第3話 変わるもの
今回の話で予告通り第一部の最後となります
かなり長くなってしまいましたが、楽しんで下さい
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で視点が変わります、ご了承下さい
技能には階級が存在する
下から順に、技能、固有技能、特異技能、究極技能となっている
技能は会得は比較的容易いものになっている
もちろんそれに伴いレアリティやその強さは他の上位の階級の技能には遠く及ばないが、努力すれば誰でも得られる
固有技能はカイトの契約魔法のように職業ごとに与えられるものである
剣士であれば剣士、農家であれば農産といった具合に、その職業に適した技能が与えられる
特異技能は固有技能よりも数は多いが会得は難しい
固有技能の上位互換と考えられているが、そうではない
技能と同じように、そのものの努力により得られるものでは最上位のものになる
だが、その会得には血へどを吐くような努力と類いままれなる才能が必要であり、何百人に1人の割合の人しか持っていない
究極技能は神に選ばれた人にのみ発現する、究極の力である
その技能は神の力とも言われており、どんな魔道具も技能でも認知することはできない
だが、例外として同じ究極技能の鑑定能力をもつ星の記憶であれば、その技能の詳細まで分かることができる
そのため、自分しか究極技能を持っていることがわからないため、過去この技能を持っていると確認できているのは、人魔大戦中の勇者の「勇ましい者」だけである
さらに階級のほかに技能には大まかに分けて習得しただけで能力が発動する受動技能と魔力などを消費して扱う主動技能がある
受動技能には剣術系の技能のように、剣を装備したさいに力や速さが上がったりするものなどがある
その他にも魔力総量があがるものや、身体能力が向上する技能も存在することが確認されている
主動技能は主に体内の魔力や生命エネルギーを消費して技を出す
剣技や魔法といった威力の高い技はそれに伴い消費する魔力が大きくなることがわかっている
以上が技能についてわかっていることである
僕は、アデルから剣術を習ってきた
毎日のように素振りをして魔物を倒し、レベルを上げてきた
「刀」と呼ばれるこの世界ではあまり流通していない剣であるが、星の記憶でみたものと酷似していて、その使い方も星の記憶の効果で分かっているのでこの剣を使ってきた
基本的な振り方はもちろん居合い切りなどを覚えていった
その努力が実り、僕はつい先日技能の下級剣術を覚えることができた
剣を装備している限り、僕の剣速や力が少しだけ補正されるが、僕の努力が認められた気がして嬉しかった
今では討伐推奨レベル70程度の魔物であれば倒せるようになった
だが、目の前に現れた災厄は僕が得た力では足下にも及ばないだろう
野生の勘とでもいうのだろうか、本能が逃げろと警告してくる
心臓は恐怖によりこれ以上ないほど速く動く
僕らの日常は唐突に壊された
いつものように朝食の準備をしていた僕は、急にアデルに抱き抱えられて家の外に飛び出した
飛び出るのと同時に僕らの拠点が轟音をたてて崩れていったのを視界の端で見てしまった
壊れた建物の奥には巨大な熊がいた
もちろん、ただの熊ではない
体長は僕たちの拠点だった家を優に越える高さで、おそらく4メートルはある
2本の足で人間のように立つそいつは右腕が大きな剣になっていた
アデルの太刀ほどの大きさの剣は切れ味はないように見えるが、おそらく鈍器のように叩きつけて戦うのだろう
縦に割れた瞳孔に見られただけでブルブルと足が震えてしまう
「Sランクモンスター…ベヒーモスだと…」
Sランクとは魔物の階級のことで、討伐目標レベルが200を越える魔物に与えられる
Sランク以上の魔物は災害級とも言われており、単体で街を滅ぼすほどの力を秘めている
このベヒーモスは一般的な魔物に比べても接近戦での戦いを得意としているため、剣士の天敵であるといえる
本来このベヒーモスはタンクと呼ばれる盾や鎧を完全武装した兵士、及び遠距離攻撃を行える魔導師と弓使いなどの混合部隊をあてることで、ようやく討伐が可能になる
もちろん、それでも多数の犠牲者を出してしまう
ソロや少数のパーティーではベヒーモスを倒すことは出来なく、出会ってしまったら逃げなければ命はないだろう
だが、このベヒーモスは速さもかなりあるため大の男が子供を抱えたまま逃げることは出来ない
ましてや、魔法の使えない魔物使いではヤツに勝てることは出来ない
絶望が僕たちを襲ってくる
「カイト!俺が囮になる!お前は逃げろ!!」
アデルは抱き抱えていた僕を地面に下ろし、その背に背負う太刀を抜きながら言葉を放つ
いつも見てきたその剣を抜く動作は、今はぎこちなく、心なしかいつもよりも背中がひどく小さく見えた
アデルだって分かっているはずだ、自分ではこの魔物に勝てないことが…
「だめです!逃げましょう!僕たちでは勝てる見込みなんてありません!」
ベヒーモスの討伐目標レベルは320である
アデルでは足手まといの僕がいなくてもアイツに勝てる可能性なんてない
それはもちろんアデルにだって分かっている
剣をもつ手は震えており、呼吸も速くなっている
彼は自分の命を賭けて僕を守ろうとしているのだ
「ダメだ!速く逃げろ!」
「でも!」
「いいから行けー!カイトォーー!!」
それでもアデルは絶望に、災厄に立ち向かうために走り出した
崩れ落ちた家を挟んでそびえ立つヤツから僕を守るために
「…っ!……絶対…絶対に生きて帰って下さい!!師匠!!」
僕は彼の背にありったけの思いを乗せて言葉を放ち踵を返して走り出す
まるで漆のように暗い森に入ったのと同時にベヒーモスの雄叫びが聞こえ、剣と剣がぶつかる金属音が鳴り響いた
走る
「はぁ!…はぁ!…」
走る
どの程度の距離、時間走っていたのかはもうわからない
10分なのか、1時間なのか僕は無我夢中で走り続けた
気がつけばヤツの雄叫びも、師の声も聞こえなくなっていた
だが、アデルには僕が逃げきったのを確認する術はなく、おそらく自身が死ぬまで戦っていくだろう
静寂のなか、僕の呼吸と心臓の音のみが森のなかへと響き消えていく
もちろんこの音はただ走ったから出ている音ではないだろう
アデルとの思い出が一歩、また一歩と進むにつれて走馬灯のように思い起こされる
だが、彼はこんな僕を守って死ぬだろう
もしかしたらもうすでに亡くなっているかもしれない
そんなことを考えていると、ついに僕は絡まった蔦に足をとられて正大に転んでしまった
そのまま動けなくなったのは痛みからではなく、自分の希望が打ち砕かれてしまったからであろう
「…うっ…っく、アデル…師匠ぉー…」
アデルは僕の生きる希望だった
国に捨てられ、孤独に苦しみ、人の暖かさに飢えていた自分にさした一筋の光
彼と共に生き、生活していくなかで僕は自分が強くなるのを感じ、世界を見るという夢も失わずにすんだ
このまま消えて無くなろうか
もちろんそれはアデルの僕に生きてほしいという最後の願いを踏みにじる最低の行為だと分かっている
それでも生きる希望を無くした僕にはこの世界で生きるには辛すぎる
いつもこうだった
家を継ぐための勉強も、剣の訓練も、親との喧嘩も、最初は立ち向かうのに最後の最後は逃げてしまっていた自分がいた
この2年間はそんなこともなくなり、必死に生きるために努力してきたのに、また逃げてきた
僕が自分が生きるための希望を自分で摘み取ったのだ
幼い頃、もし僕に逃げ出さない勇気があればこの結果は変わったのだろうか
僕の職業がもっといいものであればアデルと出会わず、彼は死ななくてすんだのだろうか
僕にもっと力があれば、ベヒーモスを倒し、アデルと暮らすことができたかもしれない
幼い頃、妹が拐われた時があったがその時は運良く僕が見つけることが出来て助けることができた
あの時にもっと力をつけて、もうこんなことがないようにと誓ったののに
そう、力だ
僕は力がほしい
それは権力でも、金でも、自分の戦いの能力でもいい
自分の大切なものを守る力を
運命をねじ曲げるだけの力を
悪魔に魂だって売ってやる
神に祈りだって捧げてやる
「(ーー…ーーー…)」
突如僕の胸から淡い光が溢れだしたのと同時に声が聞こえてきた
「お前は誰だ?何で、その名前を知っている?」
「(ーーーー……ーー……ー…ーー………)」
いや、その声は俺の頭の中に直接語りかけてきている
頭の中に直接声を送り込まれる初めての経験だったのたが、不思議と嫌悪感はなかった
「(ーー…ーーー……)」
その言葉を聞いてようやく俺は確信することができた
この声こそが、俺の力そのものなのだと
すぐに涙の跡を拳で拭い、俺はアデルのもとに走り出した
俺の希望を守り、彼の命を救うために
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その戦いはまるで戦のようであった
木々はなぎ倒され、草は大きく刈られ、地面には巨大なクレーターが出来ている
剣と剣がぶつかり合って出た火花が飛び散った影響なのか、家の残骸と草木が燃えていた
「ギャオオオォォ!!」
火の森に響くのはSランクモンスターベヒーモスの咆哮
怒号に聞こえるそれは聞くもの全てに恐怖を与えて体の自由を奪っていくだろう
だが、今ベヒーモスが発したのは勝利の咆哮であった
「…はぁ………はぁ…っく…」
アデルの体は既に多数の傷を負っていた
いや、それはもはや傷とは言えない深いものであった
左腕は切り落とされ、右の脇腹にはあの巨大な剣で疲れたのか大きな穴が空いていて、血が溢れて地面に染み込んでいく
もう戦う力も残っていなくて、既にその命は風前の灯火である
彼は自分の大切な弟子のカイトを守るために戦ったのだ
アデルのレベルは159という、冒険者の中でも上位のレベルである
最初はベヒーモスの速さについていけず、いくらか裂傷を負ったが、しばらくするとその動きに合わせて完全に防御できるようになった
一瞬の隙をついて、アデルはベヒーモスの左腕を切り落とすことができた
だが、それによりアデルは勝てるかもしれないと勝ちを意識してしまった
その一瞬でベヒーモスは右腕の大剣をアデルの脇腹には突き刺し、自分と同じようにアデルの左腕を切り落とした
そのままベヒーモスはアデルを蹴り飛ばし、大きな木の幹に叩きつけた
「(これは…もうダメだなぁ……)」
アデルは自分の体から多量の血が流れているのを感じていた
すぐに医者や回復魔法の使い手に見てもらっても治ることはない
「(これだけ時間を稼げれば逃げ切れただろうな)」
それでも彼の心は晴れやかだった
戦いはじめてどのくらいの時間がたったのかは分からないが、カイトが逃げる時間を稼げたと確信していたのだ
ふと、走馬灯のように今までの思い出が彼の頭の中に流れ込んできた
中でも最近のカイトと過ごした日々はより鮮明に写った
彼の記憶のなかではカイトは本当に不思議なやつだった
模擬戦を繰り返し、何度負けても、転んでも、涙を浮かべて立ち向かってきた勇敢な心を持っているかのように思われた
狩りのセンスはあまりなく、鳥や動物をはじめ、色んなヤツを逃がしてしまっていた
でもそれは、必要な数以外は取らないと決めていたからわざと捕らなかったのだろうか、そんな不器用な彼の性格を理解していた
農産に関する知識はかなり多く、元々農家であったアデルも知らないことをやってのけた
それだけではなく、料理に関する知識も豊富でアデルを驚かせた
最も最初は知識だけでかなり下手くそであったが
アデルは自分の人生に満足していた
もちろん、魔物使いになったと知らされたあの日から生活は激変したが、彼の師匠のおかげでここまで生きることができた
加えて、大事な弟子もできてからのこの2年間はアデルは幸福を感じていた
ここで死んでもアデルは悔いがないだろうと考えていた
「…っくそ……でも、まだ……カイトと…一緒に…生きて……いたかったなぁ~…」
アデルの目からは、大粒の涙が溢れだしてきた
カイトにとってアデルが希望であったかのように、アデルもカイトが生きる希望であった
師匠が亡くなって凡そ3年、暗い森の中、1人で孤独に生きてきた
もちろん、町に降りて買い物をしたことは何度もあるが魔物使いである自分と本当の意味で繋がりを持つことは出来ないため、町に降りた時こそ寂しさを感じていた
このまま死んでしまおうと何度も考えてきた
だが、カイトを弟子にとった時から世界は変わった
アデルは最初、師匠に対する恩返しのみのつもりでカイトを育ててきたが、すぐにその認識を改めた
カイトとのふれあいが、いつしか心地いいものに感じ、胸を高鳴らせた
アデルにとってカイトは弟子であり、息子であり弟のような存在に変化していったのだ
アデルは現実に戻るとベヒーモスがこちらに歩いてくるのを薄れていく視界でとらえた
意識が闇と同化するのが先か、ベヒーモスに食われるのが先かは分からないが、ここで彼は死にゆく運命だったのだろうか
闇に落ちていく意識の中で
「お疲れ様です。師匠、後は俺に任せてください」
アデルは最後にカイトを捉え、速く逃げろと言いたくなったが、言葉は出ずその意識を完全に無くした
「まさか、そんな風に思ってくれてたなんてな」
アデルが最後に紡いだカイトと生きたいという願い、それをカイトは聞いていたのだ
カイトにとってもアデルは師であり、父のような特別な存在であった
邪魔じゃないのかと毎日のように心配したいたが、彼の生きる希望になっていてくれたようで嬉しかったのだ
「ギャオオオォォ!」
師と弟子の邪魔をするのは無粋な魔物、ベヒーモスであった
だが、新たな力を手にしたカイトにとって、それは自分達に害をなすものではなく、空中に漂う虫のようにも思えていた
「今度は俺が守る…頼む……力を貸してくれ」
こんなにもボロボロになるまでカイトを守ってくれた最愛の師匠アデルを守るために、今度は弟子であるカイトが動き出した
ベヒーモス腐ってもS級の魔物、何かを感じ取ったのかカイトに向かって雄叫びを上げて突進してきた
「契約にしたがい我に従え、全てを統べる星の王よ」
詠唱が始まり、カイトの胸から白銀の光が溢れだした
それらの一部は無数の帯となり、うねりながら空に、地に、木々に、炎に向かって伸びていっていく
光の奔流に飲まれたベヒーモスは驚きのあまり突進をやめてこちらを縦に割れた瞳孔で見つめてくる
その瞳に映るものは、ベヒーモスがはじめて恐怖を感じる現象であった
「星の王たる力を見せつけ、歯向かう敵を殲滅せよ!」
カイトは今日まで考えて来なかったわけではない
今日まで魔物と戦ってきて、何度も何度も死にかけたことがある
それなのにあの夜、猛毒キノコのドクニシンを食べた経験に比べても経験値が低かったのか、大きくレベルが上がることはなかった
今までは、あの時助けてくれたであろう白銀の髪をなびかせた美しい女性の魔法の影響でレベルが上がったのだと思った
でもそれは間違いだった
彼女は魔物であり、カイトと契約魔法を結んで、彼の体内からドクニシンの毒を浄化していったのだ
その契約よりカイトのもうひとつの究極技能が発動した
受動技能であり主動技能でもあるこの技能の効果で、配下にした魔物の1割程度のステータスを得ることが出来ていた
これがあの時の急激なレベルアップの真実である
だが、ここでこの魔法を使えば、カイトは魔物使いとして一生を過ごすことになるだろう
魔物と契約した力を使えば、今後職業が変えられる方法を見つけても変えられないだろう
それを分かっていてもカイトは止まらない
最愛の師を守るためにこの力をふるうのである
「招来せよ!星翔龍ファフニール!!」
空に向けて手を掲げたカイトの手の先の天空に漆黒の魔方陣が現れた
周りに光の粒子を撒きながら、その魔法陣から現れたのは美しい白銀の龍であった
地に降り立つその姿は、ベヒーモスのように2本足で立つ
ベヒーモスの身長を優に越えている大きな巨体の背にあるのは、4枚2対のガラスのように向こう側が透けて見える翼であった
両腕の爪はカイトやアデルの剣とは比べ物にならないくらい鋭く綺麗であった
「キュアアァァ!!」
甲高い声で鳴いた彼女は口からブレスを吐き出し、ベヒーモスの頭部以外を消滅させた
星翔龍ファフニール、討伐目標レベル500越えの最上位の魔物である
その爪は大地を抉り、その翼は嵐を巻き起こし、そのブレスは天空を裂くといわれる伝説の魔物である
唯一「星属性」の魔法と技が使える生物であり、人間も魔族も彼女に勝てるものはいないだろう
頭部だけになったベヒーモスは重力に従い地に落ち、その生涯を完全に終えた
「さて、後は寝ているアデルをどうにかしないとな」
「うおおぉぉー!!」
カイトがファフニールを召喚してベヒーモスを倒して丸2日後、ついにアデルが目を覚ました
だが、目を覚ましたアデルは目の前でこちらを見つめるものに驚き、声を荒げてしまった
意識を失う寸前まで戦っていたはずのベヒーモスが頭だけになり、目を覚ました瞬間にソイツと目があってしまったのだ
絶叫をしても無理はないだろう
ここでアデルは自分の体の異変に気づいた
左腕が生えていて、右の脇腹にあったはずの傷は塞がっていた
その他の裂傷も打撲跡もなくなっていたのである
まるで今までのことが夢だったのかと感じていたが、それは墨だけになった拠点とベヒーモスの頭部、焼け焦げた森の一部と切断されたはずの左腕から下の服がキレイになくなっていたことからあの時のことは現実であることがわかった
「っ!カイト!カイトはどうなった!?」
となるとアデルはカイトの生死が気になってしまった
意識が落ちる寸前、カイトは俺の側にいたはずだった
カイトが側にいないことが不安でしょうがなかった
「ん?なんだこれは、手紙?……っ!カイトか!?」
ベヒーモスの頭にたてられるように置かれたのはカイトの手紙だった
その内容はカイトの秘密と自分のケガが治っていることの理由について書かれていた
自分の本当の名前と生まれた「家」について、2つの究極技能のことについて色々書かれてあった
中でも、魔物と契約して使役して得た回復魔法でアデルを治してくれたらしい
最後には、お世話になったことと、魔物使いとして生きていくと決めたカイトが旅に出るという旨が記されていた
「あの野郎……黙っていきやがって…」
だが、それでもカイトと共に生きていきたかった彼は後悔と自責の念にかられてしまった
あの時こうしていれば、何でこんなことをしたんだと彼の中で負の感情が溢れて止まらない
「ん?…これは?」
カイトの手紙はもうひとつあった
1枚で書ききれなかった分があったのだろうかと思って見てみるとそこには一文だけ、「自分のステータスを見てほしい」とだけ書かれていた
アデルは自分のステータスを表示し確認したところ驚愕してしまった
レベルが2つ上がっているのはベヒーモスと戦っていた影響だとすぐに推測できたが問題は違うところにあった
いくつか技能も増え、なぜか最上位の力を手にしたアデルであったが、そんなところには目は向かなかった
職業が『剣聖』になっていたのだ
自身が憧れ、夢見ていた称号であったその名前はいつしか自分の職業となっていた
アデルは、おそらくカイトが職業が変更できないという壁をぶち壊し、俺の夢を叶える手助けをしたのだということを理解した、理解してしまったのだ
自分の人生を犠牲にしてまでも、カイトは最後に恩を返すことができたのだ
最愛の弟子からもらった命と最大の贈り物を受けた喜びやカイトに会えなくなった後悔といった様々な感情が入り乱れて溢れる涙はしばらく止まることを知らないだろう
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「…本当にいいの?…リヴ…お別れの挨拶しないで……」
白銀の髪をなびかせた、スレンダーで美しい女性が俺にに話しかけた
彼女は星翔龍ファフニールが人に化けた姿で、戦闘時も基本的にはこの姿でいるらしい
年は16歳前後に見えるが、本当は年食っているだろう
おっとりとした話し方は彼女の外見にもとても似合っている
「いいんだよ、師匠だって泣いてる姿は見られたくないだろうしな。それと、今の俺はカイトだぞ。その名前で呼ばないでくれ」
僕たちはアデルから少し離れた、比較的大きな木に身を隠して、彼が目覚め手紙が読むまで待っていた
僕の究極技能の「統べる者」は、配下になった魔物のステータスの1割を得ることができる
その他にもさまざまな能力があるが、中でも技能を配下にした魔物からコピーして自分のものにすることができる
今は、統べる者の扱い方が難しいのと自身が未熟であるため、一部の技能しかコピー出来ないが、この力はカイトにとっての大きな切り札になるだろう
この力で、カイトは星翔龍ファフニールの「聖職者(オラクル)」という、回復魔法の最上位の特異技能をコピーしてアデルを治した
この聖職者(オラクル)には生きているものであれば、どんな怪我でも治すことができる優れものである
聖職者を使って、アデルの魂に書き込まれた魔物使いの適性を剣聖に変更させることができた
星の記憶のおかげで、幸いにも職業について大半を理解していたから成せた技であった
これでアデルの夢であったに優勝して剣聖の称号を得ることも出来るだろう
なにせその大会のもとになった神話時代の勇者一行の職業をその身に宿した、地上で2人目の存在なのだから
だが、このように職業を変えることができるのは秘匿するのはもちろん、むやみやたらと使用するのは注意した方がいいだろう
「…カイトはこれからどうするの?」
「ん?そうだな…とりあえずは人里離れた場所で隠匿の技能を習得しないとな。今の俺じゃあ冒険者になるのも出来ないしな。それが終わったら…やっぱり世界を見てみたいな。色んな場所を見てみたい…ファフニールは「…シエル」…え?」
「…私のことはシエルと呼んで…大切な人からつけられた名前なの。あと、私はカイトに着いていくわ…もう私はあなたの配下だし…」
何でも、シエルはその名付けられた人を探しているらしく、俺とその人の魔力の質が似ているから気になったらしい
今では俺とその人が少なからず関係していると思っていて、俺と旅をすれば見つかると思っているらしい
俺はシエルが探している人に心当たりは全くないが
「わかった、ならもう行こうかシエル」
「…ええ、行きましょうカイト」
こうして俺は再び未来に向けて歩き出すことができた
これが、後に英雄王と称えられ、現代でもこの世界の救世主として後世に名を残した偉人であるカイトと、その最大の相棒として仕えたシエルの出会いであった
彼はその職業ゆえか、多数の事件に巻き込まれていくが、仲間と配下の魔物たちと共に解決していく
彼が訪れた街で作った料理や食べ物、物はその土地の名産品となっていった
彼はその強くも優しき心で、虐げられる存在であった、貧民や奴隷たちを救っていった
彼の生涯は一冊の本にまとめられ、この本を読んだものは皆、冒険者となり世界中を旅するのだと夢みることになった
その本は『英雄王の祭典』と呼ばれ、現代でも最も人気のある書物となっている
ーー第一部 完ーー
読み返してみれば、第一部の半分の文字数がこの話になっていました笑
アデルに関してはだいたい回収できたのですが、勇者とカイトの秘密についての伏線は物語の中盤以降に回収することになりそうです
第二部からは時間が数年飛び、戦闘シーンも多く導入していき、新しいキャラクター(ヒロイン)にも参加して頂こうと考えています
長い目で応援していただければ幸いです
これからも宜しくお願いします(2018年1月13日記載)
今話までの討伐推奨レベルを討伐目標レベルに変更しました(2018年1月21日記載)