第1話 魔物使い
人間が得た新たな力、職業が発現しておよそ1000年余り
職業について分かっていることは以下の点である
1.職業は人間がが10歳のときに与えられる
ここでいう人間とは主に人族だけではなく、エルフや竜族、ドワーフといった多種多様な種族が挙げられる
2.職業は人間のステータスに干渉し補正する
剣士であれば力が強くなり速さが落ちる、魔術師であれば魔力総量が上がるが力が落ちるといった具合にステータスを補正する
3.職業により覚えやすい技能に違いが出る
剣士であれば剣を使った技能が、魔法使いであれば魔術に関する技能が覚えやすいなどが挙げられる
4.現在、職業は変更することは出来ない
過去、1度だけ職業を変えることのできる力を持った人がいたが、現在はすでに亡くなっている。したがって現在ではどんな職業でも変えることは出来ない
これが、今職業について分かっている全てのことである
職業は剣士や魔法使いといった戦闘職だけではなく、農家や鍛冶屋など生産職と呼ばれるものも存在する
そこには当然優劣も存在しており、一般的に職業がいい人ほど才能のある人間として見られる
多種多様な職業が存在するなか、史上最悪と恐れられている職業がある。
『魔物使い』
彼ら魔物使いには人権は存在しない
男は奴隷として死ぬ寸前まで労働させ、女は精神が壊れるまで犯し尽くし国民の前で公開処刑を行う
なぜここまで魔物使いが忌みきられているのかというと、その背景は人魔大戦までさかのぼる
多数の魔族が魔物を配下に人間を侵略していた中、魔物使いという職業が生まれた
人々は彼らを『人の顔をした悪魔』、『魔族の血を引くもの』などと蔑み、人々の魔族への恨みを一身に背負い殺されていった
彼ら魔物使いは人間の怒りの捌け口とされてしまった
その風習は今でも残っており、多数の魔物使いたちが被害者となっていった
蓄積された疲労と心臓を握りつぶされそうな痛みによる影響なのか、制御を外れてしまった究極技能の『星の記憶』が発動してしまった
この「星の記憶」は、異世界の情報を脳内に取り込むことができ、自身を含めた対象のステータスと情報を知ることができる
これにより、膨大な情報量が急激に頭の中に入り込み、言葉にも言い表せないほどの頭痛と胸の痛みでで動くこともできないでいる
だが、不思議と思考はクリアーになり、なぜ僕は今死の危機に瀕しているのかを思い出した
僕はとある人族の国の有名な家の長男として生まれた
生活するにも苦はなく、父と母、妹とともに幸せに暮らしていた
だが、つい五日ほど前のあの日に僕の人生は一変した
僕たちの国では、10歳の誕生日に特殊な魔導具を使って職業を調べるのだ
他の国の冒険者ギルドでは、技能も調べられる水晶型の高位の魔導具もあるのだが、この国は職業しか調べられない
技能を知るためには10歳になってから全員が使えるステータス参照を使えばよいが、第三者が知るには教会に行ってお金を払い調べてもらう必要がある
僕はあの日、自分の10歳の誕生日を迎えた日に謁見の間にて職業を調べることになった
いつも以上におめかしをして、身なりを整えた僕は陛下の前にいき、膝をついた
その後、目の前に出された魔導具が僕の人生を地獄へと突き落とすことになるとは思わなかった
僕には夢があった
幼い頃からの宝物である「英雄伝説」読むたびにその夢を思い出す
伝説の英雄である勇者のように、魔物たちから人々を守る
賢者になって人々が安心して暮らせる魔法を作る
錬成師になって生活が豊かになる魔導具を作る
剣士として陛下の横で戦う
その中でも僕は、この世界を見てみたいと考えていた
幼い頃から僕の世界はこの「家」だけであった
庭で剣の練習、ホールで作法の練習、書斎で本を読むなど、僕はこの家から出たことはなかった
それでも不自由はなかったし、両親は厳しいながらも大変優しく、妹とは仲良く一緒に暮らしていた
使用人から料理を習ったり、護衛の騎士の方と剣を打ち合ったりしたりもした
それでも、高い壁に阻まれた鳥籠のような世界ではなく、外の世界を見てみたかった
だから僕は冒険者になり、世界を見て、強くなってからこの家を都合と考えていた
『魔物使い』
魔導具から出てきた紙に書かれていたのは、無情にも僕の夢を破壊した
夢だけではない、人生も家族も中のよかった友人たちも全てがこの職業に奪われてしまった
幸いにも、この場には陛下しかいなかったため他の人に僕の職業がばれることにはならなかった
茫然自失していた僕だったが、国王の動きは早かった
あろうことか彼は僕を自室に押し入れた
しばらくしたあと、陛下は少しの保存食を持って僕の前に現れて手渡し、最高級の魔導具を使った
その力は転移系の魔法であったと分かったのは目が覚めて少しした後であった
陛下の裁量で僕は奴隷に落ちることを処刑されることもなくなって安堵したが、家の中でのうのうと過ごしていた僕にこの場所は過酷すぎた
辺りを見ればここが森の中であることが分かった
魔族がいなくなってから魔物の絶対数もそれに伴い減少したが、それでもかなりの数の魔物がいる
この世界で安全な場所なのは高い城壁に囲まれた、各国の王都ぐらいである
他の町は冒険者や衛兵と呼ばれる町の治安を守る者、王国専属の騎士などが魔物を討伐して町を守っている
森は魔物の棲みかであり繁殖場所でもある、人間にとって非常に危険な場所である
そんな場所に転移させられたということはきっと僕は見捨てられたのだろう
幸いにもすぐに洞窟を見つけたおかげで、今日まで魔物に見つかることはなかった
だが、2日ほど前に非常食が尽きてしまったのだ
もちろんこの5日間なにもしていなかったわけではない
水辺を見つけることもできたおかげで飲み水に困ることはなかった
だが、どうしても食料を得ることが出来なかった
木の上に果実が成っているのが分かるのにそこまでたどり着けない
川に魚が泳いでいるのにそれをとる術を知らない
動物がたまに遠くにいるのが分かるが、すぐに逃げられてしまう
だから僕は食料を得ることができなかった
毎日少量の非常食を食べて飢えをしのいでいたが、それが切れたこの2日間はずっと空腹に耐えてきた
そして今日、洞窟に生えていたキノコを食べてしまった
危険な可能性があったのは分かっていたが、空腹に負けて食べてしまったのだ
それが「ドクニシン」だと分かったのは星の記憶が「鑑定」してからである
ドクニシンは毒キノコの一種で、食べれば二時間程度で死に至る
強烈な吐き気と心臓をわしずかみにされるような激しい痛みが特徴である
このドクニシンは青酸カリの何倍もの強力な毒素が含まれており、解毒するには4級以上の解毒ポーションか、最高位の僧侶に治してもらうしかない
だが、4級以上のポーションは非常に希少で持っているものの少なく、値段も高いため一般人が得ることは難しい
仮に今の僕を見つけてくれた人がいたとしても、毒を解毒する術はない
そのため、ドクニシンを食べてしまった僕は死ぬのを待つしかないのだ
「(はは、…ここまで頑張って生きて、結局死ぬのか)」
鳥かごのような我が家、そこから出て見た初めての景色は地獄であった
生と死が隣り合わせの魔物が蔓延る森の中は僕の憧れていた世界ではあるが、ここまで過酷なものだとは思わなかった
もう夢も生きる希望も失ってしまった
「死にたく…ないな……いろんな、世界を見てみたかったな」
確かに僕は夢も希望も失ってしまった
生きるのがこんなに大変で、苦しいものなんて思ったこともなかった
でも、魔物使いになってしまった自分にも世界を見て回る権利くらいあると思った、思ってしまった
大空を羽ばたく鳥のように、この広大な世界を目で見てみたかった
もうからだの痛みも感覚も無い
あるのは死への恐怖だけであった
闇に沈んでいく意識のなか、僕が最後に見たものは白銀の髪を風になびかせる美しい女性であっ
今年最後の投稿になります
皆さまよいお年を(2017年12月30日記載)