である隠蔽を持っていれば、その水晶に表示される名前もレベルも職業でさえも任意に変更することができるのである
では、この国でギルドへの登録をすれば俺の職業を疑うものはいないはずである
俺が魔物使いであるという疑いをもたれても、プレセリア王国公認のギルドカードを見せれば問題なくなるのである
「分かった。じゃあ頼むよ」
俺は水晶型の魔道具に手を置き、診断結果を待った
「そもままでいてくださいね……え?…なにこれ!?」
「む、どうかしたのか?」
「い、いえ!なんでもありません!ただ、あなたのレベルがかなり高くて、職業も珍しいものだったので…あ、これをどうぞ。」
すごい反応をされたので一瞬俺が魔物使いであったのがばれてしまったのかと思ってしまった
正直、隠蔽を持っていてシエルと星の記憶から問題はないと宣言されていてもかなり不安だったのである
受付嬢から手渡されたのは一枚のカードであった
それは冒険者に登録したことを認める「冒険者カード」であった
表面にはプレセリア王国で登録したことを証明するための紋章があった
裏面には
名前 カイト
レベル 139
職業 魔法剣士
技能
上級剣術
中級剣技
気の練り
中級魔法
魔法剣士
etc
依頼成功数
S以上 0
A 0
B 0
C 0
D 0
E 0
このように俺が設定した通りのステータスになっていた
なんだか軽い犯罪を起こしてしまった気もするが、魔物使いであることがばれずに俺は晴れて冒険者になることができた
次話は冒険者の説明と魔物のランクについての説明を少ししていきます