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学園の暴君2

生徒会室で待っているトラブルとは。

有能だからこそ許される傲慢もある?!

「会長、大変です! すぐに生徒会室に来てください!」


 危急を告げ飛び込んできたのは、生徒会副会長を務める二年の花菱楓だった。

 よほど慌てて走ってきたのか、長い黒髪が少し乱れ、色白の彼女には珍しく頬がほんのりと上気していた。


「どうした、空挺部隊でも攻め込んできたか?」

「違いますが、同じぐらい大変です! 生徒会室でテニス部と手芸部が揉めて一触即発で、とにかく会長に仲裁をして頂かないと喧嘩になってしまいます!」

「なるほど、分かった。そういうわけで俺は行きますよ、桃山先生」


 筆記用具を机に突っ込んだ月斗は立ち上がる。それを見て桃山先生も渋々ながら頷いた。


「仕方ありませんね。終わったら戻ってきてプリントの続きですよ」

「それならもう終わった。お手数ですが提出はお願いしますね」


 解答し終わった7枚のプリントを机に残し、月斗は教室を出て行く。納得いかない様子の桃山先生が背後で黒板の落書きを消し始めていた。

 花菱の後に続いて月斗は、校舎の3階にある生徒会室へ向かった。その道すがら花菱が何があったのか説明をしてくれた。


「二学期からの部室調整の件で呼び出していたのが、偶然鉢合わせしてしまって……」


 まるで自分のミスだとでも言うように副会長は申し訳なさそうに言った。部室とはすなわち領土であるから、部活間のパワーバランスを表していると考える生徒もいる。その配分は問題になり易いから調整にあたっては、部長を個別に呼び出して要望を聞いていた。


「別に気に病むことはない。いつものようにテニス部の部長が時間を守らなかったせいだろ。それで、どういう感じだ?」

「テニス部が手芸部へ少々嫌味なことを言ったのがきっかけで、それに手芸部が激しく言い返して、さらに部室論争に発展してしまって……」

「世界にあまねく存在する紛争は、だいたいそうやって始まるな」


 月斗が適当な感想を言っているうちに、廊下の先に生徒会室が見えてきた。部屋の中では両者がよほどヒートアップしているのか、言い争う声が外まで聞こえていた。


「だから、なんで部員が減った手芸部が一部屋まるまる使ってんだよ!」

「部員の数が正義じゃないでしょ、幽霊部員数ナンバーワンのテニス部さん! そんなに広い部室が欲しけりゃ、墓場から部員を連れて来なさいよ!」


 先導していた花菱が生徒会室のドアを開け月斗に道を譲った。開かれた内側から溢れるように、視線がこちらに殺到した。


「草薙会長!」


 厳しい表情が張り付いたテニス部と手芸部の両部長、二人に詰め寄られていたのだろう書記の殿田が助けを求めるように口を開いている。月斗は意識してゆっくりと生徒会室の中へと入っていった。


「そうだな、まずはテニス部から話を聞こうか」


 月斗は昂ぶった両者をなだめるように、出来るだけはっきりとした口調で言った。人間というのは相手の話すスピードに無意識に影響されるものだ。


「あ、えっと、うちの部は今年の新入部員が多くて部室が手狭なんすよ。なのに、人数の減った手芸部が部室棟の部屋を1つまるごと使ったままってのはおかしいと思って。家庭科の準備室を利用するとかあるじゃないっすか。そっちに移動すれば、空いたとこをうちの部で有効利用できると思うんだけどさ」


 言いがかりといえばそれまでだが、テニス部全体で同じような不満が溜まっていたことだろう。それがちょっとしたきっかけで、声に出てしまったのだ。

 無理やり解散させることもできるが、それではしこりが残ってしまう。この場で納得させて両部活に遺恨が残らないようにすべきだ。


「なるほど、それで手芸部の反論は?」


 話を聴き終わった月斗は、テニス部部長を憎々しげに睨んでいた手芸部部長を促した。

 ようやく発言の許しを得た手芸部部長は、敵の前進を押し返すように、早口でまくし立て始める。


「先輩が卒業して部員の数は減ったけど、うちは伝統ある部活ですからね。ポンポンと玉を打ち合ってるだけの部活と違って、これまで先輩方が積み重ねてきた作品とか道具とか型紙とか編み見本とか、貴重なものがいっぱいあるのよ!」


 手芸部部長はどうだと胸を張って言い返すが、テニス部部長はまるで納得出来ないようだ。


「伝統がなんだって。そんなこと言ったら野球部が部室棟を全部使っちまうことになるじゃねえかよ。言っとけど、今年のテニス部はインハイに出て、野球部以上に実績があるからな。ちまちま縫い物やってる手芸とは比べ物にならないんだよ!」

「何も知らないのはそっちでしょ! 手芸部だって作品展に出品したりしてるわよ!」


 お互い一歩も譲らず睨み合う両部長を前にして、副会長の花菱も困ったとばかりに頬に手をあてこちらを見る。

 月斗は小さく目配せをすると、おもむろに両部長にむかって話しだした。


「両者の言い分は理解した。テニス部が個人と団体の両面で活躍していることは知っている。生徒会長として実に嬉しい事だ」

「さすが会長! うちの言い分が正しいってことだよな」


 嬉々とするテニス部部長を横目にした手芸部部長が悔しそうに表情を強張らせた。


「まだ話は終わっていない。確かに手芸部の活動は目立っていないが、ケア施設へ訪問したりとボランティア活動に積極的だ。あまり生徒たちには知れていないが、教師や学校関係者に評判が良い。これはインターハイ出場と遜色のない成果だと俺は考える」

「会長、私たちみたいな地味な部活のことまでちゃんと……」


 胸をなでおろした手芸部部長が、長い指先で目元を拭った。


「双方ともに評価すべき点が存在している。ならば生徒会としても、それに応えることが義務だろう。川岡さん、例の改修計画を」


 無能どもの諍いなど我関せずと作業を続けていた川岡タキエに指示を出す。

 タキエはアンダーリムのメガネ越しにこちらを一瞥すると、無言のままノートパソコンの画面をこちらに向けた。

 そこには2階建ての建物の完成イメージ図と実際の図面、さらに計画書のドキュメントが並んでいた。タキエは別の作業しながらも話の流れ聞いていたのだろう、各ウィンドウが見やすく配置されている。


「部室棟改修計画書?!」


 ドキュメントの題名を読んだ手芸部部長の声は少し上擦っていた。月斗は頷くと簡単な説明を始めた。


「まだ正式に発表されていないが、夏休みを利用して部室棟をおよそ改修することが決っている。新しく増築される部分で使途が未定だった部屋をテニス部の部室として与えよう」

「えっ! マジでいいんすかっ!」


 テニス部部長は目を丸くして驚いた。本当に新しい部室が手に入るとは思っていなかったのだろう。


「喜ぶのは早いぞ。テニス部の活躍を押し出して手芸部に迫ったのだから、次の大会でも結果を出せ。あまりにも情けないことになったら、いつでも部室の割当を変更するからな」

「はいっ! おれら絶対に勝ちますよ!」


 現金なものでテニス部部長は調子よく胸を叩いて見せた。安堵とともに隣を少し羨ましそうに見ている手芸部部長の方へ、月斗は顔を向けた。


「それと手芸部は和裁をやりたいと予算申請していたな。部活の予算ではたいした反物は買えんだろうから、うちの屋敷で余っている物でよければ提供するがどうする?」

「是非お願いします! これで一人一着ずつ浴衣が作れます」


 喜びの声を上げた手芸部部長が拝むように、がっしりと手を組んだ。

 それぞれ成果を得た両部長は、5分前とは打って変わったにこやかな表情で生徒会室を出て行った。生徒会室はようやく放課後の落ち着きを取り戻した。


「さすが会長、見事な解決でした」


 胸をなでおろした副会長の花菱が、お茶の準備を始める。月斗以外の一年生役員の仕事だが、彼女なりのねぎらいなのだろう。


「製薬会社の特許裁判よりはずっと簡単な調整だ。大したことじゃないから、あまり褒めるなよ、恥ずかしい」


 恥ずかしさの欠片も見せない月斗が冗談めかして言うと、タキエ以外の全員が声を出して笑った。


 その穏やかな空気に合わせ笑顔をみせる月斗だったが、その視線は窓の外に向けられていた。

 一瞬前までそこにあった気配は消え、窓から見える木の小枝が上下に大きく揺れていた。

月斗に迫る謎の影!

次回は明日の18時頃に投稿予定です。


【宣伝】講談社ラノベ文庫より、高橋右手の名義で『白き姫騎士と黒の戦略家』というファンタジー戦記小説も出しています。

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